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SIDE 晶
しおりを挟む「龍洞会長に会わせてくれ!こんなの何かの間違いだ!!」
先程からずっと俺の肩に掴みかかり喚いているのは櫻川会長
「何かの間違い…ですか?あの刃物は本物でしたよ?」
馬鹿にしたようにフッと笑えば、苛ついたのか手に力を込めてきた
流石に痛いんだが…
「その手、離していただけますか?」
そう言って、櫻川会長の手首を掴んだ璃一は普段の幼さや可愛らしさを引っ込めて、隙の無い、相手を一瞬にして殺してしまいそうなオーラを放っている
ボディーガードと言うより殺し屋に近いかもしれない
記憶は戻らなくても、これが今までの璃一だったんだろう
セイがナイフで襲われた時は静流の速さに追いつけるほどの瞬足で腕も申し分ないが……櫻川会長の娘を取り押さえた時、急所である首に刃物を押し当てていたのはどうしたものか…
指示がなければ勝手に殺したりしないだろうが、それはセイが刺されていなかったからだろう
もし刺されていたら、制止する前に首をかき切ってしまっていたと思うと今更ながらゾッとする…
この会場にはあの人達が来ているんだから、いくら龍洞財閥のボディーガードであってもこの人数に箝口令をしくのは難しいだろう
そういう意味でも、セイが刃物で傷付けられなくて良かった
さて、静流が戻って来るまでこの人をどうするか…
璃一に手首を掴まれた櫻川会長は相当痛いのだろう汗をかき苦悶の表情を浮かべている
「は……はなせ………」
「僕は龍洞副会長のボディーガードですので。怪我をさせる可能性のある者を排除するのは当たり前の事でしょう?」
「…っ!!」
璃一がもっと力を込めたのか俺の肩を握っていた櫻川会長の手が離れた
「璃一、ありがとう。もう離していいよ。」
俺がそう言うと璃一はすぐに手を離し、ポケットからハンカチと小さな除菌スプレーを取り出し自分の手を消毒していた
………櫻川会長は雑菌か?バイ菌なのか??
「晶、少し良いですか?」
旬が来て、耳元に顔を近づける
少し屈んで耳を澄ます
「そろそろ静流が戻ってきます。セイ君の紹介は最後に、他は予定通りです。」
「わかった」
頷くと旬は戻ってきていた光一達に合流し何やら話している
「櫻川会長、私達はこれで失礼します。もうすぐ龍洞会長が戻られますのでこの場でお待ち下さい。璃一、行こう。」
櫻川会長に笑顔を向け、璃一の腰に腕をまわしそのまま予定されていた位置につく
「……晶?」
「予定通りだそうだ。側から離れないようにね?」
「なるほど。任せて。」
璃一はニッコリと笑った
『皆様大変お待たせ致しました。先程ご紹介出来ませんでした人物は後ほどご紹介致します。
では皆様、前方をご覧ください。』
旬の言葉に会場にいる人達の目が前方に現れたスクリーンに注目する
会場の前方だけ電気を落とし映像が流れ始める
『この度、橘副会長が就任し龍洞会長の仕事を引き継いでくださった事で、以前から着手しようとしていた事業を始める事ができるようになりました。
イギリスにあるブランド『W.o.F』との独占契約を結び、日本で発表する作品は全て龍洞静流がプロデュースし販売致します。
その他『W.o.F』の創設者兼デザイナーである長田翔馬さんから『W.o.F』の親元である『Shoma Box』と業務提携を結び、持ち株の四分の一を龍洞静流へ譲渡したいと提案を受けました。』
スクリーンには長田翔馬のプロフィールや会社概要が流れるなか、会場からはざわめきが聞こえてくる
それもそうだろう
長田翔馬は才能溢れる経営者で、どんな会社であっても業務提携を断ってきた
株も自分の信頼できるパートナーや役員達で四分の三を持ち、他人に発言権を渡さない徹底ぶりである
そんな長田翔馬が自ら業務提携を提案し自分の持ち株の四分の一を譲渡したい等と何があったのかと誰もが思うだろう
『このお話を龍洞会長はお受けする事と致しました。そして、前龍洞会長の頃より業務提携および業務委託しておりました櫻川財閥との契約をこの場を持ちまして解除させて頂きます。
理由は櫻川会長がよくご存知だとは思いますが……。
櫻川会長個人が法を犯し、龍洞財閥を乗っ取ろうと計画していた事が判明致しました。
我が財閥は個人とは言えど、財閥トップが乗っ取りを計画し幾つもの犯罪を犯していた櫻川会長への信用は地へ落ちました。
契約書にもある通り、我が龍洞財閥は櫻川財閥への全ての融資、業務委託、人員派遣などの契約全てを解除、損害賠償請求を行います。』
チラリと櫻川会長に目を向けると、間抜けにも口を開け固まっている
まさか自分がしてきた事がバレていて、こんな所で暴露され、契約は解除、損害賠償請求までされる
それだけではなく長田翔馬と業務提携まですると言われれば、そりゃキャパオーバーにもなるだろう
会場もザワつきが大きくなり、櫻川会長からは自然と人が離れていきドーナツ型に空間が出来ている
消されていた電気がつけられるのを合図に俺達は動き出す
「璃一、行こうか」
「うん」
璃一を連れ舞台へ上がる
舞台袖から、静流とセイ、光一も出てきた
「櫻川会長、貴方が警察に捕まる前に一つ提案をしよう。どうするかは貴方が決めればいい。」
静流はけして叫んではいないのだがよく通る声で舞台から距離のある位置に居る櫻川会長へ話しかけた
櫻川会長は声をかけられて初めて静流が舞台に現れたことに気づいたようで驚いた顔をしている
「罪を犯したのは櫻川会長であって、櫻川財閥で働いている人達は関係がない。
しかし、貴方が逮捕されれば株価は暴落、取引先も手を引く所が多いでしょう。
そうすれば皺寄せは全て従業員達に行く。まずは下請け会社の首を切るでしょう。もしかしたら展開している会社や店も畳まなければいけなくなる。
大きな会社が傾くということは、それに関わる会社にも多大な影響を及ぼす。
何千、何万人の生活がかかっている事を貴方は理解してますか?
私からの提案は、今この場を持って会長職を辞任し後継者へ櫻川財閥を任せると言うことです。」
「…後継者………?」
「ええ。お調べした所、貴方の犯罪に手を貸した者は櫻川財閥には居ないようですし櫻川財閥の役員の中か、あるいは親族の中から新たな会長を今すぐ選んでください。
そうすれば、…まぁ誰を選ぶかによりますが、櫻川財閥とのお付き合いは考え直しますよ。」
静流がニッコリと微笑むと
「ならば親族から選ぶ!!我が櫻川財閥は代々親族が跡を継いできたんだ!!そうだ……美怜だ……美怜を後継者にする!!」
櫻川会長が叫ぶ
「貴方は…馬鹿ですか?いや、馬鹿なんでしょうね。」
静流はため息を吐いた
会場に居る招待客も頭がおかしいのか?とか、櫻川も終わったななどと口々に囁きあっている
「いいですか?貴方の娘はこの会場で先程皆さんの目の前で彼を刃物で襲ったんですよ。
立派な殺人未遂です。ましてや刃物を持ち込んだのですから計画的犯行でしょう。
犯罪者を後継者に据える?あり得ませんね。
貴方は櫻川財閥を潰すおつもりですか?」
「あっ……あれは………正当防衛だ!そいつが美怜にヤキモチを妬いて…!刃物もそいつが!」
「救いようがないですね。まず貴方の娘の何に、彼がヤキモチを妬くんですか?それに、彼は刃物なんて持っていませんでしたよ。彼の服は私が着せましたし、その後もずっと隣りにいましたからね。刃物を隠し持つ隙なんてありませんでした。
……もしかして、彼を襲わせたのは貴方だった…とか?娘に刃物を渡し彼を殺すように指示したんですか?」
「そんな指示していない!!」
「では彼女の単独犯だと?」
「そっ………」
あーあ……
流石静流だ
もし櫻川会長がYESと言えば娘は計画的犯行で、殺人未遂罪で犯罪者の烙印が押される
でもNOと言えば、自分が指示したと言う事になり自分の罪が重くなる
父親が指示し、無理矢理襲わせたとして娘の罪を軽くするのか、娘を見捨てて自分の罪を軽くさせるのか
どちらをとっても櫻川会長にとっては地獄だろう
静流にとって主犯がどっちかなんて関係ない
櫻川会長が娘を見捨てれば、その事実を娘に突き付けその反応を楽しみたいだけ
櫻川会長が娘を庇えば、櫻川会長の罪が重くなり、どちらにしろ親子共々犯罪者だ
「………………私………は……指示していない……」
「ほう?では娘がこっそり刃物を持ち込み、彼を襲ったと?」
静流の目が弧を描く
招待客達は櫻川会長に目が行っているため静流の表情には気づいていないようだが、この顔は麒麟会の会長としての顔だ………
「…そうだ………娘は龍洞会長の妻になる為に常に必死だった………」
「あぁ……噂は聞いてますよ?私に近づく人間を男女共に排除していたようですね?」
「そうだ………だから今回も排除しようと、そいつの事を探偵を雇い調べていたが、探偵は何一つ情報を得られなかった……その事で余計娘は腹を立てていた……」
「そうですか。では娘さんは彼を襲うだけではなく、他の方にも何らかの制裁を加えていたと?そんな方を後継者に据えるのは無理ですよ。誰も納得しませんし、誰もそんな櫻川財閥と取引したくありません。
後継者を親族にするのでしたら……息子さんに跡を継いで貰ったらいかがですか?」
「……息子は駄目だ。」
櫻川会長は不快感を顕にした
櫻川会長には息子と娘がいる
本妻の子が息子で、本妻とは政略結婚だったらしいが既に離婚済み
妾の子が娘の方で、今は本妻に収まっているそうだ
そして息子は、父親の事が心底嫌いで、この父親の跡など継ぎたくないと縁を切り海外へ
現在息子は母親の性を名乗り櫻川の性を捨てた
「駄目?彼ほど適任者は居ないでしょう?伝手もなくパートナーと2人で海外へ渡り、今では貴方よりも有名な経営者なんですから。」
そう、その息子の名前は長田翔馬
龍洞財閥が今回業務提携を決めた男だ
「あいつはもう縁を切ったやつだ。櫻川財閥とは一切関係ない。」
「そうですか?ですが、櫻川財閥の役員達は長田翔馬に会長に就任して欲しいと声を上げてますよ?何やら貴方、会社の方でも不正を行っていたみたいですね?
近々株主総会で貴方の会長を解任する動きがあるんですよ。
その後の会長に、長田翔馬を押す声が大多数で既に長田翔馬へ話は来ているんです。」
「まさか!!そんな………」
「信じられないなら本人に聞いてみてはいかがですか?」
静流が舞台袖に合図を送ると、パートナーを伴った長田翔馬が出てくる
「…何で……お前が…………」
櫻川会長は驚きに一歩下がった
「櫻川会長、貴方は会社の金を不正に利用しただけでは無く、色々な犯罪に手を染めたらしいですね。
昔から腐った人間だとは思っていましたが、ここまでだとは……貴方の尻拭いはとても嫌ですが、従業員に罪はありません。
皆さんの前で、僕に会長職を譲り今すぐ引退してください。」
「お………お前なんかに……櫻川は渡さない!!」
「そうですか。それならそれで構いませんよ。」
あまりにもあっさりした長田翔馬の態度に、先程まで睨みつけ怒鳴っていた櫻川会長は怪訝な顔をした
「わかってないですね?僕は別に櫻川財閥なんて要らないんですよ。ただそこで働く人達から助けてくれと頼まれただけなんです。
貴方が僕を会長に指名しなければ多くの取引先会社が離れていき、多くの従業員が露頭に迷うだけです。
貴方の個人的な気持ち一つで露頭に迷わされる従業員はとても可哀想ですが…
龍洞会長、橘副会長、この人との話は終わりですので今日はこれで失礼します。
皆様、本日はお先に失礼します。
また改めて皆様にはご挨拶させて頂きます。」
ペコリと一礼した長田翔馬はパートナーと共に戻って行った
それを見送った静流が口を開く
「…本当に良かったんですか?彼を後継者にしなくて。下手をすれば櫻川財閥は破綻してしまいますよ?」
「あいつに譲るくらいなら潰してしまった方がスッキリする」
櫻川会長は嫌な笑みを向ける
「そうですか。だそうですよ、警察の皆さん、櫻川財閥の役員並びに筆頭株主の皆さん。」
「…は?」
ポカンとした間抜け面を再度披露した櫻川会長は辺をキョロキョロ見やる
「この会場には居られませんよ。警察の皆さんは別室に、櫻川財閥の役員と筆頭株主の方は櫻川財閥の会議室でこの会場の映像をリアルタイムでご覧になっています。
第三者として我が財閥の役員も総会を開いている会場の大スクリーンで録画しながら見守って居ます。」
そう、俺達は総会が終わってからすぐに場所を移動した
静流の別荘には麒麟会の傘下の組長達が、パーティーをしながらこの会場の映像を見ている
そしてこの会場の別室には、吾妻会の時にお世話になった警察が既に到着し、最初から見ていた
招待客には事前にこの事は伝えられていた
普通ならそんなパーティーには参加したくないものだろうが、あの龍洞会長が大捕物をするとあって、それを見たい企業のトップは喜々としてこの会場のエキストラ役を買って出たのだ
セイが襲われた時もこういう裏があった為にすぐに場が静まったと言ってもいい
「失礼しますよ。」
会場のドアが開き、数人の男が入ってくる
「櫻川財閥会長、櫻川裕二。貴方を逮捕します。
罪状は合計16にも及び殺人罪、殺人未遂罪、人身売買、不法薬物の輸入など多岐にわたる。
貴方には黙秘権がありますが、既に証拠も揃ってますし、共犯者の自白もあり、黙秘したところで貴方から新たに聞き出したい事は一つもありませんので、好きにしてくださって構いません。
貴方の娘は…少しお話をお伺いしてから署へお連れしますのでお先に署へお送りしますね。」
にこやかに話すのはあの時の刑事だ
部下に手錠をかけさせ連れて行かせる
「では龍洞会長、パーティーが終わるまで我々残りの者は別室で再度待機させて頂きます。」
「はい、よろしくお願いします。」
刑事達は一礼し会場を出ていった
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