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SIDE セイ
しおりを挟むあっという間に裏切り者達は連行されていった
静流が言った通りに動いただけで、本当にその通りに事が進んだ
何通りも先を見越していると言うのは本当の事だと思い知らされた
でも…今からはどうなるか………
不安を押し殺すように両手を握る
「大丈夫だよ」
顔を上げると、壇上で指揮を取っている穂高さんを見ながら静流が爽やかに微笑む
「セイは心配しないで、自分の本番の時に俺の隣で幸せそうに微笑んでいて。そしたら全て上手くいく」
静流には見えているのだろうか?この後の事も、その先の未来まで
『皆様、先にご連絡させて頂いた様に今回の抗争は吾妻会を潰し新たに関西連合会を創り上げようとしていた吾妻会の古株5名と先程逮捕された6名が共謀し行った事です。』
ザワついていた会場が静まり返る
『この様な事が起こったのは、力の無い者が血筋と言うだけで後継者となる悪しき習慣のせいだと俺は思います。ヤクザにはなりたくなかった者が長男だからと言って無理矢理跡を継がされたり、長男では無いからと跡を継ぎたくても継げなかった者。
この問題で様々な組が内部争いを行ってきた。
俺はこの悪しき習慣を無くそうと考えています。
麒麟会のように、本当に力がある者がトップに立つ。それがどこの組の者であっても血筋では無く皆が選んだトップを立てる事が、これからの我々には必要だと考えます。
警察の取締は一層厳しくなり、表のシノギでさえ目を光らされている。
我々が一枚岩とならなければ、この先西日本の極道の未来は無いでしょう。』
そう、この事は静流も言っていた
だからこそ穂高さんに早く跡を継げと何度も言っていたらしい
『そのことを踏まえて、俺が吾妻会のトップに立つのならまず吾妻会を解散させます。』
穂高さんの言葉に会場からどよめきが起こる
『理由は、今の吾妻会は所詮吾妻組の人員で役員が埋まっています。それでは他の組の話しは上に通らなくなる。それから、俺の次にトップに立つのは吾妻組の者では無いかもしれないのに、吾妻会と名乗るのは可笑しいでしょう。
どの組の者がトップに立っても良い様に名前の変更をしたいと考え、それならばいっそう1から創り直した方が早いと思いました。
現在海外から多くの同業者が流れ込んで来ています。
抗争を吹っ掛けられるのも時間の問題だ。
その時は麒麟会と手を組み闘うことになるでしょう。』
穂高さんがこちらをチラリと見やると、静流は俺の手を握ったまま壇上へ上がる
「穂高の言う通り、現在確認されているだけでもチャイニーズマフィアとイタリアンマフィアが日本で商売を始めようとしています。確認が取れていないものでは5カ国が偵察に来ているようです。
西と東、力を合わせるのも時間の問題だ。」
静流が話し出すと会場の空気がピンと張り詰めた
「俺は穂高が西日本のトップになり、俺の兄弟として東西南北を纏め共に闘いと思っている。
穂高が親友であり五分の盃を交わしたからトップに立ってもらいたいわけではない。
穂高以上に適任者が居ないと思っているからだ。
……しかし俺が知らないだけで、西日本を穂高以上に纏め上げれる者を知っているなら教えて貰いたい。」
静流は会場を一周見回すが、誰もが発言することなく首を振ったりしている
「………穂高以上の者はいないという事だろうか?」
静流が俺に尋ねてくる
「……穂高さん以上の者が居ないとしても、トップになる事に賛成かどうかはまた別の問題でしょう。自身がトップに立ちたい者や、トップに立たせたい者がいる者…単に穂高さんがトップに立つ事を認めたくない者。
そういう方が居ないとも言い切れません。」
「セイにそう言われると、昔言われた事を思い出すな。」
穂高さんは苦笑いする
「昔言われた事って?」
「マスターの部下は可哀想だ、俺なら絶対マスターの下にはつきたくないってさ。」
穂高さんの言葉に静流はクスリと笑う
「いやいや、マスターの人使いの荒さは酷かったでしょう。」
「そうかなぁ?」
「あ…あの!そちらの方は??」
会場から声が飛ぶ
「あぁ、失礼。この子はセイと言います。セイの事は後ほど紹介しましょう。
ただ、セイの言う事は正しい。穂高では無く自身が、又は推薦したい者が居るなど考えている者も居るでしょう。」
静流がそう言うので、俺は閃いた事を提案してみることにした
「じゃあ今から選挙しませんか?匿名で、今後のトップに立てたい者の名前を書くんです。自身の名前でも良いし、推薦したい者の名前でも構わない。匿名だから誰が書いたかなど分かりませんから嘘偽り無く書けるでしょう?」
俺がそう言うと二人は頷いた
『セイの提案に賛成の者は挙手をお願いします』
穂高さんが言うと会場の皆が手を上げた
急いでホテルの人へ紙とペンを借りて、皆が記入する
それを不正が無いようにホテルの人が箱に回収して行った
「ーーーーーーーー吾妻穂高。」
全ての紙を読み上げた静流が顔を上げる
読み上げられた紙には全て【吾妻穂高】の文字だった
…一応裏切り者の取り零しは無かったようだな
この選挙の本当の狙いは、トップを誰にするかではなく他に穂高さんをトップに立たせたくない奴を炙り出す為に提案したものだ
二人もそれが分かっていたのだろう、口の端を微かに上げた
「では満場一致で、西のトップは吾妻穂高。組織名及び組織人事は穂高に一任し、穂高に選ばれた者は強制ではないので、穂高の下へ来るかそのまま組に残るか考える様に各自組の者に伝えてください。」
会場では大きな拍手が響いた
『では次にこの子の紹介をしましょう』
穂高さんはマイクを静流に渡した
いよいよだ…ちょっと緊張してきた………
『皆さんに紹介します。彼は橘星と言って私の婚約者です。彼は関西にある橘組の長男晶の養子です。』
静流の言葉に会場からどよめきが起こる
そう、大阪に来る前に発覚したのだが俺は橘組に引き取られはしたが養子縁組はしていなかったらしい
橘組では組長の処分が間近に迫り、財産分与の為組全体がバタついていた
そんな時百合さんとお茶をしていた俺は、百合さんから養子縁組の話を聞かされたのだ
組長の事だから養子縁組をしてないのでは無いかと
調べてみると百合さんの言った通りで、俺の戸籍は俺を産んだ女の家の籍にあった
百合さんから、自分と養子縁組をするかと聞かれたが兄ちゃんが自分の籍に入れると言い張り、俺は兄ちゃんの籍に入ることになった
『橘組を訪れた際、セイと出会い一目で恋に落ちました。俺の生涯に無くてはならない存在だと一目でわかったんです。セイにプロポーズをし、セイも俺を受け入れてくれました。』
静流の幸せそうな笑みに皆が釘付けになる
『これからセイは公私共に俺のパートナーとなりますので、皆さんよろしくお願いしますね?』
静流の言葉に俺は一礼する
会場から割れんばかりの拍手を贈られ、無事報告も終わったのだと胸を撫で下ろした
会合は無事終了した
翌日吾妻会が解散し、元吾妻会の組員が一斉逮捕されたとテレビや新聞で大々的に報じられた
吾妻会の事は穂高さんが動き、俺は元々予定されていた静流の仕事に連れて行かれた
仕事相手と会う度に婚約者として紹介される
相手は驚いたり、祝福したり、俺に敵意を向けたりと様々な対応だったが、敵意を向けた者は旬さんがリスト化していた
何の為のリストかは敢えて聞かなかった
聞いたら怖い答えが返ってくる………絶対に………
兄ちゃんと璃一は大阪観光を満喫したようで帰りの飛行機でも常時楽しそうにしていたらしい
俺は静流と部屋に籠もり、まぁ……うん、ひたすらイチャイチャしてた
関東へ戻ったら次は麒麟会の会合があるから、お互い忙しくなる
こうやってのんびりできるのは今しか無いかも…と思うと静流から離れ難かったのだ
つい甘えてしまい、静流のスイッチをオンにしてしまったらしく美味しく戴かれた
飛行機を降りる時には、行きよりも腰が立たず静流に抱き上げられ飛行機を降りる羽目になった
皆にニヤニヤ笑われて、恥ずかしすぎてずっと静流の肩に顔を埋めておいた
そのまま車に乗り込み気づいたら眠ってしまっていた
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