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大阪の親友
しおりを挟む大阪からの客が橘組に到着したのは夜7時を回った時だった
迎えに行っていた旬と光一が皆が揃う離へと大阪の客を案内した
ガチャっとドアが開き、旬とその後ろからマッチョな背の高い男と、どう見てもヤクザにしか見えない風貌の男、光一が入ってきた
晶と榊は立って出迎えた
「あれ?静流はどこですか??」
旬が部屋をの中を見回す
「あー……セイと話があるって出ていった。先に説明しとくようにってさ。」
「はぁ……セイ君なら仕方ないですね。」
旬はそう言って、皆に座るよう促した
「まずは紹介します。こちらは西日本を纏める吾妻組の若頭、吾妻穂高。静流の幼馴染で親友であり、私や光一の大学時代の悪友です。穂高と悪友になったばかりに、私と光一は静流に目を付けられこの世界に入りました。」
「おいおい、まだ根に持ってんのかよ。」
穂高が苦笑いする
「あの時の恐怖は忘れる事はできませんからね。」
「まぁ、ストーカーもビックリな程のストーキングぶりだったな。」
光一も頷く
「しゃあーねーだろ?あの誰に対しても無感情な静流が他人に興味持ったんだから。お前達は異例中の異例、俺も静流に手を貸すよ。」
静流の見事なまでのストーキングは穂高の補助もあっての事だった
「まったく。本当に似た者同士ですね。で、こちらが橘組の若頭、橘晶とその右腕である榊神威。瀧本が探していた神威ですよ。」
「初めまして。瀧本さんにはいつもお世話になっています橘晶です。本日は急におよびだてして申し訳ありません」
晶が一礼する
「あんたが晶か。滝本からも静流からもよく話は聞いていた。早く会ってみたかったからいい機会だったよ。よろしくな。」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
和やかな2人とは対象的に、滝本は榊を睨み、榊は一切瀧本を見ようとしない
「今回の件、静流から軽くは聞いているが詳しい話しを聞かせてもらえるか?瀧本と榊の件はそれが終わってからで。」
そんな2人にため息を吐きつつそう提案する
「そうですね。瀧本さん、静流が部屋を用意してるので後で榊と2人でじっくり話してください。」
榊は凄く嫌そうな顔をしたが瀧本は「分かった」と頷いた
「どこから話せばいいのか……何故静流まで出てくる事になったのか、事の始まりから話しましょうか。」
晶はそう言い、事の経緯を話しだした
矢沢組の事、上納金の事、橘組の不正の事、自分や弟のセイ、保護した璃一の事。
全てを話し終えると、穂高も瀧本も顔を顰めていた
「…静流は何処まで知ってたんだろうな?」
「弟の事と璃一の事以外は予想できてたんじゃないでしょうか。ただここまで酷い事になっているとは思って無かったようです。」
「そうだろうな。アイツは馬鹿過ぎるやつの思考までは読めないから。」
「はい。なので、弟が引き取られてからずっと蔑ろにされ命を狙われていた事に驚き、後悔されていました。」
「静流が……後悔?…あの静流が?」
「そうなんですよ。私達も驚きましたが、晶の弟は『特別』らしいですよ?」
信じられないといった表情の穂高に旬は笑う
「あの静流がねぇ……その弟の事もあって俺まで呼んだのか?」
「それもあるでしょうが今回の件が片付き次第、静流が晶と盃を交わすのでその前に顔合わせだと思います。」
「何分の盃だ?」
「五分ですね。」
「「え??」」
旬の言葉に驚いたのは晶と榊だ
「じゃあ俺とも兄弟だな。よろしくな、三男坊。」
穂高はケラケラと楽しそうに笑った
長男 静流 次男 穂高 三男 晶
その構図を思い描いた旬は、晶御愁傷様。と思ったのだった
「ただいまー」
そう言って部屋に入ってきたのは静流と静流に抱きかかえられたセイだった
「セイ君!!どうしたんですか!?」
セイがぐったりしているのを見た旬は叫んだ
「大丈夫。ちょっと俺がセイへの愛を教えただけだから。」
ニヤニヤしながら、しれっとそんな事を言う静流の胸をセイは顔を赤くし一発殴る
「静流もそんな顔できるんだな」
「穂高!この前ぶり~」
「出会えたんだな。良かったよ。」
「うん、今ならお前の気持ちも晶の気持ちもわかるよ。死んでも離さないってね。」
フフッと笑う静流に、穂高はキョトンとする
「晶にもいんのか?そういう奴。」
「あれ?聞いてない??璃一って子の事。」
静流は空いている穂高の斜め向かいのソファーへセイを抱きかかえたまま座る
「聞いたけど………へぇ?晶もかぁ。」
ニヤニヤしながら穂高は晶を見る
晶は深い溜息を吐いた
「後で挨拶させますから…璃一は記憶がありません。もしかしたら、麒麟会にとって都合の悪い存在なのかも知れません。ですが…」
「晶、どんな存在でも手放す気はないだろ?なら麒麟会も璃一も両方手に入れろ。お前ならできるよ。」
静流が晶の言葉を遮り真っ直ぐに見る
その目はあの時の、自分を変えてくれた時の目と同じだと晶は思った
「はい。もしもの時は皆さんの力を借りると思いますがよろしくお願いします。」
晶は深々と頭を下げた
「弟の嫁の事だからな、遠慮せず頼ってくれ。」
穂高も静流もニッコリ笑った
「で?静流の嫁の紹介は?」
セイはこの部屋に来てからずっと静流の胸に顔を埋め動かない
「あー………セイ?ちょこっと紹介させて?」
「…………」
顔を上げジロリと静流を睨むセイ
「静流、お前何したんだ?」
セイの様子に光一が尋ねる
「いや……親友ってどんな人か聞かれたから、俺に『愛』を教える為に色んな人をあてがった奴って話したんだけど………」
「で?まさか、あてがわれた後の事までペラペラ喋ったのか?」
「………だってセイが聞くから。俺、セイには嘘つかないって決めてるし。」
「どうせ直球で言ったんだろ。もっとオブラートに包む事も覚えろよ…」
光一は肩を落とす
「おいおい…お前の嫁さんからしたら俺の印象最悪じゃねーか!お前が紹介した奴、全部袖にしてしつこく言い寄る奴だけ一回だけって約束で手出してただけだろ?」
「馬鹿!」
旬の怒鳴り声が部屋に響く
「まぁまぁ。セイは過去に嫉妬するくらい静流を好きになったんだな。兄ちゃんは嬉しいよ。」
晶がそう言うと、セイがピクリと反応する
「静流もしつこくされて困っただろうな。一度だけ相手して離れてくれるならそうするしかなかったんじゃねー?けど愛してもねー奴抱くの嫌だっただろうな?
セイが静流の立場なら『愛』なんて知らなくていいって部屋に籠もって出てこなくなりそうだな?」
尚もそう言うと、セイはギュッと静流の服を掴みゆっくり顔を上げた
「…静流……辛かった?」
「…その時は何も思わなかったよ。辛いとも楽しいとも悲しいとも嬉しいとも。ただの作業だった。けど……今は辛いかな……もっと違う方法で蹴散らせる事ができてたらセイを悲しませなかったのにって後悔してる。」
静流が困った様に笑うと、セイは静流の首に抱きついた
「ごめんなさい……静流の気持ちも考えずに怒って………」
「セイ…良いんだよ。セイが怒ったのは嫉妬してくれたからでしょ?そうやって気持ちを素直に出してくれて嬉しいよ。」
「静流……」
見つめ合う2人が自分達の世界に入りそうになる
「静流、イチャつくのは後にしてセイ君を紹介してあげて下さい」
2人を止めたのは旬だった
「あ、そうだった。セイ、アイツが俺の幼馴染で親友の吾妻穂高、吾妻組の若頭だよ。穂高、この子が晶の弟のセイ。俺のお嫁さん。」
セイが振り返り挨拶をしようと顔を上げた
「「!?」」
対面したセイと穂高は互いに目を見開く
「……セイ?」
静流は何も言わないセイの顔を後ろから覗き込む
「……マスター…………」
「……ゴールド……お前…」
やっと口を開いた2人
「ゴールド…えらい大きくなったなぁ。」
「マスター…最後に会ったのは7年も前ですよ。成長くらいしてます。」
「けどその冷たい態度は当時のままじゃねーか。」
「相手はマスターですからね。冷たくもなりますよ。」
「…どう言うこと?」
2人の会話に低い怒りの籠もった声が割って入った
「ちょっ……静流怒るな!ってか…え??……ゴールド、お前静流に話してないのかよ!?」
「…話してない。」
「アホ!俺が静流の嫉妬で殺されたらどうするつもりだ!」
「どうでもいい。」
「こら。2人で仲良く喋ってないで説明しろ、穂高。」
セイを抱きしめている腕に力を入れ、穂高をギロリと睨みつける
「わかったから睨むな!……お前がセイって呼んでる奴は、ゴールドだよ。お前にも話してただろ?あのゴールド!」
「……あのゴールド…?え?本当に??」
静流は怒りを引っ込め、セイの頬に触れて自分の方に顔を向けさせる
「セイ…セイはあのハッカーのゴールド?」
ジッと目を見つめ問う静流に、セイは諦めたように頷いた
「そっか……セイが……そうだったんだ……」
「あの、ゴールドって何ですか?話し、ついて行けへんのですけど。」
ずっとやり取りを静かに見守っていた榊が口を開いた
「あぁ。ゴールドって言うのは、アメリカで穂高が2年間面倒を見ていたセイのコードネームだよ。
セイがここの姐さんに12歳の時追い出されたのは晶から聞いたでしょ?
セイは僅かなお金だけを毎月振込まれ、住む所もなくスラム街を彷徨っていた時があったんだ。
そんなセイを見つけた穂高はセイに自分の仕事を手伝わす代わりにパトロンになった。
俺は当時、穂高からIQの高い子供を拾った、どこまで育つかアメリカに居る間面倒を見る。って聞いてた。
穂高からの報告で、ゴールドの事はよく知ってる。穂高の手を離れてからも俺はゴールドを見張っていたからね。
ゴールドはとても優秀で、もし敵になれば厄介だと思ってたから。
けど3年前ゴールドは消息を断った。
探しては居たんだけど、まさかこんな所に居るとは思わなかったよ。」
静流はフフッと笑い、セイの頬にキスをする
「しず…!」
突然の事に一気に顔を赤くするセイ
「静流がデレてる…」
穂高は驚愕の表情になる
「セイ君って……前から思ってはいましたが、規格外過ぎますね………」
「旬もそう思う?俺も昨日から驚かされっぱなしだよ。でもそこもセイの魅力だよね。次はどんなセイを見せてくれるか楽しみで仕方ないよ。」
セイはそんな事を言う静流をジッと見つめた
静流くらいの人がゴールドを知らないはずが無いと思っていた
ゴールドがどんな事をしてきたかも耳に入っているだろう
だから晶と相談しその事は話さないと決めていた
秘密にしていたのに、静流は怒ることもなく魅力だと言ってくれる
セイは改めて静流が好きだなと思っていた
「……ゴールドって私でも聞いた事があります。凄腕のハッカーだと。それがセイ君と言うことですか?」
目を煌めかせ旬がセイを見る
「…はい……黙っててごめんなさい………」
「セイは悪くない。俺が黙っとくように言ったんだから。」
晶が口を挟む
「何を言ってるんですか2人とも!私は感動しています!!ゴールドと言えば、法では裁けなかった輩の証拠を暴き出し、社会的制裁を加え、時には大物の不正を暴き出し脅してお金を巻き上げ、そのお金を貧しい子供達の所へ入金していた、国民の影のヒーローと言われていた人じゃないですか!!
そんな人がまさかセイ君で、目の前に居るなんて!!
私、初めて静流に感謝してます。この世界に引っ張り込んだこと。」
「…それ俺に対して酷くない?」
「全く酷くないです」
旬の言葉にセイが笑った
「旬さんありがとう。そう言って貰えて嬉しい。でも俺がしてた事は自己満足で、貧しい子供を救う事で自分も救われた気がしてたからなだけなんだ。自分の為だったんだよ。」
「自分の為にした事でも、その行動が他の者を助ける事に繋がった。旬は子供好きでな、昔はよく孤児院や小児科に入院してる子供達の面倒を見るボランティアに参加してたんだ。
そこで何人かゴールドに助けられた子達に出会った。
それから旬にとっても、ゴールドはヒーローなんだよ。」
静流は自嘲するセイの頭を優しく撫でる
「静流……旬さん、ありがとう」
優しい静流と旬にセイは笑顔を向けた
「さて、この後は璃一も呼んで皆でご飯を食べてから橘組の組長達の処分をしようと思うんだけど。瀧本と榊は明日まで時間あげるからじっくり話しておいでよ。
積もる話があるでしょ?部屋は準備して貰ってるから。」
静流がそう言うと、瀧本は頷いた
「外に案内してくれる人が居るから2人ともついてって」
「ありがとうございます」
瀧本はそう言うと榊の腕を掴み引きづるように連れて行った
その後、晶か璃一を呼びに行き、皆で和やかな夕食の時間となった
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