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SIDE 秘書
しおりを挟む指定された離れに俺達は来ています
離れと言っても見た感じ、普通の平屋建ての大きな家です
私達が晶に案内されリビングのソファーへと各自座ると、初めて見る青年がお茶請けと珈琲を運んできました
青年は細く小さい印象です
髪の色は地毛でしょうか?金髪に近い茶色
色も白く大きな黒縁メガネが全く似合っていません
前髪も長く、陰気なイメージを持たせる青年は一体誰でしょう?
ふと隣に座る静流を見ると青年に釘付けになっています
………?
まさか知り合い?それとも言葉を交わさずに彼の本質がわかった…?いや、流石の静流でもそんな能力はないでしょう
青年が静流の視線に気づき顔を上げました
静流と目が合うと驚いた表情をし、固まります
静流を見てこうなる人はよく居ます
静流は艷やかな黒髪を襟足まで伸ばし、前髪を片側へ流しています
目は切れ長で大きく鼻筋も通っていて少し彫りが深いので外国人っぽいハンサムな顔立ちです
2人はずっと見つめ合ったまま動きません
一体どうしたのでしょうか?
「…セイ」
晶が口を開くと青年はピクッと体を跳ねさせ晶の方を見ました
晶は戸惑った様な顔をしている青年を「おいで」と言い手招きしています
素直にそれに従った青年は、晶の隣に座ると縋り付くように晶へ抱きつきました
それを見ていた私達の戸惑いを他所に、晶も青年を抱きしめ返し、互いに耳元へ口を近づけ何か話しています
その姿はまるで恋人同士のようです
すると隣から殺気が立ち上ります
驚いて隣を見ると、静流が眉間にシワを寄せ晶達を睨んでいます
「…静流?何殺気出してんだよ。」
春人が戸惑ったように言うと、静流は「別に」とだけ答えました
晶はそんな静流に視線を向けると、フッと笑いました
「静流、皆。紹介する」
晶はそう言うと、青年を抱きしめるのを止め肩に腕を回しました
「コイツは俺の弟でセイ。俺のブレーンでもある。」
「初めまして、橘 星です。」
青年こと、橘セイが軽く頭を下げた途端、隣から殺気が消えました
「晶、本当に弟なんだよね?嘘なら許さないよ?」
「クックックック…安心しろよ。スキンシップは激しいけどお前達が考えた様な関係ではない」
晶は可笑しそうに笑います
静流はそんな晶にため息を吐きました
「えぇっと………?橘組に次男が居るって聞いた事なかったんだけど?」
樹は困惑顔です
そうなんです、橘組は晶が一人っ子として届けられていて、麒麟会だけでなく麒麟会の傘下も橘組に次男がいるだなんて情報上がってきていません
「組長が姐さんの意思を尊重して隠していたからな。それに、セイがここに来たのは5歳の時だ。それまでは施設で育った。ここに来て7年隠される様に育ち、中学へ上がる直前に海外へ追い遣られた。戻ってこれたのは大学になってからだ。」
「……何故そんなことを」
「姐さんが言うには、セイは妾の子らしい。そんなセイを引き取る事自体嫌がったが、そういう訳にもいかずセイを引き取った。そこからは想像できるだろ?俺の目を盗んで折檻をくわえ、将来俺の右腕になる様勉強漬けの毎日だった。」
晶の話を聞いていて胸が痛くなります
私は昔保育士になりたい時期があった程に子供が好きなのです
セイ君の幼少期を思うと、そんな事をした橘組が許せません…
「俺は……敵だらけのここで、兄だけが心の拠り所でした。兄がいつも側に居てくれて、常に守ってくれたから組長達のそんな仕打ちはへでもなかった。けど、俺が隠れて折檻されてる事を知った兄は俺と距離を置くようになりました。」
セイ君はそう言うと俯いてしまいました
そんなセイ君の頭を晶が優しく撫でます
「折檻されている理由が、俺がセイを構うことだったからな。距離を置いてからは折檻を受ける回数も減り、少し安堵していたが俺が学校へ出かけている隙にセイは海外へ追い遣られた。
家に帰ればセイが居ない。組長達を問い詰めたら留学させたと言い住所も何も教えてもらえなかった。
出国データーを調べたらセイがアメリカに居ることはわかったがそれ以外は何も分からなかった。
俺はその後荒れに荒れて、家にも帰らず喧嘩と酒に溺れた。」
「晶が高校の時なら8年前だろ?8年前って言ったら『黒龍』騒動だな。あれ晶だったのか。その頃に『残酷』だの『無情』だの『怒らせたら殺される』だの噂が付いたんだな。」
樹は頷きながら言い
春が不思議そうな顔をしています
「なに?『黒龍騒動』って?」
「龍の中でも黒い龍は気性が荒く、手を出せば殺されると言うと逸話を元にした通り名だよ。突如繁華街に現れた男が毎夜暴れまわって手がつけれないって親父が当時言ってた。
けどそれも一月程だったはずだけど?」
「ああ。俺は龍崎のすすめで龍崎の知り合いの瀧本さんへ預けられる事になったから大阪に居たんだ。そこで榊とも出会った。
そして一人の男に言われたんだ。『守りたいものがあるなら力をつけろ』と。
たったそれだけだったけど、俺にはそれが転機となった。
直ぐに組に戻り地盤固めをしたり起業したり、セイを迎える準備に奔走した。」
「…晶…その男なんだけど……」
ずっと黙っていた静流が言いにくそうに口を開きました
「…それ…俺なんだよね」
「「「「え?」」」」
みんなの声が重なりました
「8年前、俺はまだ龍洞財閥にも麒麟会にも籍はなく好きに生きていた。
あの日は大阪の友人に会いに行った帰りで、本当にたまたま晶を見つけたんだ。
この世の全てに絶望した様な目をして、周りは敵しか居ないって面で喧嘩してるのを見ていた。
勿体ないなって思ったよ。何故そんな顔をしているのか気になった。
だから大阪の友人に調べてもらった。
直ぐに暴れているのが白虎系第一団体橘組の組長の息子だと分かったんだ。
どんな理由で荒れているかはその時は分からなかったけど、這い上がって欲しかった。
次に会う時までに、晶には揺るぎない地位を確立していて欲しかった。
一目見ただけで、晶は俺の所まで来れるってわかったから。」
静流はジッと晶を見ていました
「…だからあの言葉?あの時の静流の笑みが印象的だったんだよな。お前にならできるって言われてるみたいでさ。
本当にそう思ってくれてたんだ?」
晶は嬉しそうに笑いました
初めて見る笑みに、私達は釘付けになりました
いつも仏頂面の人が笑うと威力が強いです
「思ってたよ。それからちょくちょく晶の事を調べてた。晶が少しづつ組の改革に乗り出したのも起業したのも知ってた。
俺もその頃には突然会長に収まり、色々と忙しくしていたから一年に一度くらいしか調べれかなったけどね。
晶が組長の代わりに他の組に手を差し伸べている事も知ってた。
いつ組長を凶弾するのかと待っていた。
けど……」
静流はセイ君をチラリと見る
「…セイの事か?」
「…弟とまでは知らなかった。晶にとって大切に思う人が組に居るんだろうとは思ってたけど。
俺が晶の力量を見たいがために、橘組を泳がせ続けた結果、未だにセイは蔑ろにされてるんだろう?」
セイ君はまさか自分の事を言われるとは思っていなかったのか驚いた顔をしている
「まぁなぁ……海外から戻ってきて早々、食事に毒を盛られたり、交通事故を装って殺されかけたりはしたな。」
晶がそう言うと、静流は顔を歪めた
「セイ…本当にすまない……俺がさっさと手を打てばそんな事起こらなかっただろうに……」
「いや……会長さんが謝る事でもないと思います。組長達からの嫌がらせとか5歳からですし、兄が守ってくれてなかったらいつ殺されてても可笑しくなかったですし。今は兄が離れを改装してくれてそこでご飯も作れるし普通の生活もできてます。
榊さんをボディーガードにつけてくれてるので出先でも安全ですから。ね?兄さん。」
「あぁ。確かに静流が手を打てば話しは早かったかもしれないが、それじゃあ俺達の長年温めてきた計画が台無しになってしまう。その方が俺達は許せないだろうな。」
晶とセイ君は笑いながら頷き合っています
「長年の計画って?」
樹がお茶請けを食べながらモゴモゴ喋ります
せめて飲み込んでから喋って欲しいものです
「俺達の手で組長達を地獄へ送る計画だ。ただ組長の座から引きずり下ろすなんて、そんな軽い事じゃ、長年の怨みは晴れない。」
晶の顔がどんどん鬼の様に変化していきます
「…いつから計画を?」
「姐さんが俺に隠れてセイに折檻を加えていると知った時から。俺にとってもセイにとっても、家族と言えるのはお互いだけだと実感したんだ。
それなのに俺達は離れ離れにされた。
本当はその時に組長達を殺す事も考えた…けど、簡単に殺してはつまらないだろ?
彼奴等には地獄の苦しみを味合わせてやりたいと思ったんだ。」
晶はニヤリと笑いました
その笑みはまるで獲物を見つけた獣の様に目をギラつかせ今すぐにでも食らいつきそうな獰猛なモノでした
「……………分かった。それなら大いに俺を利用したらいいよ。俺にできる事は全て協力しよう。」
静流も晶と同じように、獲物を刈る獣の様な目になっています
静流がこの目をし始めたら、相手は死んだ方がマシだと思う程酷い目に追い込まれる事は私達は良く知っています
「…麒麟会に迷惑がかかってもですか?」
セイ君が確認します
こんな目をした静流と目を合わせる事ができるなんてなかなかですね
大抵の人は普段の優しい雰囲気とのギャップに恐怖を抱くものですが…セイ君は平気なようです
「構わないよ。俺もね、君達をそこ迄追い込んだ組長達を許せないんだ。それだけじゃない。
実際彼らがした事は、白虎系列筆頭としても責任を取らせないといけないことだからね。
まぁ、晶がこのタイミングで俺に接触してくれたお陰で彼らはもう地獄へ落ちるしかないんだけどね。」
クスクス笑う静流の頭の中で、彼等をどう地獄へ落とすか何通りも考えられているのでしょう
「何故そんなに俺達の事を?」
セイ君は不思議そうに尋ねます
それは私達も思っていたことでした
静流が言ったように、静流が動かなかったせいで事態は悪い方向へと辿り着いていました
ですが、それは静流が会長になる前から始まっていた事なのです
だからと言ってはなんですが、ここまで肩入れするのは理由がわかりません
「うーん…これ言ったら嫌われそうな気がするんだけど………。
でも隠し事はしないって約束したしね…」
静流は難しい顔をしたと思えば諦めたような顔でため息を吐きました
「あのね、俺が晶に初めて会った時『側に置きたい』って思ったんだ。その時はまだ会長という立場では無かったけど、打診は受けていた。
会長になれば媚びる奴や裏切る奴、俺の命を狙ってくる奴が今よりももっと多く出てくる。
そいつ等が事を起こす前に全て排除しなければならない。
その為には周りの人間を信頼し信用できる者で固める必要があったんだ。
旬、光一、春人、樹は元々知り合いでね。悪友って言うのかな?
学生時代からの繋がりがある。もう一人後で紹介するけど俺の親友が居る。
でもそれでも足らないんだ。俺の隣に立ち何歩も先を見れて下を動かせる程の力がある者が必要なんだよ。
そこで見つけたのが晶だった。
晶は育てば必ず俺の隣に立てる。
そして晶のブレーンであるセイ。君も必要不可欠だ。」
「俺も……?」
セイ君の言葉に静流は頷きます
「晶は君の助言や調査によって見える範囲が変わるんだろう?上に立つものは、自分が間違った事をすれば軌道修正してくれる者が絶対に必要になる。
俺にとっての旬だ。情報を集めてくれているのは春人。俺の命を守ってくれているのは光一。樹は事が上手く運ぶよう手を回してくれている。
晶にとってセイは旬であり春人なんだろう。一人でも欠ければ俺は会長なんてしていられない。
今も晶とセイが欠けているから、情報が多すぎれば脳がショートする。
ショートすればその間会長としての勤めを果たせ無い。
誰が欠けても何が欠けても駄目なんだ。
だから俺は2人が欲しい。
俺が喉から手が出るほど欲してる2人を十数年蔑ろにし殺そうとまでした奴等を俺は許せないんだ。
………勝手な話しだろ?結局は自分の為なんだよ。」
静流は自嘲して目を伏せてしまいました
ですが、静流が私達の事をそんな風に考えていたなんて知りませんでした
そんな風に思っていて貰えて私は凄く嬉しく思います
他の皆も口元がニヤついています
「…………すっげぇ口説き文句だな。」
「ホントだねぇ………」
晶とセイ君も微笑んでいます
「静流はそんなに俺達が必要なんだ?喉から手が出るくらい?」
晶はニヤニヤ笑い出しました
俯いている静流はその事に気づいていません
「それだけじゃないよなぁ?嫌われるのも嫌なんだっけ?そりゃそれだけ欲しいって思ってたらなぁ。まぁ嫌われたくない意味は他にもあるんだろうけど?」
晶の声に笑いが少し混じり始めました
それに気づいたのか、静流は顔を上げます
「欲しいならくれてやってもいいぜ?ただし、奴等を地獄に落としてからな?」
静流は驚いた顔で2人を見つめます
「はい。俺達の長年の計画が遂行できるなら良いですよ。」
「………本当に?俺、自分で言うのも何だけど腹黒いし裏表激しいし、旬達には二重人格野郎って言われるし、本性は結構残酷で怖いよ?大丈夫…?後からやっぱ辞めとくとか聞かないよ?」
まさか2人からいい返事が返って来るとは思わなかったのか静流は言わなくていい事まで言い出しました
そんな静流に2人は笑います
「そんな事言わねぇよ。」
「はい、言いません。その代わり、会長もやっぱ要らないって言うのは受け付けませんよ?」
「そんな事絶対言わない!!」
静流は久々に本当の笑顔で笑いました
会長になって7年、作り笑いは幾度と見てきましたが心から笑っている顔を見たのは会長になる前まででした
そんな静流を見て私達は安心したのでした
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