裏切りの蜜は甘く 【完結】

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SIDE セイ

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「…寝た?」

「あぁ」


璃一の背中からクッションを引き抜くと兄ちゃんがゆっくり璃一の体を横たわらせた


「兄ちゃんの補佐の2人、まだ帰って来ないよね?」

「ああ、今日は矢沢の所に残ってる物を業者に引き取って貰う予定だから、早くても夕方にしか帰ってこない」


兄ちゃんは俺の手を取り、そのまま部屋を出る


寝室の隣はリビングルームになっている


手を繋いだままソファーに座ると、ギューっと抱き締められる


「あ~…セイだ。久々のセイだ。」


抱きしめたまま、俺の頭にスリスリ頬を擦り付けてくる


俺も兄ちゃんにギュッと抱きつく

抱き締め合うのも本当に久し振りだ

俺が留学から日本に戻って来たとき以来だ

お互いもう成人を過ぎているのに恥ずかしげも無くこんななのはお互いが極度のブラコンだからだろう


唯一の信頼できる味方なのに、普段はお互いできるだけ関わらないようにし人の目を気にしないといけないから、こうやって2人きりになるとお互いがお互いに甘えてしまう


「セイ、悪いな…」


「…何が?」


「未だに組長や姐さんからの当たりが強いだろう。俺にもっと力があれば…」



悔しそうな兄ちゃんの背中をポンポンと叩く


「兄ちゃんは力が無いわけじゃないよ。今はまだ力を振るう時じゃない。
それに、子が親に反旗を翻すよりも、自滅してもらった方がこちらとしては都合がいい…でしょう?」



「まぁな」



そう、俺達は組長と姐さんを貶める為にこんな猿芝居を続けているんだ


いくらこの家が【暴力団】として世間が認知していなくてもヤクザなのは変わらない

それならテッペンを目指せばいいのに組長は、麒麟会の舎弟頭という位置に収まっているからか胡座をかき、ぬるま湯に浸かっている


橘組のシノギは本部長が仕切って組員を動かしている

あの二人は何もせず高みの見物だ

今の橘組は白虎系列の筆頭ではあるが、筆頭の組長は同じ第一団体の他の組を目の敵にしているフシがある

本来なら連携を取り、白虎系列をもり立てていくべきなのに

経営する会社には組長や姐さんのお気に入りしか入れず、第一も第二団体も各自シノギをしている

上納金の額も高く、兄ちゃん曰く兄ちゃんが納める上納金と傘下から上がってくる上納金で麒麟会への上納金を用意しているらしい

自分達の利益は上納金に入れていないそうだ


こんな組長と姐さんには着いて行けない、白虎系列筆頭とは認めれないと兄ちゃんに訴える組員が多いと言っていた


兄ちゃんは、白虎系列が分断しないように、兄ちゃんが立ち上げたシークレットサービスの社員としてこの組の姐さん派以外の組員と、第一団体組から希望者を募り社員として雇っている

第二団体へは、派遣会社へ登録できる様にし会場警備等で働けるようにした

兄ちゃんが他の組と連携を取ることで組員達を抑えているのだ

実際盃は組長と交わしているけど、忠誠を誓っているのは若頭だと言っている者が大多数だ


組員が離れて行っている事を組長達は知っているのだろうか?


他の系列が傘下に忠誠を捧げられているのは、下の者達をしっかり守っているからだ

裏切りを許さず、忠誠を誓う者には救いの手を差し出す

持ちつ持たれつの関係が成り立っている





幼い頃から組を継ぐよう育てられた兄ちゃんは、本部長である龍崎にヤクザのイロハと言う物を学んだ

龍崎は兄ちゃんの教育係として文武両道を貫かせた

親に甘えたい年頃だったはずの兄ちゃんは幼い時から時期組長として組員に接す事を強いられ、子供にしては大人びていて友人なんてものは居なかったらしい


そのせいか、俺がこの家に引き取られてからは俺にベッタリだった

俺もここに来るまでは施設で育ち、心を通わせれる相手など皆無だった

そんな俺にできた唯一の肉親

兄ちゃんが俺に愛情をくれたからこそ、組長や姐さん、組員からの『教育』とは名ばかりの折檻や嫌がらせに耐える事ができた


でも兄ちゃんと俺が関わる事を許せなかった姐さんが、俺にイチャモンをつけ折檻している事を知った兄ちゃんは、俺と距離を置くと決めた


その時の兄ちゃんの顔は今でも忘れられない


その時俺は誓った


俺達の絆を断ち切ろうとする者は地獄へ落とすと


兄ちゃんにこんな顔をさせる奴らは兄ちゃんの親でも家族でもない

そして兄ちゃんも、俺と同じように奴らを見限ったのだ

俺にこんな仕打ちをした奴らを地獄へ落とすと決めたらしい



そんな俺達は、後に物理的に引き離される事になった

ある日兄ちゃんが学校へ行っている隙に突然組員が部屋に入って来て俺の荷物をまとめ出し、無理矢理車に乗せられた

そのまま空港へ連れて行かれ、アメリカへと追いやられたのだ


あの時程絶望を感じた事は無かった

アメリカでは突然極貧の一人暮らしが始まり、まだ子供の俺は知らない土地で言葉も分からず必死に生きていた


兄ちゃんに会いたくて、兄ちゃんが心配で、毎日兄ちゃんの事を考えていた


そんな日々の中、一人の男に声をかけられた


日本人だった男は、何故子供一人がこんな所に居るのかと心配していた


俺が居たのはスラム街


久しぶりの同郷の者に口が軽くなり、理由を話してしまった


すると男は言った


『ならこんな所で燻ぶっててもしゃあねぇだろ。俺の手伝いをするならチャンスをやる。そのチャンスを生かすも殺すもお前次第だ。どうする?』


俺はそのチャンスに飛び乗った


兄ちゃんと離された事以上の絶望はないと思ったからだ


兄ちゃんの元へ戻れるなら、俺は例え毒であろうと飲む決意をした


それからは男の仕事を手伝いながら沢山の事を学び手に入れた


アメリカに居た6年間は結果的には俺の地盤を固めたものとなった




「あ、兄ちゃんに見て欲しいものが有ったんだ」


名残惜しいけど、兄ちゃんの補佐の2人が戻ってくる前に確認してもらわないといけなくて、ゆっくりと体を離す


「見てほしいもの?」


「うん、璃一が矢沢の屋敷に拉致された日と場所を特定したんだけどね」


俺は調べた事を話し、パソコンを立ち上げ映像を再生する



「………コイツ等…」


「…やっぱり兄ちゃんが知ってる奴?」



「あぁ。コイツ等は関西の関西吾妻会の組員だ。多分このホテルでオークションがあったんだろう」


「オークション?」


「商品は人間。組を裏切ったやつや、ヤクザに金を借りてトンズラしようとしたカタギ。ヤクザを陥れようとした奴らをここで売り買いする。
買い取った側はそいつを煮るも焼くも好きにして良い。」



…そういう所は本当にヤクザだな



俺が眉間にシワを寄せると兄ちゃんは笑う



「そんな顔するな。吾妻会は西日本を統べるヤクザだ。麒麟会との協定で、オークションにかけるほどではないカタギは絶対に売らない決まりがある。
吾妻会がオークションに出す人間を徹底的に調べてから競売にかける」



「…そんなに徹底してるなら、もし基準に満たない人間がオークションに出品されてたら、裏切り者が居るってこと?」


ふとした疑問だった


その言葉に兄ちゃんの顔色が変わる


「…璃一がオークションに出された可能性もあるな。セイ、俺はこの日の出品リストを手に入れるから、引き続きこのオークションに出品した人物を洗ってくれ。
行き着いた先が同じならそいつを調べれば色々わかるだろう」



ヤクザの顔に戻った兄ちゃんの指示に俺は頷いた。



「あとね、璃一だけど今まで生きてきた中で学んだ事は覚えてるみたいだよ。英語スラスラ読んでたでしょ?難しい漢字は読めないみたいだけど、ひらがなとカタカナは読めた。
もしかしたら海外に住んでたのかも。
今の璃一は推定だけど幼稚園児くらいまで遡ってる。」



「みたいだな。驚いたよ。まさか英語がペラペラとはね。あの瞳でハーフかクウォーターかとは思ってたけど日本に住んでれば難しい漢字もそこそこ読めるだろうしな。
…アイツ何者なんだろうな」


ため息を溢す兄ちゃんの背中を強めに叩く


「何者であっても、兄ちゃんは璃一を絶対に手放さない。でしょ?」



俺が笑うと兄ちゃんも笑った






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