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目が覚めると既に隣に彼方は居ない

時計を確認すると7時半を回ったところだった

部屋の隣のバスルームでシャワーや歯磨きを済ませ、仕事に行く準備を終わらせる

準備が整ってからリビングへ行くと、キッチンに彼方の姿が見える

「おはよう」

そう声をかけると、顔をあげた彼方は驚いた顔をしてから目を泳がせ顔を赤くして俯いた

「お…おはよ…」

んん??なんか何時もと違う…ああ、昨日のインタビュー中寝たことが恥ずかしいのか

「疲れは取れた?」

珈琲を入れにキッチンへ近づくと、ピョンと小さな体が跳ねる

「き…昨日は…ごめんなさい…インタビュー中なのに寝ちゃって……」

「大丈夫。視聴者は逆に素の彼方を見れて喜んでたみたいだし。あの後直ぐに終わったから。」

「そう…なんだ」


一向にこちらを見ない彼方に首を傾げる

どうしたんだ?

「彼方?」

両頬を掴んで無理矢理顔を上げさせると、真っ赤になった顔に、目がウルウルしている

なんだこの可愛い生き物は?

「どした?なんかあった?」

口をパクパクして目を泳がせる彼方はまさに金魚のようだ

手を離せば、逃げようとしたので肩に担いでやる


「ちょっ!!下ろして!!」

力いっぱい暴れようとする彼方を無視して、ソファーへ向かう

ソファーへポイッと落とすと軽くバウンドした彼方は恐る恐るという感じで俺を見た

「俺なんかした?逃げたくなるような事。」

腕を組み逃げられないよう彼方の前に立ち見下ろす

「違っ…………ごめん……」

俺が怒ってると思ったのか、起き上がった途端にシュンとして泣きそうな顔になる彼方

「じゃあなんで逃げようとしたの?」

「……………………恥ずかしくて」

小さい声だがそう聞こえた

恥ずかしい??寝たのが??

続きを促すようにジッと見ていると、観念したのか話し出した


「一昨日の披露試写会で…初めて知ったんだ…叶さんと……キス……した事……あの時本当に気を失ってたから、映画を見て初めて知って………」

恥ずかしそうにモジモジ手を動かしながらボソボソと話す

「……試写会は一昨日だったけど、昨日は普通の態度だったじゃないか。何で急に?」

「……さっき起きた時、叶さんの寝顔見てたら思い出して………この唇とキスしたんだって思ったら、途端に恥ずかしくなって……僕のファーストキスが叶さんだなんて………」

ファーストキス…か……

「嫌だった?」

「違う!!」

バッと顔をあげた彼方の目はまだ潤んでるけど、嘘をついているようには見えない

「ふーん…嫌じゃないんだ?」

つい意地悪な事を言ってしまう

「そっ……うぅぅぅー……叶さん意地悪い……」

既に半泣きな彼方が可愛くてつい意地悪になってしまう

彼方の隣に座り両頬に手を添えた

「でもキスした事覚えてないんでしょ?」

「……それは……まぁ………」

「やっと意識してくれたのは嬉しいけど、覚えてないんじゃねぇ?」

「ん??」

まさか本当に意識が無かったとはね…
俺自身も役が憑依するってタイプだけど、彼方も相当だな…


「次はちゃんと覚えてて。」

覆い被さるように彼方に近づいて軽くチュッとキスをする


彼方はポカンとした顔で俺を見ていた

「……え?」

「一瞬すぎてわかんなかった?」

頬に添えてた手を後頭部と腰にまわし彼方を引き寄せ、その唇を塞いだ

チュッ……チュ……と何度も角度を変えながらキスをする

「ーーーーーんぅ………んっ………」

苦しそうな声に1度唇を離すと、息を止めてたのか深呼吸を繰り返している


「息は止めないで、鼻で呼吸するんだよ」


もう一度唇を塞ぐ

「んっ…………ふんぅ…………」

少し空いた唇に舌をねじ込めば、簡単に口内に侵入できる

舌を絡めたり、上顎を舐めたりするとまるで子犬のように鳴く彼方につい手加減なくキスを続けると、力が抜けたのか縋るようにもたれてくる

キスを止めると、真っ赤な顔で目をトロンとさせ、口は半開きになったままの姿にまたキスしたい気持ちがもたげてくる

「……覚えた?」

ギュッと抱きしめて耳元で囁くと「んっ……」と反応する

うーん……可愛すぎる……

「叶さん………何で……キス?」

「好きだからだよ?」

「…好き?」

「うん。俺は彼方が好きだから、俺とのキスを覚えてて欲しい」

「…そっか……」

「大丈夫?ボーッとしてるけど」

「ん…大丈夫………キスって、気持ちいいんだね?」

小首を傾げる彼方に、朝っぱらから理性を試されるとは思いもしなかった

「……気持ちよかったんだ」

「うん、気持ちよかった」

「でも、誰彼構わずしちゃ駄目だよ?」

「うん、しないよ」


…………本当に大丈夫だろうか?


「…そろそろ準備して劇場に向かわなきゃいけないけど、お風呂入れる?」

「あ…もうそんな時間?急いで入ってくる」


彼方は体を起こして、ゆっくりとリビングを出ていった


「はぁ…………やっちまった……」

ソファーに倒れ込んだ体はボブンという音と共に沈み込む



あの彼方の様子じゃあ現実逃避している可能性は十分あるなぁ

やっぱり、もっと時間をかけるべきだったか?

でもこの舞台が終われば共演の予定は今の所ない

この家に居るのも細井が捕まってないからってのがデカいし



彼方の演技力は日に日に上がっている

皆彼方に魅了されているのがわかる

他の誰かに横からかっ攫われる可能性が高いから、つい焦ってしまった

あー……いい歳して何やってんだか………


    
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感想 3

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みんなの感想(3件)

ちはる
2024.07.19 ちはる

こんばんは!
更新がめちゃくちゃ嬉しくて、最新話を読む前に一話から読み直してきました!

彼方くんの真面目だけど天然なところも、演技の可能性が未知数で今後が楽しみなところも、本当に大好きです!
相田彼方という一人の俳優さんが多くの人を魅了していく姿に期待して、ドキドキしています。

響との絶妙な空気感もとても微笑ましくて、ほっこりします(o^-^o)
既に無自覚イチャイチャをしている二人ですが、最新話でまさか一歩も二歩も進むとは!!
これからも更新を楽しみにしています✨

解除
neo
2024.04.16 neo

久しぶりに一気読みしました!
いつも続きを楽しみにしています!!
更新お待ちしています(*^-^)

解除
榊咲
2022.08.25 榊咲

はじめまして。
一気読みしてしまいました!
もう最初から物語に引き込まれました。
この後、彼方と響の動向や解雇された元同僚?と元マネージャーがどうなるのか気になります。
更新を待ってます(^。^)

解除

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