異世界で大切なモノを見つけました【完結】

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真っ白な空間にポツンと佇む俺は、そこが死の世界のだと思った


愛音…父さん…母さん…………皆はどうなったのだろう?



「知りたいか?」


俺の心の声に真っ白な空間の何処からか問う声が聞こえた


「知りたい!!皆は生きているのか!?」


何もない空間に叫ぶ


「お前の父はもう二度と歩く事は出来ないが生きている。母親も重症だが回復する。
しかしお前と愛音は死んだ。」



父さんと母さんは生きているのか…良かった………


でも………



「愛音…………守れなかった…………」


まだ4歳だったのに…これから沢山楽しい事がある筈だったのに……


「お前は守りたかったのか?ただの姪だろう。姉に押し付けられ、自分の子供でも無いのに姪のためにお前は4年間を過ごしてきた。
解放されたいとは思わなかったのか?」


「何馬鹿なことを……愛音は確かに姪だけど、俺には自分の子供と変わらなかった……愛音が結婚する時まで、大切に……必ず守っていくって……決めてた………」



悔しくて悲しくて涙が出てくる


泣いたのなんて何年ぶりだろうか


「ほう……お前の様な者も居るのだなぁ………よし、分かった。1つ私の頼みを聞いてくれるのならばお前に愛音を幸せにするチャンスをやろう」



楽しそうなその声に苛立つ



「チャンスって…愛音も俺も死んだんだぞ!!」


「分かっておる。お前には別の世界で生まれ変わって貰う。その世界はエデンという神が創り出した世界だ。
しかしエデンは神としてしてはならぬ事をしていた。
我々他の神が気づいた時には、他の世界から人を攫う力を自分の世界の者に授けてしまっていた。

我々神は世界を創り、見守る。しかし住人がルールを破り世界が壊れそうになった時は天罰を下す事が出来る。
しかし、エデンはそれだけではなかった。
住人に神の力を少量なりとも授けてしまったのだ。

今エデンは、他の神に囚われ審議にかけられている。
しかしその世界を放っておくことは出来ない。
今は我の監視下にあるが住人が信じているのはエデンであり我の存在を知る者は居ない。
その為我は天罰を下す事さえ叶わない。」



「それで…?俺に何をさせたい?」



「二度と他の世界から人を攫われないよう、その世界の軌道修正を。既に綻び始めておるのだ、あの世界は。
このままではあの世界は滅亡してしまう。
お前が軌道修正できたら、愛音をお前の元へ転生させてやろう。」



「何故………何故俺なんだ?」



「お前には自身の命をかけてでも守りたい者が居る。そして相手もお前を特別に大切に思っていた
我は常にお前達を見ていた
人間とは欲深いものなのにお前達はそうでは無かった。お互いが相手が幸せならば良いと思える心があった

私は2人を気に入っておる

できることならば幸せになって欲しい」



「…あんたの名前は?」


「我はフェラーリ。愛と誠実の神だ。」


「…高級車の名前じゃん」


「言うと思ったわ…コホン。では音矢、生まれ変わった世界を軌道修正し、愛音と幸せにおなり。軌道修正が終わったら愛音を転生させてやろう。」



「それ、人質だろ」


「そうとも言う。」


フェラーリと名乗った神は楽しそうに笑った
















「てなわけで、僕は神との取引を成功させ愛音を転生させなきゃいけない。だから…番を作ってる場合じゃないんだ。」


「やっぱ軌道修正って黒の王討伐の事だよな?」

「神の力を与えたってのは、召喚する力のことだろう?」

「あとは賢者以外にかけられる加護もそうかもしれないな」



僕の言葉を聞かずに話し出す3人



「ちょっと!!僕の話を聞いてる!?」


「聞いてるけどさぁ…番がいようといまいと関係なくない?」


爽が呆れた視線を投げかけてくる


「ああ。簡単に言えば、今この世界にエデン神が居ないから天罰がくだらないんだろ?
なら召喚の際、討伐メンバーに神から与えられる加護も付けられてないわけだ。
黒の王討伐はこの世界の住人の課題であって、ユーリ1人が背負うものではない。
俺達で黒の王が復活したら討伐したらいい。」


「そうだな。それならお前達が番っても何の問題もないし、愛音も転生することができる」




3人が笑顔で僕を見る



「そんな……黒の王を討伐するって簡単じゃないんだぞ!?」


僕のそんな叫びは自信たっぷりな顔をしたオルガに1蹴りされた


「俺達4人以外に適任者は居ないだろう?世界一の騎士に勇者、魔術師も最高のメンバーが揃っている。」



「そうだな。私は魔法はからっきしで剣しか扱えないが、モアは魔法も剣も扱える。カインも同じだろう。ソウは攻撃魔法は苦手だがそれ以外はできるだろう。土壇場の力の使い方はすごいぞ。」


ラウまでそんな事を言う


「なぁ、何でカインは攻撃魔法を使えるんだ?カインも元日本人だろ?」



「あー…それは……ただの性格の問題。僕は音矢だった時も、他人が死のうが生きようがどうでも良かったんだ。
もし愛音が殺されたりしたら、僕は戸惑う事なく相手を殺すだろうなって常々思ってたし。
実際は自分も死んじゃったから相手を殺す事はできなかったけどね。
元々こういう性格だから、僕の逆鱗に触れた奴を殺しても罪悪感は起きないんだよ。」



人として最悪だよな

姉からはメンヘラとかサイコパスとか言われたっけ



「あー…なるほどな。その考え方は理解できるよ、俺も城を出ていく時殺されかけて、カインがソイツらを殲滅しただろ?あの時、スッキリはしたけど罪悪感はなかった。
ただ、人の命を刈り取るのが怖く感じるんだ。」



「それは…本能的なもんじゃないか?」


ラウが首をひねる


「確かに。ユーリの前世はソウと同じだけど今は獣人だからな。」


「うん。ほら、豹って狩猟本能があるからさ…前世の記憶が戻る前からよく、獣化して小さな獣を狩ったりしてたんだよ。」



「そうなの!?え、獣化したら本能よりになるって教えて貰ったけど、それガチなやつ?」


爽が焦ったように言う



「うん、けど狩猟本能が働くのは獣に対してだけだから、爽を襲ったりしないよ?食べても美味しくなさそうだし」


わざと牙を見せてニヤッと笑うと、爽は飛び上がってラウの背中へ逃げた



ケラケラ笑うと、爽が反撃に出てきた


「話!戻すけど!!これでカインとモアさんが番っても問題ないんだよな?いつ番うんだ?」



「ちょっ…!!」


「森で発情期に入ると青の国王や母上を待たせてしまうから、青の国へ戻ってからだな。」


しれっとオルガが答える


「じゃあ、アルタイック領主とアレンさんに魔法郵便飛ばさないと!カインってば俺を送り届けたらすぐに白の国へ戻ろうとしてたから。」


「…そうなのか?」


オルガがジーッと僕を見てくる


「…う………うん…」


「白の国へ戻る時は俺も一緒に戻る。1人で行こうとしないで。」


頭を撫でられ耳をコショコショされる



「ぅ………ぅにゃあ………」


耳はいかん!いかんだろ!!


体から力が抜ける


良い匂いが充満してて、わざと魔法の力を借りて嗅覚機能を落としてるのに、これじゃ意味ないじゃん!!



「でも相性抜群なら、匂い酔とかしないわけ?」


「そうならないよう嗅覚機能を少し麻痺させている。ユーリもだろう?」


「ぅ…ん…………」


「へぇ……でも良い匂いはしてるんだねぇ?カインがヘロヘロになっちゃうくらいには。」


ニヤニヤ笑う爽を睨んでみる


「じゃあそろそろ出発する?森を突っ切るんだろう?」


爽はニヤニヤ顔で話を変えてきた


この糞ガキめ!!


「そうだな。モア、お前が来た時はどれくらいかかった?」


「んー…狩りをしながらでも1日あれば来れたぞ?」


「じゃあ2日って所だな。」


「「なんでやねん!!」」

ラウ様のその返答に大阪人では無いのに関西弁でツッコミを入れてしまった


「…なんでやねん??」


コテンと首を傾げるオルガに萌えを感じつつ、「あーっと…何で2日?って聞きたかったん…です………」と答える


「そう言う意味か。モアが1日って事は他の人は2日はかかるんだよ。モアは身体能力も規格外だからね。木の枝をピョンピョン飛び移って行っちゃうから、まっすぐ進んでいけるけどソウには難しいだろうし体力的にカインも途中で脱落するよ。」



…そんなに凄いのか?


顔に出ていたのか「んじゃあ実演してみようか。」とラウが言う


「ユーリ、さっきの映像で俺を追ってきて。追えるならね?」


ニヤッと笑ったオルガに、ドキンとしつつ頷く


映像を映し出して、自分がカメラマンになった感覚でオルガを映す


「んじゃこれから進む道の下見に向かうよ。しっかりついてきてね?」


そう言うとオルガは近くの木の枝へジャンプした


「すげぇ………一瞬で枝の上だ」


爽が呟く


軽々と次々に木の枝に飛び移っていくオルガを追う


爽とラウは僕が映し出した映像を見ている


「え………」


オルガがスピードを上げた


ちょっと待って!さっきも早かったんだぞ!?


今時速100km超えてるだろ!!


ヤバ…見失う!!






必死で追い掛けたけど見失った


近くを捜索してみたけど居ない



マジか……噂には聞いてたけど、僕の比じゃないくらいに規格外野郎だ


僕の魔法はフェラーリがちょっと弄った
賢者と同じように、想像する事で魔法を発動出来るようにしてくれた
だから前世のゲームや漫画、小説で得た知識だし、こんな事できたらって想像しただけのものだ


でもオルガのそれは違う


この世界の人は魔法使う際術式というものを使う

それが呪文になる

それが無いと魔法が使えないのが普通だ


でもオルガは呪文を唱えないし術式を自分で編み出しているようだ

そして身体能力が異常である

獣人の姿なのにまるで獣化した時のような動きだ



「モアさんどこ行っちゃったんだろ?」

「その内戻ってくるよ。ね?あれについて行けないでしょ?」


僕と爽は頷いた


「何なのモアさんは…パーフェクト獣人じゃん」


「パーフェクトって?」


「完全って言いたいんですよ。」


「そうそう、だってさ綺麗な顔に綺麗な赤い瞳、真っ白な髪の毛はキラキラしてて言う事なしの美人さんだし。
魔法量も世界一、魔術師としても世界一、しかも王子様だよ。
日本に居たら女が群がりそうだ。」


確かに


あんなスパダリ、ほっとく人なんて居ない


あー…この世界で出会えて良かった




背後から良い匂いに包み込まれて振り返るとオルガが何かを引きずって戻って来た


「ただいま。最後まで追えた?」


「…無理だった。オルガ早すぎだよ。」


「今度コツを教えてあげる。コツを掴んだらできるようになるよ。ラウもできるようになったしね。」


「でもこいつ、教える時は凄く厳しいから気をつけてな。んでそれ何?」


ラウが指差したのは引きずっていた獣


「ああ、下見してたら居たから昼ごはん用に狩って来た。先に飯食べてから森の奥に向かおう。」



獣を捌いて貰い、僕と爽が昼ごはんを作ることにした


立派な豚のような猪の様な獣の肉は昼だけでは食べ切れそうにない


「なぁなぁ、ハンバーグ作らねぇ?」


ウキウキした様子の爽に、愛音が重なる


愛音もハンバーグが大好きで、作るのを隣で目を輝かせながら見ていた


「じゃあこの肉をミンチにして。僕はパン粉作るから。」


「OK、煮込みハンバーグにしたいところだけど材料がねーもんなぁ……」


「そうだね、じゃあチーズinハンバーグは?」


「それも好き!!」


「じゃあそれにしよ。」


2人でハンバーグとポテトフライとサラダを作り、パンを添えた


皆なかなかの食べっぷりで、オルガは尻尾をブンブン振りながら美味しい美味しいと食べてくれた


胃袋掴めた!


これ、大事なことだからね!


前世の母さんが、男は胃袋を掴んでおくのが大事!って言ってたから


……あれ?僕も男だったんだけど……花嫁修業させられてなかったか?



まぁ、そのおかげで皆のこの笑顔が見れるんだし良いとするか






クウーラは氷漬けの魔獣と共にアルタイック領のおじさんの元へ手紙と共に移転させてくれた



僕達は食後休憩を挟んで森の奥へと進んだ





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