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ヤルシュ王国領事館、旧カージリアン公爵邸の一部を開放して設けられた公園は憩いの場として老若男女に親しまれている。
特に今日は国で一番の祝日『建国記念日』、どこに行ってもお祭り騒ぎだ。
「パパ!あの黄色いお花すごくキレイ!」
「走ると危ないぞ?」
「へーき!」
かつては特権階級だけが独占できた物が、こうして共有されていく。
カイルがここに足を向けたのは何時ぶりだろうか?馬車で横を通る時も意識して視界に入れないようにしていたのだ。
美しい思い出をそのままにしておきたかった。
ドルトミルアン国に行ってから、レオノーラと会ってから、父と話してから、カイルは現実を突きつけられた。
そしてそれを受け入れる覚悟を持たなくてはならなくなった。
記憶を探りながら歩いているとその通りの場所に東屋を見つけた。
「まだあったんだな…」
つい感想が口に出てしまう。吸い寄せられるようにそこに腰を下ろし、しばし庭園を見渡す。
─カイル様!今日はいいお天気で良かったです!─
ふと、そんな声が聞こえた。
それが誰の声なのか、ミリアーヌだろうか?
─あなたはミリアーヌの声を覚えていますか?─
レオノーラの強烈な一言も聞こえてくる。
「覚えて、いないんだよ…」
ここで何を話したか、は覚えているのに…。記憶の中にミリアーヌの声は残っていないのだ。
両手で目を塞いで耳を澄ませても思い出せない、それほど遠い過去になったのか。しかもそれに気づいていなかった愚かさに目眩がする。
しばらくそのままでいると、
「…カイル?」
聞き慣れた声がした。
「ナキス、兄さん…」
思いもよらない人物の登場に戸惑う。
「どうしてここに…?」
「散歩でよく来るんだ、カイルこそどうしてここに?」
言いながらナキスはカイルの向かいに腰を下ろす。
「…考えたいことがあって、ここに来れば落ち着いて考えられるかと思って」
「そう、か。それで少しは落ち着いたか?」
「うん、だいぶね」
「お前も色々あったからな、よかったな」
色々あった、ナキスが言うそれとカイルが思うそれは違うものだろうが。
「ところで父上から聞いたが、レオノーラ嬢と会ったそうだな?元気そうだったか?」
「うん、ドルトミルアン国に馴染んでたよ」
「そうか、よかった…」
ナキスはそう言うとどこか遠くに目線を向けた、カイルがそちらに目線を向けると、鮮やかな青色の小花が咲き誇っていた。
「ここは相変わらず美しいな、どんな形でも残ってくれてよかったと思うよ」
目線をそらさずナキスはポツリと呟いた。
「僕はミリアーヌとの思い出が他人に踏み荒らされているようで許せなかったんだ。どうせならなくしてほしかったよ」
そうすれば、もしかしたら、もっと早くに過去のものに出来たかもしれない、知ろうともしなかったかもしれない、そうすれば知ることもなかった。
こんな本音をポロリと言えるようになったのも過去のものに出来たからだろうか。
「カイル、なにかあったのか?」
ナキスの心配そうな声にカイルはボンヤリと俯いたまま何も答えられない。
「カイル、近くに俺が経営しているカフェがあるんだが、そちらで話せないか?」
いつもと違うカイルの様子に何かを感じたのか、ナキスは場所を変える提案をしてきた。
「…ああ、いいよ」
特に断る理由もないカイルは短い言葉で応じた。
特に今日は国で一番の祝日『建国記念日』、どこに行ってもお祭り騒ぎだ。
「パパ!あの黄色いお花すごくキレイ!」
「走ると危ないぞ?」
「へーき!」
かつては特権階級だけが独占できた物が、こうして共有されていく。
カイルがここに足を向けたのは何時ぶりだろうか?馬車で横を通る時も意識して視界に入れないようにしていたのだ。
美しい思い出をそのままにしておきたかった。
ドルトミルアン国に行ってから、レオノーラと会ってから、父と話してから、カイルは現実を突きつけられた。
そしてそれを受け入れる覚悟を持たなくてはならなくなった。
記憶を探りながら歩いているとその通りの場所に東屋を見つけた。
「まだあったんだな…」
つい感想が口に出てしまう。吸い寄せられるようにそこに腰を下ろし、しばし庭園を見渡す。
─カイル様!今日はいいお天気で良かったです!─
ふと、そんな声が聞こえた。
それが誰の声なのか、ミリアーヌだろうか?
─あなたはミリアーヌの声を覚えていますか?─
レオノーラの強烈な一言も聞こえてくる。
「覚えて、いないんだよ…」
ここで何を話したか、は覚えているのに…。記憶の中にミリアーヌの声は残っていないのだ。
両手で目を塞いで耳を澄ませても思い出せない、それほど遠い過去になったのか。しかもそれに気づいていなかった愚かさに目眩がする。
しばらくそのままでいると、
「…カイル?」
聞き慣れた声がした。
「ナキス、兄さん…」
思いもよらない人物の登場に戸惑う。
「どうしてここに…?」
「散歩でよく来るんだ、カイルこそどうしてここに?」
言いながらナキスはカイルの向かいに腰を下ろす。
「…考えたいことがあって、ここに来れば落ち着いて考えられるかと思って」
「そう、か。それで少しは落ち着いたか?」
「うん、だいぶね」
「お前も色々あったからな、よかったな」
色々あった、ナキスが言うそれとカイルが思うそれは違うものだろうが。
「ところで父上から聞いたが、レオノーラ嬢と会ったそうだな?元気そうだったか?」
「うん、ドルトミルアン国に馴染んでたよ」
「そうか、よかった…」
ナキスはそう言うとどこか遠くに目線を向けた、カイルがそちらに目線を向けると、鮮やかな青色の小花が咲き誇っていた。
「ここは相変わらず美しいな、どんな形でも残ってくれてよかったと思うよ」
目線をそらさずナキスはポツリと呟いた。
「僕はミリアーヌとの思い出が他人に踏み荒らされているようで許せなかったんだ。どうせならなくしてほしかったよ」
そうすれば、もしかしたら、もっと早くに過去のものに出来たかもしれない、知ろうともしなかったかもしれない、そうすれば知ることもなかった。
こんな本音をポロリと言えるようになったのも過去のものに出来たからだろうか。
「カイル、なにかあったのか?」
ナキスの心配そうな声にカイルはボンヤリと俯いたまま何も答えられない。
「カイル、近くに俺が経営しているカフェがあるんだが、そちらで話せないか?」
いつもと違うカイルの様子に何かを感じたのか、ナキスは場所を変える提案をしてきた。
「…ああ、いいよ」
特に断る理由もないカイルは短い言葉で応じた。
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