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「ケビン様が当主になるということはナキス様が補佐に?」
「そうだよ、既にコーウェル侯爵家を取り仕切ってるよ」
「ナキス様らしいですわね…」
ナキスはミリアーヌの処刑を伝えた冷静な次兄。
「あなたは今何をしていらっしゃるの?」
「僕はコーウェル侯爵家が持っていた爵位を譲ってもらってね、今ではアルキス伯爵だよ。戦後の新しい事業を手伝ってるけど、ナキス兄さんには怒られてばかりだよ」
「そうでしたの」
敗戦後、ザダ王国では多くの貴族家が取り潰しとなった。コーウェル侯爵家も所有するいくつかの爵位が剥奪されたが継げる爵位があっただけでも幸運だったのだろう。
「ザダ王国はずいぶんと立ち直ったようですわね?」
幾分小声で聞いてくるのは気を利かせてくれているのだろうか。
「そうだね、最近ではザダ王国といえばシガーと言われるくらいにはなったよ」
敗戦国と呼ばれていたのはすっかり過去のこと、と言い切ることはまだ出来ないが、記憶は次第に薄れていき、いずれはそうなるだろう。そしてそれはもうすぐ近くまできている。
「よかったわ…」
ポツリと呟かれた言葉だが嘘がないことは分かった。どれだけ酷い目に合ったとしても、祖国というのは特別なのだろう。
手に持ったグラスから一口含み、感慨に耽っていると、
「この間は申し訳ないことをしたわ、感情的になりすぎました」
レオノーラがこちらを見ながら言う。
「想定外のことを言われて、さすがに狼狽えてしまいました。あんな言い方をしなくても良かったのに…」
その表情は記憶の中にあるレオノーラの表情で、カイルはつい気不味くなってしまう。
「いや、いいんだ。あまりにも独りよがりなことを言ってしまった自覚があるから。君にも不快な思いをさせた。申し訳なかった」
それきり2人の間に会話はなくなってしまった。
それでも周囲は喧騒に包まれ、なぜか取り残されたような錯覚を受ける。
どうやってここから
「アルキス伯爵、あちらの恰幅のいい白髭の男性は男性専用クラブを主催されてる方なの、だからシガーを売り込むいい機会では?」
「え?」
「こちらには新たな販路を開拓するためにいらしたのでしょう?よろしければ紹介いたしますわ」
「あ、あぁ。お願いできるだろうか?」
「よろこんで」
杖を使いながらゆっくり歩くレオノーラに合わせゆっくり歩きながら、カイルは戸惑っていた。
自分に対して良い感情を持っていないだろうレオノーラが協力的なのはなぜなのだろうか、と。
単純に好意なのか、それとも裏があるのか?ついつい勘ぐってしまうのも仕方ないだろう。
ここは前者だと信じたい。
「失礼いたします、ウルド卿。紹介したい方がいますの、よろしいですか?」
「サイナリィ!もちろんだよ!」
レオノーラをサイナリィと呼ぶ男性は声をかけられて嬉しそうに破顔する。
「こちらザダ王国のコーウェル侯爵の名代で来られたアルキス伯爵です、コーウェル侯爵はシガーの販売をしておりますの。前にウルド卿が興味があると耳にしたもので」
「そうなんだよ!儂が主催するサロンで話題に出てね。気になってたんだ!サイナリィの情報網は侮れないな?もう耳に入ってるとは!ハハハ!」
豪快に笑うウルド卿という男性にザダ王国に対する蔑みといった感情は見られない。
「アルキス伯爵、ウルド卿はドルトミルアン国で多くの商会に出資をされているの、きっとシガーの販路についても有益なアドバイスをしていだけるわ」
「サイナリィ、買い被りすぎだよ?」
「そんなことございませんわ、私が前に相談したときも的確なアドバイスをしてくれたじゃないですか?」
「あれはたまたまだよ?」
パチリと片目を瞑って茶化すウルド卿とサイナリィの会話にその親密さが伺える。
「ま、少しでも力になれるのなら喜んで手を貸すよ。よろしく、この国ではウルド卿と呼ばれておる」
ウルド卿が差し出した右手をカイルは握り返す、どうやら好印象を与えられたようだ。
「さあ、あっちで話そうか」
空いているソファーに誘われながらレオノーラに視線を向けると、見慣れた微笑を浮かべていた。着いてくる気はないらしく、動くことはなかった。
「そうだよ、既にコーウェル侯爵家を取り仕切ってるよ」
「ナキス様らしいですわね…」
ナキスはミリアーヌの処刑を伝えた冷静な次兄。
「あなたは今何をしていらっしゃるの?」
「僕はコーウェル侯爵家が持っていた爵位を譲ってもらってね、今ではアルキス伯爵だよ。戦後の新しい事業を手伝ってるけど、ナキス兄さんには怒られてばかりだよ」
「そうでしたの」
敗戦後、ザダ王国では多くの貴族家が取り潰しとなった。コーウェル侯爵家も所有するいくつかの爵位が剥奪されたが継げる爵位があっただけでも幸運だったのだろう。
「ザダ王国はずいぶんと立ち直ったようですわね?」
幾分小声で聞いてくるのは気を利かせてくれているのだろうか。
「そうだね、最近ではザダ王国といえばシガーと言われるくらいにはなったよ」
敗戦国と呼ばれていたのはすっかり過去のこと、と言い切ることはまだ出来ないが、記憶は次第に薄れていき、いずれはそうなるだろう。そしてそれはもうすぐ近くまできている。
「よかったわ…」
ポツリと呟かれた言葉だが嘘がないことは分かった。どれだけ酷い目に合ったとしても、祖国というのは特別なのだろう。
手に持ったグラスから一口含み、感慨に耽っていると、
「この間は申し訳ないことをしたわ、感情的になりすぎました」
レオノーラがこちらを見ながら言う。
「想定外のことを言われて、さすがに狼狽えてしまいました。あんな言い方をしなくても良かったのに…」
その表情は記憶の中にあるレオノーラの表情で、カイルはつい気不味くなってしまう。
「いや、いいんだ。あまりにも独りよがりなことを言ってしまった自覚があるから。君にも不快な思いをさせた。申し訳なかった」
それきり2人の間に会話はなくなってしまった。
それでも周囲は喧騒に包まれ、なぜか取り残されたような錯覚を受ける。
どうやってここから
「アルキス伯爵、あちらの恰幅のいい白髭の男性は男性専用クラブを主催されてる方なの、だからシガーを売り込むいい機会では?」
「え?」
「こちらには新たな販路を開拓するためにいらしたのでしょう?よろしければ紹介いたしますわ」
「あ、あぁ。お願いできるだろうか?」
「よろこんで」
杖を使いながらゆっくり歩くレオノーラに合わせゆっくり歩きながら、カイルは戸惑っていた。
自分に対して良い感情を持っていないだろうレオノーラが協力的なのはなぜなのだろうか、と。
単純に好意なのか、それとも裏があるのか?ついつい勘ぐってしまうのも仕方ないだろう。
ここは前者だと信じたい。
「失礼いたします、ウルド卿。紹介したい方がいますの、よろしいですか?」
「サイナリィ!もちろんだよ!」
レオノーラをサイナリィと呼ぶ男性は声をかけられて嬉しそうに破顔する。
「こちらザダ王国のコーウェル侯爵の名代で来られたアルキス伯爵です、コーウェル侯爵はシガーの販売をしておりますの。前にウルド卿が興味があると耳にしたもので」
「そうなんだよ!儂が主催するサロンで話題に出てね。気になってたんだ!サイナリィの情報網は侮れないな?もう耳に入ってるとは!ハハハ!」
豪快に笑うウルド卿という男性にザダ王国に対する蔑みといった感情は見られない。
「アルキス伯爵、ウルド卿はドルトミルアン国で多くの商会に出資をされているの、きっとシガーの販路についても有益なアドバイスをしていだけるわ」
「サイナリィ、買い被りすぎだよ?」
「そんなことございませんわ、私が前に相談したときも的確なアドバイスをしてくれたじゃないですか?」
「あれはたまたまだよ?」
パチリと片目を瞑って茶化すウルド卿とサイナリィの会話にその親密さが伺える。
「ま、少しでも力になれるのなら喜んで手を貸すよ。よろしく、この国ではウルド卿と呼ばれておる」
ウルド卿が差し出した右手をカイルは握り返す、どうやら好印象を与えられたようだ。
「さあ、あっちで話そうか」
空いているソファーに誘われながらレオノーラに視線を向けると、見慣れた微笑を浮かべていた。着いてくる気はないらしく、動くことはなかった。
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