Epitaph 〜碑文〜

たまつくり

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女はとある王国の公爵令嬢だった。王弟を父に持ち、母はとある大国の王女。

完璧な血筋を持ち、完璧な教育を受けた自他共に認められた貴族令嬢だった。

どうして自分から侍女のような真似を?まさか嘘か?

男は女をじっと見つめた、それに気づいた女も男を見つめる。

ようやく交わった視線、そこに嘘偽りがないことを男は認めた。

「どうしてあなたがお茶を淹れていたんですか?侍女は?」

その疑問に女は「あら?」と口に手を当てる。目は驚きで見開かれており、男は自分が何やらまずいことを言った自覚が芽生えた。

「母が亡くなってから私に侍女はついていなかったのですよ」

「…っそんな!」

ありえない!

「気づかなかったのですか?私の周りには誰もいなかったでしょう?」

そういえば、と男は反芻する。

幼馴染として訪れた屋敷で彼女はどうしていた?

いつも背筋を伸ばし真っ直ぐ前を向いていた。その周りは…?一人、だった?

女ほど高貴な身分ならば誰かしらが常に側にいるはずだった。

「思い出しまして?」

「あ、あぁ…」

思い出すのは一人で凛として真っ直ぐ歩く若い頃の女。

「母が亡くなってすぐに父は再婚したでしょう?継母は私付きの侍女を全員解雇しましたのよ。それ以来私に侍女は付けられませんでした。ですからお茶も淹れられますし入浴も一人で出来ますの」

「…そう、なのか」

「まあ、今の生活にすぐ馴染むことが出来たのでよかったですわ」

コロコロと笑う女の表情に悲壮感はない、むしろ「災い転じて福となす、ですわね?」と東の彼方にある国の諺を出して面白おかしく自らの境遇を例えている。

「その、気づかなくて申し訳なかった」

男は気まずい口調を誤魔化すように咳払いをする。

「今さら謝罪されてもどうすればいいのか分かりませんわ」

「そう、だな…」

今さらなのだろう、その通りだ。

「あなたは異母妹いもうとに夢中でしたから私のことなど知ろうともしなかった」

「…」

男は女の異母妹と幼い頃から婚約していた。

「それで、今日はどういったご要件で?昔話をするために来たわけではないでしょう?」

「あ、あ…、そうだったな…」

意図的になのか女は話題を切り上げ、本来の目的を男に促した。

お茶で口を潤し、男は口を開く。

「実は、娘が婚約破棄されたんだ」
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