猫のけあど

猫のけあど。

猫の名はけあど。 

けあどは、りりしくて白いまん丸だった。でもどうやら寿命が近いようだった。飼い主の奥さんはそのことに気づき、けあどのためにも元の飼い主に最期を看取ってもらおうと考えていた。 

そして奥さんはけあどに最期の儀式を始める。けあどの真っ白い毛を剃った。けあどはどんどんちいさくなった。ちいさくなったけあどはりりしさが抜けてどんどんとかわいくなっていった。かわいいけあどは突然しゃべりだす。 

「奥さん。どうして私の毛を剃るのか。これが最期の別れになることは分かっている。私はもう永くない。どうせ最期なら奥さんと一緒にいたいのだ。最期の時を他のだれかに看取ってもらうための儀式と知りながら、この身を委ねるのは、私のココロハレルノゲンがミヲバラバラールを増大させるだけなのだ。 」

奥さんが手のひらサイズになったけあどを抱き上げるとけあどは続ける。 

「私には権利がある。自己決定をする自由だ。これは変わらぬ法である。いかなる者もこの権利を妨げられない。私はもう永くないのだから、この権利は一層強く認識されなければならないのだ。」

ちいさいからだで難しい言葉を並び立てて説得するけあどの姿は滑稽に見えていっそうかわいらしさを増した。奥さんはその姿をみて申し訳なさと同時にけあどへの愛情で満ち満ちた。奥さんは何回もけあどにキスをする。 

「私がもう永くないということは奥さんも知ってのことだろう。それなのに、私にかけるこの愛情はなんなのか。これでは死ぬことを決意することが出来ないではないか。あなたは私の権利を侵害してはいないか。」

奥さんは、ただただ聞いてけあどを抱きしめた。けあどはぶっきらぼうに満足げな顔をしている。 


けあどはそのまま息を引き取った。