2 / 5
2. オッドアイの白猫
しおりを挟む アイリスは別に、虐待されているわけではなかった。
アイリスの兄、五歳年上のエレムが四歳の頃に毒を盛られ、生死を彷徨ったのだ。
なんとか命は取り留めたが、しばらくは目を離せない日々が続いた。
その頃、すでにアイリスを身籠っていた王妃様は、体調を崩し出産さえ危ぶまれた。
それでもアイリスは生を受けたが、エレムと王妃様ふたりともが、床に伏せる日々が続くことになった。
自分たちで育てることは出来ない。
それは苦渋の決断だったのだろう。
だが、アイリスが愛情を注がれて育つことを願った両親は、離宮で暮らす祖父母に生まれたばかりの娘を託すことにした。
祖父母にとっては、可愛い孫娘だ。
しかも、孫息子や嫁の体調のことも理解していた。
だから、幼子の間くらい預かるくらいのつもりだったのだろう。
だが、なんとか日常生活を送れるようになったエルムが、赤ちゃん返りをしてしまう。
アイリスを引き取ろうと、準備を始めた両親の気をひくように、甘え、愚図り、困らせるようになった。
もし、ここでアイリスを引き取ったらエルムが虐待をするかもしれない。
もう少し。もう少し。
そう思っているうちに六年が経ち、アイリスが七歳となった。
エルムも落ち着き、ようやく引き取ろうとした矢先の祖父母の事故死。
慌てて引き取ったアイリスは、両親にも兄にも関わろうとせず、話しかけても頷くか首を横に振るだけで、話そうともしない。
そこでやっと、両親は気付いた。
自分たちが良かれと思ってしたことが、娘との距離を作ってしまったことを。
そこで食事に誘ったり、お茶に誘ったりしていたらしいが、全くアイリスは応えようとせず、今日初めて、一緒の朝食だった、ようだ。
アイリスの持っていた日記は、おそらく祖母のものだったのだろう。
流暢な文字で書かれた内容は、概ねそんな感じだった。
日記帳と共にあった数枚の便箋に綴られた日記は、アイリスが書いたと思われた。
子供らしい字で、祖父母が居なくなって寂しいとか、ここは自分のいる場所じゃないとか、自分はひとりぼっちになってしまったとか、書かれていたから。
なんとなく、事情は飲み込めた、と思う。
この場合、親が悪いとも言えないし、当時五歳の兄が悪いとも言えない。
アイリスが親の愛情に飢えて、素直になれないことを責めるのも違う気がする。
そう。
全ては、仕方のなかったことなんだと思う。
まぁ、もう少し、こまめに会いに行くとか、方法はあった気もするけど、会ったら会ったで、一緒に居れないことを悲しんだかもしれない。
アイリス。
悲しまなくていいよ。これから私と一緒に、幸せになろう。
アイリスの兄、五歳年上のエレムが四歳の頃に毒を盛られ、生死を彷徨ったのだ。
なんとか命は取り留めたが、しばらくは目を離せない日々が続いた。
その頃、すでにアイリスを身籠っていた王妃様は、体調を崩し出産さえ危ぶまれた。
それでもアイリスは生を受けたが、エレムと王妃様ふたりともが、床に伏せる日々が続くことになった。
自分たちで育てることは出来ない。
それは苦渋の決断だったのだろう。
だが、アイリスが愛情を注がれて育つことを願った両親は、離宮で暮らす祖父母に生まれたばかりの娘を託すことにした。
祖父母にとっては、可愛い孫娘だ。
しかも、孫息子や嫁の体調のことも理解していた。
だから、幼子の間くらい預かるくらいのつもりだったのだろう。
だが、なんとか日常生活を送れるようになったエルムが、赤ちゃん返りをしてしまう。
アイリスを引き取ろうと、準備を始めた両親の気をひくように、甘え、愚図り、困らせるようになった。
もし、ここでアイリスを引き取ったらエルムが虐待をするかもしれない。
もう少し。もう少し。
そう思っているうちに六年が経ち、アイリスが七歳となった。
エルムも落ち着き、ようやく引き取ろうとした矢先の祖父母の事故死。
慌てて引き取ったアイリスは、両親にも兄にも関わろうとせず、話しかけても頷くか首を横に振るだけで、話そうともしない。
そこでやっと、両親は気付いた。
自分たちが良かれと思ってしたことが、娘との距離を作ってしまったことを。
そこで食事に誘ったり、お茶に誘ったりしていたらしいが、全くアイリスは応えようとせず、今日初めて、一緒の朝食だった、ようだ。
アイリスの持っていた日記は、おそらく祖母のものだったのだろう。
流暢な文字で書かれた内容は、概ねそんな感じだった。
日記帳と共にあった数枚の便箋に綴られた日記は、アイリスが書いたと思われた。
子供らしい字で、祖父母が居なくなって寂しいとか、ここは自分のいる場所じゃないとか、自分はひとりぼっちになってしまったとか、書かれていたから。
なんとなく、事情は飲み込めた、と思う。
この場合、親が悪いとも言えないし、当時五歳の兄が悪いとも言えない。
アイリスが親の愛情に飢えて、素直になれないことを責めるのも違う気がする。
そう。
全ては、仕方のなかったことなんだと思う。
まぁ、もう少し、こまめに会いに行くとか、方法はあった気もするけど、会ったら会ったで、一緒に居れないことを悲しんだかもしれない。
アイリス。
悲しまなくていいよ。これから私と一緒に、幸せになろう。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
トラットリア・ガット・ビアンカ ~勇気を分けるカボチャの冷製スープ~
佐倉伸哉
ライト文芸
6月第1週の土曜日。この日は金沢で年に一度開催される“金沢百万石まつり”のメインイベントである百万石行列が行われる。金沢市内の中心部は交通規制が行われ、武者行列や地元伝統の出し物、鼓笛隊の演奏などのパレードが執り行われる。4月から金沢で一人暮らしを始めた晴継は、バイト先の智美からお祭り当日のランチ営業に出てくれないかと頼まれ、快諾する。
一方、能登最北端の町出身の新垣恵里佳は、初めてのお祭りに気分が高揚したのもあり、思い切って外出してみる事にした。
しかし、恵里佳を待ち受けていたのは季節外れの暑さ。眩暈を起こした恵里佳の目に飛び込んできたのは、両眼の色が異なる一匹の白猫だった――。
※『料理研究家リュウジ×角川食堂×カクヨム グルメ小説コンテスト』エントリー作品
◇当作品は『トラットリア・ガット・ビアンカ ~カポクオーカのお試しスコッチエッグ~(https://www.alphapolis.co.jp/novel/907568925/794623076)』の続編となります。◇
◇この作品は『カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/16816927860966738439)』『小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n4211hp/)』でも投稿しています。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる