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2. オッドアイの白猫

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 アイリスは別に、虐待されているわけではなかった。

 アイリスの兄、五歳年上のエレムが四歳の頃に毒を盛られ、生死を彷徨ったのだ。

 なんとか命は取り留めたが、しばらくは目を離せない日々が続いた。

 その頃、すでにアイリスを身籠っていた王妃様は、体調を崩し出産さえ危ぶまれた。

 それでもアイリスは生を受けたが、エレムと王妃様ふたりともが、床に伏せる日々が続くことになった。

 自分たちで育てることは出来ない。

 それは苦渋の決断だったのだろう。
だが、アイリスが愛情を注がれて育つことを願った両親は、離宮で暮らす祖父母に生まれたばかりの娘を託すことにした。

 祖父母にとっては、可愛い孫娘だ。
しかも、孫息子や嫁の体調のことも理解していた。

 だから、幼子の間くらい預かるくらいのつもりだったのだろう。

 だが、なんとか日常生活を送れるようになったエルムが、赤ちゃん返りをしてしまう。

 アイリスを引き取ろうと、準備を始めた両親の気をひくように、甘え、愚図り、困らせるようになった。

 もし、ここでアイリスを引き取ったらエルムが虐待をするかもしれない。

 もう少し。もう少し。
そう思っているうちに六年が経ち、アイリスが七歳となった。

 エルムも落ち着き、ようやく引き取ろうとした矢先の祖父母の事故死。

 慌てて引き取ったアイリスは、両親にも兄にも関わろうとせず、話しかけても頷くか首を横に振るだけで、話そうともしない。

 そこでやっと、両親は気付いた。
自分たちが良かれと思ってしたことが、娘との距離を作ってしまったことを。

 そこで食事に誘ったり、お茶に誘ったりしていたらしいが、全くアイリスは応えようとせず、今日初めて、一緒の朝食だった、ようだ。

 アイリスの持っていた日記は、おそらく祖母のものだったのだろう。
 流暢な文字で書かれた内容は、概ねそんな感じだった。

 日記帳と共にあった数枚の便箋に綴られた日記は、アイリスが書いたと思われた。

 子供らしい字で、祖父母が居なくなって寂しいとか、ここは自分のいる場所じゃないとか、自分はひとりぼっちになってしまったとか、書かれていたから。

 なんとなく、事情は飲み込めた、と思う。

 この場合、親が悪いとも言えないし、当時五歳の兄が悪いとも言えない。

 アイリスが親の愛情に飢えて、素直になれないことを責めるのも違う気がする。

 そう。
全ては、仕方のなかったことなんだと思う。

 まぁ、もう少し、こまめに会いに行くとか、方法はあった気もするけど、会ったら会ったで、一緒に居れないことを悲しんだかもしれない。

 アイリス。
悲しまなくていいよ。これから私と一緒に、幸せになろう。






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