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二 : 木津砦の攻防(2)-手紙
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同時刻。石山本願寺・阿弥陀堂。
その日も顕如は阿弥陀如来に向かい読経を行っていた。突然上がった爆発音にも動じることなく、お経を読む事を止めなかった。
暫くすると廊下を慌ただしく走る音が近付いて来て、誰かが阿弥陀堂の前に来たかと思うと障子が勢いよく開けられた。
「申し上げます!! たった今、織田方が木津砦に来襲しました!!」
開口一番に使い番が捲し立てるように言い放つ。その報告を受けると顕如は一度勤行を止めると「左様か」と一言呟いた。
顕如が使い番に労いの言葉を掛けると、使い番の者は慌ただしく下がっていった。
バタバタと忙しなく踏み鳴らしながら遠ざかっていく足音を聞きながら、顕如は一人静かに目を閉じた。
(……どうやら、持ち込まれた話は本当でしたね)
木津砦に織田方来襲の報に接しても、顕如に驚きは無かった。各地に潜ませている細作から報告される情報である程度の動きは予測出来ていたが、それ以上に思いがけない所から齎された情報が決め手となった。
その相手は本願寺と以前繋がりがあり、現在は織田家に属している大名。しかも、驚いたことに相手の方からこちら側に接触してきたのだ。最初は『罠ではないか?』と疑っていたが、持ち込まれた情報が極めて正確で有益な情報だったので参考材料の一つに加えていた。当然、逐次裏取りは欠かさなかったが。
正直、その相手がどうしてこちらを利するような行動に出るのか、顕如には理解出来なかった。相手は見返りを要求せず、情報だけ提供し続けた。
顕如は一通の手紙を懐から取り出すと、中身を開いた。
『五月三日、木津砦に攻める事が決まりました。あとは、先日記した手筈の通りに……』
簡潔に、達筆な字で書かれた文章。その字を指でなぞっていくと、末尾に相手の名前が記されていた。
(……一体、何が目的なのですか)
名前の部分を触れながら、顕如は心の中で相手に問う。答えが返ってこない事は承知していたが、聞かずにいられなかった。
その日も顕如は阿弥陀如来に向かい読経を行っていた。突然上がった爆発音にも動じることなく、お経を読む事を止めなかった。
暫くすると廊下を慌ただしく走る音が近付いて来て、誰かが阿弥陀堂の前に来たかと思うと障子が勢いよく開けられた。
「申し上げます!! たった今、織田方が木津砦に来襲しました!!」
開口一番に使い番が捲し立てるように言い放つ。その報告を受けると顕如は一度勤行を止めると「左様か」と一言呟いた。
顕如が使い番に労いの言葉を掛けると、使い番の者は慌ただしく下がっていった。
バタバタと忙しなく踏み鳴らしながら遠ざかっていく足音を聞きながら、顕如は一人静かに目を閉じた。
(……どうやら、持ち込まれた話は本当でしたね)
木津砦に織田方来襲の報に接しても、顕如に驚きは無かった。各地に潜ませている細作から報告される情報である程度の動きは予測出来ていたが、それ以上に思いがけない所から齎された情報が決め手となった。
その相手は本願寺と以前繋がりがあり、現在は織田家に属している大名。しかも、驚いたことに相手の方からこちら側に接触してきたのだ。最初は『罠ではないか?』と疑っていたが、持ち込まれた情報が極めて正確で有益な情報だったので参考材料の一つに加えていた。当然、逐次裏取りは欠かさなかったが。
正直、その相手がどうしてこちらを利するような行動に出るのか、顕如には理解出来なかった。相手は見返りを要求せず、情報だけ提供し続けた。
顕如は一通の手紙を懐から取り出すと、中身を開いた。
『五月三日、木津砦に攻める事が決まりました。あとは、先日記した手筈の通りに……』
簡潔に、達筆な字で書かれた文章。その字を指でなぞっていくと、末尾に相手の名前が記されていた。
(……一体、何が目的なのですか)
名前の部分を触れながら、顕如は心の中で相手に問う。答えが返ってこない事は承知していたが、聞かずにいられなかった。
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