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Iの言うこと
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ただなんとなく、もういいかなって思った。特別な理由なんてない。
高校卒業からあっという間に四年が経っていた。この四年間、家の外へ出たことなんて一度も無い。
進学コースのある高校へ入学したのに、大学にも行かず、働きもしないで、ただぼうと、一日に何をしたかも覚えていないくらい何もせず過ごしている。
だからもう、生きていてもしょうがないのかなって。
まずは身の回りの物を捨てようと掃除を始めたが、俺の部屋には意外とそんなに物はなかった。
机の上には高校の教科書と無造作に置かれたノートパソコン。
本棚にはアイツに教えてもらった有名な小説家の本や、アイツに貸していた漫画や雑誌。
そしてアイツとライブに行くくらいハマっていたバンドのポスターが貼ってある程度だった。
全部ゴミとしてまとめて、後はパソコンとスマホのデータを初期化したら終わりだと思ったが、ここまでアイツとの思い出に溢れた部屋を見たら思い出してしまった。
パソコンやスマホよりも、それこそ生まれる前からずっと一緒にいた幼馴染のアイツの方が俺以上に俺を知っているという事を。
アイツ俺のことをよくからかってたし、変なことバラされたら嫌すぎる……!どうにかして、アイツの記憶から俺のことだけを消せないかな。
目に入ったのは縛った雑誌の裏にある、うっさん臭い広告だった。「まるで魔法!?不思議なお香で相手の深層心理へ入り込み、思うがままに操れます。」
これって記憶を消すとかも出来るのか……?これを使って、どうにかアイツの記憶から俺の事だけを消すことは出来ないだろうか。
なんて、もちろんこんなの効くはずがないという事は痛いほど分かっている。俺が引きこもってから、母親が毎日「心が落ち着くのよ」と甘ったるい匂いのするお香をわざわざ俺の部屋で焚いてくるが、何も効果は感じなかった。母親には効果があったのかも知れないけれど、俺の心は何も変わらないままだった。
本当は記憶を消したいとか、どうでも良いのかも知れない。最期に彼に会う理由が欲しかった。
*
斜め向かいの家に住むアイツ、―――― いっくんとは、親同士が仲良くそれこそ生まれる前からずっと一緒にいた。付き合いは学校だけに留まらず、放課後も長期休みの間もずっと一緒にいたし、お互いの家族を巻き込んで一緒に旅行へ行く事もあった。小学生の頃にハマった虫取りは高校生になっても毎年の恒例で、……あ、いや違う、中学生の頃までだったか?とにかく休みの間も四六時中ずっと一緒にいるような仲の良い幼馴染だ。
卒業後はアイツと連絡を一切取ってなかったから今はどう過ごしているのか知らない。試しにSNSで名前を検索すると簡単に探し出せた。引きこもりの俺とは違い充実した生活を送っているようで、大学の同期と一緒にサークルやBBQに飲み会と、楽しそうにしている写真が載っていた。長い前髪で顔を隠しながら教室の隅で本を読んで過ごす、誰とも関わらないような奴だったのに随分な変わりようだ。
アカウントを作って、自分の名前と会えないかという事だけを伝える。すぐに「嬉しい、俺も会いたい。大学の卒業式が来週だからその次の日に会おう」と返事をもらえた。彼は今、一人暮らしをしているらしい。教えられた住所は都内にあるタワーマンションの最上階だった。さすが、病院経営から新鋭の事業まで幅広く手掛けている財閥の御曹司、スケールが違う。
久々に会えるなんて嬉しい。あいつの好物だった唐揚げを作ろう。違う、また間違えた、アイツの好物は一緒に家庭科の授業で作ったハンバーグだ。アイツが大学を卒業するタイミングでようやく会える、この日が来るのがずっと待ち遠し……あれ?違う、俺はもう終わらせようと……違う、そんなこと思うわけが……でもアイツから俺の記憶を消してもらいたくて……、違う……、あれ……?
高校卒業からあっという間に四年が経っていた。この四年間、家の外へ出たことなんて一度も無い。
進学コースのある高校へ入学したのに、大学にも行かず、働きもしないで、ただぼうと、一日に何をしたかも覚えていないくらい何もせず過ごしている。
だからもう、生きていてもしょうがないのかなって。
まずは身の回りの物を捨てようと掃除を始めたが、俺の部屋には意外とそんなに物はなかった。
机の上には高校の教科書と無造作に置かれたノートパソコン。
本棚にはアイツに教えてもらった有名な小説家の本や、アイツに貸していた漫画や雑誌。
そしてアイツとライブに行くくらいハマっていたバンドのポスターが貼ってある程度だった。
全部ゴミとしてまとめて、後はパソコンとスマホのデータを初期化したら終わりだと思ったが、ここまでアイツとの思い出に溢れた部屋を見たら思い出してしまった。
パソコンやスマホよりも、それこそ生まれる前からずっと一緒にいた幼馴染のアイツの方が俺以上に俺を知っているという事を。
アイツ俺のことをよくからかってたし、変なことバラされたら嫌すぎる……!どうにかして、アイツの記憶から俺のことだけを消せないかな。
目に入ったのは縛った雑誌の裏にある、うっさん臭い広告だった。「まるで魔法!?不思議なお香で相手の深層心理へ入り込み、思うがままに操れます。」
これって記憶を消すとかも出来るのか……?これを使って、どうにかアイツの記憶から俺の事だけを消すことは出来ないだろうか。
なんて、もちろんこんなの効くはずがないという事は痛いほど分かっている。俺が引きこもってから、母親が毎日「心が落ち着くのよ」と甘ったるい匂いのするお香をわざわざ俺の部屋で焚いてくるが、何も効果は感じなかった。母親には効果があったのかも知れないけれど、俺の心は何も変わらないままだった。
本当は記憶を消したいとか、どうでも良いのかも知れない。最期に彼に会う理由が欲しかった。
*
斜め向かいの家に住むアイツ、―――― いっくんとは、親同士が仲良くそれこそ生まれる前からずっと一緒にいた。付き合いは学校だけに留まらず、放課後も長期休みの間もずっと一緒にいたし、お互いの家族を巻き込んで一緒に旅行へ行く事もあった。小学生の頃にハマった虫取りは高校生になっても毎年の恒例で、……あ、いや違う、中学生の頃までだったか?とにかく休みの間も四六時中ずっと一緒にいるような仲の良い幼馴染だ。
卒業後はアイツと連絡を一切取ってなかったから今はどう過ごしているのか知らない。試しにSNSで名前を検索すると簡単に探し出せた。引きこもりの俺とは違い充実した生活を送っているようで、大学の同期と一緒にサークルやBBQに飲み会と、楽しそうにしている写真が載っていた。長い前髪で顔を隠しながら教室の隅で本を読んで過ごす、誰とも関わらないような奴だったのに随分な変わりようだ。
アカウントを作って、自分の名前と会えないかという事だけを伝える。すぐに「嬉しい、俺も会いたい。大学の卒業式が来週だからその次の日に会おう」と返事をもらえた。彼は今、一人暮らしをしているらしい。教えられた住所は都内にあるタワーマンションの最上階だった。さすが、病院経営から新鋭の事業まで幅広く手掛けている財閥の御曹司、スケールが違う。
久々に会えるなんて嬉しい。あいつの好物だった唐揚げを作ろう。違う、また間違えた、アイツの好物は一緒に家庭科の授業で作ったハンバーグだ。アイツが大学を卒業するタイミングでようやく会える、この日が来るのがずっと待ち遠し……あれ?違う、俺はもう終わらせようと……違う、そんなこと思うわけが……でもアイツから俺の記憶を消してもらいたくて……、違う……、あれ……?
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