36 / 60
出会ったことに、心から感謝
しおりを挟む「……そっかぁ~葬式の時の、あれを見られてたんだね。なら、別れを切り出されても仕方ないわ」
さすがに、あれはない。人としてどうかしてると思う。情とかお金とか、全て削ぎ落とした式だったからね。娘なら尚更庇えないわ。
「そんなに酷かったの……? お父さん、言葉濁してて、詳しく教えてくれなかったから」
でしょうね。普通の神経なら言えないわね。私がお父さんの立場でも、同じ判断したよ。絶対、双子ちゃんに悪影響出そうだから。今は違っていても、以前はそれなりに慕ってたみたいだし。
立花ちゃんが泣きそうな表情で、私を見て俯く。亮君も心痛な表情で俯き呟いた。
「…………三奈さんは見てたんだ」
やっぱり、気になる所はそこね。
「見てたっていうより、参加してたわね。一番後ろで座ってたわ。あの時は、まだ自分の身に奇跡が起きてなかったから、まだ誰にも見えなかったけどね……あの男性が、亮君と立花ちゃんのお父さんなのね」
形だけ模した葬式の中で、唯一、私の死を悲しんでくれた男性がいた。会ったことがなかったから、私は不思議に思って観察していたの。よく見たら、二人に似てるわね。
「「……三奈さん」」
「お父さんに、ありがとうって伝えてくれる。私の死を悼んでくれて嬉しかったって。おかげで、道を踏み外さずにすんだよ。ほんとは、私の口から直接言うべきなんだけど……ちょっとね……」
死者からの電話って、ちょっとしたホラーだからね。
「わかった……」
「ありがとう、亮君」
ここで、その話は終わりだと思っていたら、立花ちゃんが躊躇いながら訊いてきた。
「……三奈さん、道を踏み外さずってどういうこと?」
立花ちゃん、それ訊きますか~まぁ、今更だけど。
一応、ラキさんの方に視線を向けると頷いたので、さわりだけ話すことにした。
「ラキさんに会って、奇跡の話は聞いたよね」
私の問いに、亮君と立花ちゃんは頷く。
「簡単に言えば、成仏できなくて、自分の自我も失って、佇むだけの存在にならなくてよかったって話かな」
ヘドロの話は止めて、そう告げると、立花ちゃんが抱きついてきた。温かいな……
ほんと、ヘドロコースに逝かなくてよかった……
たぶん、あの男性がいなかったら、私はヘドロコースに進路を再度変えてたよ。ラキさんにやりたいことを訊かれて答えた時は、ヘドロコースを回避できてた。だけど、奇跡が施行されるまでの間、一番危うい状態の中、自分の葬式を一番後ろで見ていたら、私の心は前と同じように麻痺していったからね……危なかったわ。精神体だったからかな、もろに、ダメージ食らったからね。
それにしても、この子たちに会えて、本当に私は幸せ者だよ。生きているうちじゃなかったことは残念だけど、出会えたことに心から感謝だね。引き合わせてくれたお父さんにも、感謝の気持ちでいっぱいだよ。
私は感謝の気持ちを込めて、立花ちゃんと亮君の頭をよしよしと撫でた。
お母さんと別れるつもりって言ってたけど、もしかしたら、そう簡単にいかないかも。お母さん、この家売るつもりだし、お父さんと分けるとはいえかなりの額だよね。それを持って復縁を迫るかもしれない。
この家に来た時のお母さんの様子を見たら、ふと、そんな考えが頭を過った。
もしそうなら、私はとことん邪魔をしよう。お母さんの幸せよりも、今はこの子たちの幸せの方が大事だから。それに、亮君と立花ちゃんのお父さんは、私の大恩人だからね。
30
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
後宮の偽物~冷遇妃は皇宮の秘密を暴く~
山咲黒
キャラ文芸
偽物妃×偽物皇帝
大切な人のため、最強の二人が後宮で華麗に暗躍する!
「娘娘(でんか)! どうかお許しください!」
今日もまた、苑祺宮(えんきぐう)で女官の懇願の声が響いた。
苑祺宮の主人の名は、貴妃・高良嫣。皇帝の寵愛を失いながらも皇宮から畏れられる彼女には、何に代えても守りたい存在と一つの秘密があった。
守りたい存在は、息子である第二皇子啓轅だ。
そして秘密とは、本物の貴妃は既に亡くなっている、ということ。
ある時彼女は、忘れ去られた宮で一人の男に遭遇する。目を見張るほど美しい顔立ちを持ったその男は、傲慢なまでの強引さで、後宮に渦巻く陰謀の中に貴妃を引き摺り込もうとする——。
「この二年間、私は啓轅を守る盾でした」
「お前という剣を、俺が、折れて砕けて鉄屑になるまで使い倒してやろう」
3月4日まで随時に3章まで更新、それ以降は毎日8時と18時に更新します。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる