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さすがに、お姉さんは心配です
しおりを挟む当たり前のように、土日連泊しようとする亮君と立花ちゃん。正確に言えば、金曜日の晩からだけど。
最後のデートがなくなった土曜日の晩、皆でお鍋をつつきながら、私は言葉を選び尋ねた。
「あの……頻繁に遊びに来てくれるのは嬉しいけど、家の方は大丈夫なの?」
お姉さん心配になるよ。だって、平日も遊びに来ているし、その上、休日も泊まってる。
さすがにこれは……親が心配するよね。私立に通ってるとはいえ、二人ともまだ中学生だし、塾もあるんじゃないかな。友だちと遊んだりしないの? 私を気にしているのなら、悪いことしたよ。二人とも優しいから、途中で手が離せなくなったのかもしれない。
「大丈夫よ。心配しないで、三奈さん。ちゃんと、お父さんには許可取ってあるから」
お父さんだけ?
「そこら辺は抜かりはないから安心していいよ」
立花ちゃんと亮君は、すっごくいい笑顔で教えてくれた。
う~ん、笑顔が何故か怖い。嘘は吐いてはないようだけど、やたら迫力があるっていうか……なんか、踏み込んで訊くなって言われてる気がした。
だからと言って、なし崩しにできる問題じゃないよね。
「そう言っても、中学生が頻繁に家を空けるのは、さすがに両親が心配すると思うよ」
私のせいで、両親の間にわだかまりを生んでほしくはないの。私はもうすぐ消える。だけど、亮君と立花ちゃんはこの先、ずっと生きていかなくちゃいけない。
お母さんとも付き合っていくのに……
「お父さんに正直に話したの」
立花ちゃんが亮君の顔を見てから答えた。
話した? 何を? まさか!?
「私がもう死んでるってことを話したの?」
「そう」
「……よく信じてくれたね」
あまりにも突拍子もない話なのに。一蹴されるのがおちだよ。透けた腕を見せて、始めて亮君も立花ちゃんも信じてくれたのに。
「なかなか信じてくれなかったよ。俺たちが騙されてるって、お父さんは本気で心配してたし」
そりゃあ、そうだよね。新手の詐欺か、趣味の悪い悪戯だと普通に考えるわ。
「だから、何度も何度も、違うって説明したの。今までしたラインや写真を見せて。何時間も話し合って、漸く、話を聞いてもらえたの」
亮君と立花ちゃんのお父さんは、ほんとに良い父親なんだね。信じられない、馬鹿みたいな話を、跳ね除けないでちゃんと最後まで聞く。子供の話に耳を傾けれる人なんだね。そんな人だから、お母さんは一緒に生きることにしたのね。
「たぶん……お父さんは、三奈さんのこと調べたと思う。俺たちの言葉だけを信じるわけにはいかないからって言ってたから」
そんなに落ち込まなくていいのに。そもそも、調べられて不都合なことなんてなんにもない。
「それは当然の処置だよ。大切な子供を護るためにね。だから、私はなんとも思ってないよ。反対に、とっても素敵なお父さんだなって思ったよ」
うちとは正反対。
「うん、ありがとう、三奈さん。それで、お父さんが、最後まで寄り添ってあげなさいって言ってくれたの。その間は、塾や習い事は休んでいいって。その代わり、学校はちゃんと行くようにって」
「だから、大丈夫。三奈さんは心配しなくていい」
立花ちゃんと亮君は微笑む。その笑顔があまりにも温かくて、柔らかくて、私の目頭が熱くなった。そこで、さっき抱いた疑問が頭に浮かんだ。
……あれ? お父さんに話したって言ってたけど、お母さんには話してないの?
顔に出てたのかな、亮君がポツリと小さな声で教えてくれた。
「美奈子さんには話してないよ。っていうか、今、美奈子さんとは一緒に暮らしてない。会ってもないよ。たぶん……お父さんは、美奈子さんと別れるつもりだと思う」
衝撃的な内容に、私は吃驚して尋ねた。
「どうして!?」
「……お父さん、三奈さんのお葬式に参列したんだよ。美奈子さんは隠してたようだけど、それは違うだろうって」
とても言いにくそうに、亮君は告げる。
その台詞を聞いた時、私は納得してしまった。
そっか……あれを見たのね。なら、仕方ないわ。
子供を大事にしている親なら考えるでしょうね。自分の大切な子供を預けてもいいのかって。もしくは、子供を産み育てられるのかって。
あれは、子供の欲目を差し引いても酷かったからね。そもそも、遺影がない時点で普通におかしいでしょ。
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