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一夜明けて
しおりを挟む「三奈さんが、北林さんを大切に想う気持ちはわかるよ、だけどね、今日は家でゆっくりしようよ」
遊びに行く準備をしている横で、立花ちゃんが泣きそうな表情をしながら、袖口の端を掴み引き止める。あまりの可愛さに、意思がぐらつきそうになったよ。亮君も辛そうな表情をしながら、私を見てるし。
まぁ、二人が心配する気持ちは痛いほどわかるし、正直嬉しいと思う。なんの打算もなしに心配される気持ちって、胸が温かくなるよね。そんな双子ちゃんたちに、あんな衝撃的な場面を見せてしまったのだから、仕方ないわ。何度謝っても、謝りきれないよ。トラウマになってなければいいけど。完全に、私の不注意と認識の甘さが出た結果だよ。反省しないといけない。
それにしても、亮君も立花ちゃんも、かなり動揺してたわね。目の前で私が急に苦しみだして、蹲ったと思ったら、全身が消えかけ意識を失ったんだからね。そりゃあ、動揺するよね。それでも、必死に家に運んでくれた。病院にも電話できなくて、目が覚めるまで、かなり不安にさせたと思う。
「……心配かけて、不安にさせて、本当にごめんね。でも、行かせて欲しいの。これは、私の我儘。ギリギリまで、私は蓮君といたい。大丈夫、今日で最後にするから」
目が覚めた時、そう決めたの。
四十九日が終わるまで、まだ十日ほどあるわ。でも、この時点で発作が出てしまった。これから先、どれくらいの頻度で起こるかわからない。
ラキさんも「個人差がある」と言ってはいたけど、日を追うごとに、私の存在そのものが一段と脆くなるのは目に見えている。減ることはないわ。それに、ちょっとしたストレスが引き金になりかねないって、ラキさんが教えてくれた。
覚悟はしていたよ。
だけど、そのストレスに、恋することも含まれるって皮肉だよね。そのストレスが幸せなのに……生きているって実感できるのにね。
でも、私は違うかな。だって、もう自分が死んでいることを黙っているんだから、そのストレスは半端ないよ。下手したら、四十九日を待たずして逝くことになりそうだし。ヘドロコースには乗らないとしてもね。
だけど、今逝くことはできない。
亮君や立花ちゃんと知り合っていない時なら、ギリギリまで攻めてたし、賭けたりもした。デートの途中に消える覚悟もしていたよ。だから、無茶もできたと思う。できれば、消えたくはないけどね。
つまり、その選択肢があったってこと。でも、今はその選択肢を選べない。
四十九日を精一杯生きた姿を見て欲しいの、亮君と立花ちゃんにね。そして叶うなら、もう二度とあの姿を見せなくはなかった。
それが、私が遺していく弟と妹にできることだから。私の嘘の共犯者にしてしまった償いであってほしいと願っているの。
まぁそれは、私の自己欺瞞だけどね。私は最後まで、自分勝手な女として生き抜くつもり。実際、そうだからね。
「……無理してるだろ?」
亮君が私を気遣いながら問う。
「そうだね、かなり無理してるよ。正直、泣き喚きたいかな。でもね、これは私が背負うべきことなの。死んでいる私が、蓮君と一緒にいたいって願った弊害。その弊害のツケが、少し早く来てだけ。私が始めたのだから、私が終わらせないとね」
「…………そっか……わかった」
亮君がそう言うと、私の袖口を握っていた立花ちゃんも手を離す。
「わかった。気を付けて行って来てね。あっくんと待ってるから」
本当に良い子たちだよね。
もし、本当の弟と妹になれたとしたら、私の胸の奥にある孤独も、別の形になっていたのもしれないわね。
「ありがとう。あっくん、立花ちゃん」
いいタイミングだったので、念願のあっくん呼びをしてみた。
「あっくん、言うな!!」
速攻、怒られた。
「え~可愛いのに」
「男に可愛いは禁句だ」
真っ赤な顔をして抗議されてもね。可愛いに拍車をかけるだけだよ。思わず、私は亮君を抱き締めた。すると、立花ちゃんも抱きついてきた。ほんと、可愛いな~二人とも。
「気を付けて行ってくるよ。お留守番お願いって言いたいけど、ほどほどにね」
たぶん、私を心配してストーカーすると思うから。
「「は~い」」
やる気満々だね、君たち。
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