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俺の隣を笑って歩けばいい
しおりを挟むラインで三奈と会う約束は取り付けた。でも、いつとは決めていない。それが、俺を不安にさせた。
ほんと、女々しいよな……
だけど、頭では理解しているつもりだ。少し、冷却期間を設けた方がいいってな。少なくとも、三奈の体調が……気持ちの整理が付くまでは会わない方がいい。同じことを繰り返したくねーから。
なのに、俺の足は自然と三奈の家へと向いていた。
あんな別れ方をした次の日の放課後、俺は三奈の家の前に立っている。通行人からヒソヒソされながら。
俺、ストーカーって思われてないか?
さすがに、通報はされないようけど、視線が痛い。
会って、なんて話たらいい? そもそも、どんな第一声がいいんだ? これ以上、下手なことは言えねーよな。また、線を越えてしまったら、今度こそ駄目になるような気がする。
「あ~どうしたらいいんだ!?」
頭を掻きむしりたくなった。やったら、絶対通報されるな。
「……普通にチャイム鳴らせばいいと思うけど」
別に返答を求めて言ったわけじゃないのに、返答が返ってきた。それも、すぐ傍で。ピシッと俺の身体が凍り付く。
まさか……!?
俺は声がした方に顔を向けると、三奈が買い物袋を持って立っていた。ちょっと、ニヤけた顔をしながら。
み、見られた~~!!
「…………」
何も言えずにいる俺に、三奈はさらにニヤけながら言った。
「……コンビニから帰って来た所なんだけど、入れ違いにならなくてよかったね、蓮君」
あえて触れないでいてくれることが、俺の心にピンポイントにダメージを与えていく。優しさが身に沁みるぜ。でも、塗り込まれているのは塩だけどな。
それでも、こんな状況で、三奈の顔が見れて嬉しいって思うんだから、俺も大概だよな。思っていたよりは、顔色は戻っている。よかった~内心、ホッと胸を撫で下ろす。
「…………これ、やる」
俺は手にしていたビニール袋を三奈に押し付けた。
手ぶらで好きな女の家には行けねーからな、コンビニで新初売のジュースとデザートを買ってきたんだが……もしかして、被ってないよな。
「ありがとう、蓮君」
三奈はこっちが赤くなってしまいそうな、すっごく可愛い笑顔で、俺に礼を言った。
「そ、それ食って、さっさと休め。治ったら、また一緒に遊ぶんだろ?」
あまりの可愛さに、正面から見れね~。
しまった!! 今、俺、不機嫌そうに見えてねーか。乱暴に押し付けたし、目を合わしもしない。誤解させたくないが、しょうがないだろ。あまりの可愛さに、顔がニヤけてるんだからな。こんな締まりのない顔は見せれない。男の沽券に関わる。
「……ほんと、蓮君って優しいね」
また、この台詞だ。
三奈は俺のことを優しい人間だって思っている。どこをどう思ったらそうなるのか、心底不思議だ。俺は基本、自分が気に入った奴しか優しくしないし、誰構わず声を掛けたりはしない。かなりの認識のズレがあるよな。
何度も言うが、俺は優しくはない。優しいのも、気遣うのも、三奈お前だけだ。そのことに、早く気付け。
そして、俺の隣を笑って歩けばいいんだ。
「別に普通だろ? で、次会うまでに体調戻しておけよ」
ぶっきらぼうな言い方をする俺は、そう言い残すと、さっさとその場から逃げ出した。
それにしても、今日も三奈の家、電気付いてなかったな。
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