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第六章 田舎娘なのに王城に招かれました
私が唯一できる意趣返し
しおりを挟む「……結局、晩ご飯食べ損なったままだったね」
大狼様からの帰り道、途中まで案内してくれた女性と別れた私は小さな声でボヤいた。
「お腹すいたよね。部屋に戻ったら、テーブルに果物ぐらい置いているからそれ食べたらいいと思うよ」
「えっ!? あれ食べてよかったの!?」
てっきり、絵とか壺のような観賞用だって思ってたよ。綺麗に飾られてるから。
「それ、わかる。私も最初そう思った」
その時を思い出したのか、セシリアは笑いながら言った。
「セシリアも?」
貴族の家は大なり小なりしてると思ってた。セシリアは笑いながら、ナイナイって右手を横に振った。
「私の家は男爵家だよ。資産がある男爵家もあるけど、家は違うからね。そもそも、果物を飾ったりはしない」
「そうなんだ。私の村にも商人の家があったんだけど、飾ってなかったよ」
「そんな余裕なんてないからね。果物は食べ物だよ」
貴族っていっても、一概に違うんだね。そりゃあそうか。でも、セシリアの家は他の貴族様から一目置かれている。それってやっぱり、教皇様の縁者だからだよね。
「そうだよね」
私の家は果物自体贅沢品だったけど。月一、食べれたら幸せだった。貧乏だったからね……今は少しはマシになってると思うけど。仕送りを毎月してるからね。
「……学園にいると、錯覚しそうにならない?」
不意に、セシリアが尋ねてきた。
「なるなる。高位の貴族様が在席してるから、贅沢品で溢れてるよね。お菓子もそうだし、果物もそう。普通に、グレアの実のジュースが販売されてるのには驚いたよ。たまに怖くなるんだよね、学園の生活に慣れてしまったら、以前の生活には戻れるのかって」
今でも少し怖いんだから。日常的にお菓子食べてるけど、村ではそれこそ贅沢品だったんだからね。砂糖や蜂蜜なんて、そもそも高級品なんだし。
「……ユーリアは村に戻るつもりなの?」
気楽に答えていたら、セシリアに真顔で訊かれた。一瞬、言葉に詰まった。
「そうだよね……村には戻れないよね」
学園を卒業したら、私は正式に姫聖女として神殿から告示される。あくまで学園は、聖女の勉強をするためで、聖女になるために通ってはいない。
「卒業したら、遊びにいくのも難しくなるよ」
「わかってる……」
たまに、セシリアは私に現実を忘れないよう釘を刺す。
そりゃあそうだよね、セシリアは私のフォローをするために学園にきたんだから。ちょっと寂しいけど、しかたないことだよね。それに、私を思っての助言なんだから、嫌な気持ちや腹が立ったりはしない。
さっきまでは、学園は聖女の勉強のためだけだって思ってたけど、それだけじゃないよね。
私が田舎娘であるユーリアから、姫聖女であるユーリアへと変わる期間でもあるんだ。
でもね……どんなに取り繕っても私は田舎娘。絶対ボロが出るし、陰口も叩かれる。平民が聖女になること自体、ほぼないのが現実だからね。風当たりは絶対強いよね。だからといって、私は忘れたくないの。
だって、今の私の基礎は小さな田舎の村で形成されたものだからーー
未来を楽に歩みたいからといって村のことを切り捨てたら、私が私でなくなる気がするんだよね。だからできない。っていうか、したくはない。
『捨て去る必要はないよ。そのままのユーリアがカッコよくて可愛いんだから』
ハクアの言葉が、私の漠然とした不安定を取り去ってくれた。さすが私のハクアだよ。
「私も、今のユーリアが好きだな」
「ありがとう」
セシリアの気持ちが嬉しくて、私はにっこりと微笑む。
私は田舎娘だけど、そんな自分を嫌とは思わない。確かに学園内では、まだまだ私の存在を認められない人たちが多いよ。実際、ちょっとした意地悪もされてるし、陰口も叩かれている。でもね、私は自分を否定したくはないの。だってしたら、両親もまだ見ていない弟か妹も否定することになるからね。それに、この私を大好きと言ってくれる親友もいる。
だから、私は自分を偽らずに生きていく。辛いことがいっぱいあると思うけど。それに腹を立てながらも、この瞬間を精一杯楽しむの。
それが、私が唯一できる意趣返しかな。
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最後まで読んで頂きありがとうございます。
重ねて、ご指摘ありがとうございます( ꈍᴗꈍ)
早速訂正しました。
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面白くて一気に読んじゃいました!
ユーリアのご両親の過去も訳アリそうで気になります!
もふもふも良き♡♡♡
更新楽しみにお待ちしてます♪♪♪(^з^)-☆
この作品を読んで頂きありがとうございます。
重ねて、感想ありがとうございます。
とても嬉しくて、励みになります。
そうですね。古竜様たち全員と契約交わしていませんし、そのうち、ひょっこりと戻ってくるかも。
その時は、また応援して頂けると嬉しいです。
続きが気になる!!
ありがとうございます。
これからも、頑張って書いていきますね。