64 / 74
第六章 田舎娘なのに王城に招かれました
宰相様
しおりを挟むちょっと、お手洗いを借りただけなんだけど……ここはどこ? さっきまで、私たちがいた庭じゃないよね。似てるけど違う。植わっている花が違うもの……もしかして、迷った? そもそも、王宮って広すぎるのよ!! っていうか、なんで、お庭が何個もあるのよ!?
『ユーリアって、方向音痴だからね……』
悟ったかのように呟くのは、聖獣ハクア様。
『頭の上でボヤくのなら、間違える前に教えてよ!!』
王宮だからね、誰の目があるかわからないから、念のために念話で文句を言った。辺りを見渡すけど、誰もいない。どうしようかと悩んでいると、意外に早く助け舟が現れた。
「君は、第一王女殿下のご友人か?」
とても渋い声で、そう話しかけられた。
振り返ると、三十代前半ぐらいの偉いおじさんが立っていた。なぜ偉いって思ったのかって、皺一つない私服を着て王宮内にいるんだもの、それなりの地位にいる人だよね。それ以外なら、皆制服を着てるはずだからね。だから、私は慣れないカーテシーをしてから答えた。
「はい、ユーリアと申します。第一王女殿下様にご招待をいただき遊びにきたのですが、道に迷ってしまい困っていました」
なぜかおじさん、ジッと私を見てるし、視線が痛いよ~
「……なら、私が送ろう」
少し考えてからおじさんは言った。さりげに、手を繋いでくれた。子供でもいるのかな。知らない人に手を繋がれたら普通なら嫌がるんだけど、なぜか振り払ったりはしなかった。なんとなく、親近感があるんだよね、このおじさん。
「ありがとうございます」
私は素直にお礼を言った。ありがとうとごめんなさいはちゃんと言わなきゃね。
「……君は変わっている。私が怖くはないのか?」
そう訊かれて私は見上げる。おじさんと目が合った。
怖い? 特に、強面でもないよね。反対に、とても綺麗な顔してるけど。
「怖くはありません」
素直にそう答えたよ。そしたら、おじさん、少しビックリしたようで目を見開いていた。
「……本当に変わっている。それに、無警戒すぎる」
「無警戒ですか?」
「そうだ。見知らぬ人の手を簡単に握るものではない」
いや、掴んできたのは自分だよね。
「確かにそうですね。でも、おじさんは信用できます」
要職のある人をおじさん呼びしてよかったのかな? 家名知らないからしかたないよね。
「私を信用すると……初めて会った人物なのにか?」
感情がまったく見えないほど澄んだ目で、おじさんは尋ねる。怖いって言われてるのは、この目のせいかな? 私は綺麗だって思うけど。
「言われてみれば、そうですね。怖くないのは、私の知っている人に似ているからかもしれません。それに、この場で犯罪は犯せないでしょ」
私がそう言うと、おじさんは笑った……かのように見えた。錯覚だと思えるほどの短い時間だったけどね。
「確かにそうだ。この場で犯罪は犯せない。君は本当に変な子だ。だが、いい」
一応、褒められてるのかな?
「ありがとうございます」
とりあえずお礼を言ったら、おじさんは足を止め頭を下げた。
「礼と謝罪が遅くなった。我が娘を助けてくれて感謝する。そして、我が娘と嫡男の非礼、心から詫びよう」
私が警戒しなかったのは、レイティア様のお父様だったからね……ということは、宰相様? なら、宰相様の登場タイミング良すぎるよね。たぶん、わざわざ私に会いにきたんだと思う。
「宰相様、礼も謝罪も必要ありません。私は怒ってはいませんから。だから、顔を上げてください。宰相様が平民に頭を下げてる場面、ほかの人に見られたら大変ですよ」
「礼と謝罪に身分は関係ない」
宰相様ははっきりと断言する。
「…………」
今度は私の方がビックリしたよ。とっさに言葉が出てこない。
「おかしなことを言ったか?」
「……いえ、ちょっとビックリしただけです」
まさか、宰相様がそんなことを言うなんて想像してなかったよ。
私の答えに、宰相様は苦笑する。
「我が娘も嫡男も、そのように育てたつもりだったのだが……」
自嘲気味に呟く宰相様。この人は家族を愛せる人だと思った。私のような子供が言う言葉が慰めにはならないと思うけど、それでも、少しでもその気持ちが軽くなることを願って口を開く。
「……それは難しいと思います。この世界に、身分制度がある限り。理想を語ることができても、頭で理解していても、それを実践できる人は少ないのが現実でしょう。それは仕方ないことだと思います。その中で、宰相様や第一王女殿下様はとても珍しいです。それでも、そういう方が増えればいいなと、私は願ってます」
レイティア様は王女殿下のように実践はできなかったけど、少なくとも、表面上では私を見下しはしなかった。お兄様はまた違うけどね。
「ならば、私はそのような国がくるよう頑張らなくてはならないな」
私の気持ちが伝わったのか、フワッと宰相様が微笑む。すぐに真顔になるけど。
「宰相様ならできますよ」
「できるだろうか?」
正直、難しいと思う。でも、しようとすることが大事なんだよ。
「もし、宰相様の時代でできなくても、宰相様の想いを引き継いだ方が次の宰相様になったら、いつかはできると思います」
また、目を見開く宰相様。
「……ユーリアなら」
「私がなにか?」
そう問いかけた時、宰相様を呼ぶ文官様の声が聞こえてきた。
私を近衛騎士に預けてくれてくれてもよかったのに、責任感の強い宰相様は文官様を待たせて、約束通り私を送ってくれた。
私と手を繋いだ宰相様との登場に、目をまん丸くした王女殿下とセシリアに尋問されたのは言うまでもないよね。
30
お気に入りに追加
194
あなたにおすすめの小説
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)
稀代の悪女は死してなお
楪巴 (ゆずりは)
児童書・童話
「めでたく、また首をはねられてしまったわ」
稀代の悪女は処刑されました。
しかし、彼女には思惑があるようで……?
悪女聖女物語、第2弾♪
タイトルには2通りの意味を込めましたが、他にもあるかも……?
※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。
かつて聖女は悪女と呼ばれていた
楪巴 (ゆずりは)
児童書・童話
「別に計算していたわけではないのよ」
この聖女、悪女よりもタチが悪い!?
悪魔の力で聖女に成り代わった悪女は、思い知ることになる。聖女がいかに優秀であったのかを――!!
聖女が華麗にざまぁします♪
※ エブリスタさんの妄コン『変身』にて、大賞をいただきました……!!✨
※ 悪女視点と聖女視点があります。
※ 表紙絵は親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
少年騎士
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。
【奨励賞】おとぎの店の白雪姫
ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】
母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。
ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし!
そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。
小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり!
他のサイトにも掲載しています。
表紙イラストは今市阿寒様です。
絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。
村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~
めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。
いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている.
気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。
途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。
「ドラゴンがお姉さんになった?」
「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」
変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。
・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる