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第五章 田舎娘が竜の愛し子になりました

この時点から始まるかもね

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 ようやく着いたよ……

 あ~炎狼さんの出迎え可愛いなぁ。額に小さな青白い炎があるから、炎狼って言われてるんだね。頭撫でても大丈夫かな? ほんと、可愛い。自分から頭擦り寄せてきてくれた。でも、不思議と熱くないの。なので、じゅうぶんにモフらせてもらいました。一緒にいた小鳥さんの頭も。たぶん、この小鳥さんが火の精霊王なんだよね。流れ的に。

「ユーリア、そろそろ現実を見た方がよいぞ」

 黒竜王様の言葉に、私は無理矢理に現実に引き戻された。あえて、視界にいれないようにしてたのに。

 ……これ進まなきゃいけないの? できれば進みたくないよ。人族には恐怖心があるんだよ。生存本能が進むのを拒否してるの。

「……俺の家、きてくれないだ~そっか、しかたないよな。場所が場所だし……せっかく、ユーリアが好きなお菓子用意したのに……」

 赤竜王様、めちゃくちゃ落ち込んで地面にのの字書いている。結構な数になっていた。

 皆責めるけどさ……私が二の足を踏むのもしかたないよ。だって、赤竜王様の家と庭の外堀には、ボコボコと泡を噴いてるマグマだよ。ましてや、その家に行くまで約一メートル幅の石の通路。今まで歩いてきた通路よりもかなり狭いよ。いくら、落ちても大丈夫って言われても、落ちたくないよね。

 チラチラと赤竜王様が見てくる。黒竜王様とハクアの視線がグサグサと突き刺さるよ。

「わ、わかったわよ、いけばいいんでしょ」

 もう、ヤケクソよ!! 落ちても大丈夫って言葉信じてるからね。

「ユーリア様」

 腹を決めた私のすぐ側に、ライド様が立っていた。そして、短く「失礼します」とライド様は声をかけると、フワッと私の身体が宙に浮いた。なっ、なんと、ライド様に横抱きされたよ。

「ちょ、ちょっと、ライド様!!」

「お静かに、暴れると落ちます。このまま私がユーリア様を運びますから」

 横抱きは恥ずかしいけど、助かったよ。正直、足がすくんでたから。

「それはならぬ」

 黒竜王様が低い声で言い放った。ライド様の足が止まる。

『ここから先は、ユーリア一人でいかないとダメだよ。契約に必要なことだからね。黒竜王の時もそうだったでしょ』

 ハクアが黒竜王様の代わりに教えてくれた。

 思い返してみれば、色々おかしなことがあったよね。赤竜王様の加護で護ってくれてるからマグマの側を歩いても大丈夫だったこと。人がいることができない場所でも平気だったし。

 でも一度も、赤竜王様も黒竜王様も契約を交わしたとは言わなかった。交わそうとも言わなかった。

 契約と加護はセットじゃないかも。

 さっきまで抱っこしてたのに、契約はかわされていない。額を合わせてないからかもしれないけど。黒竜王様やハクアの言う通りなら、契約条件があるって考えるのが自然だよね。

「……大丈夫。ライド様、下ろしてください」

 私がそう言うと、ライド様は素直に下ろしてくれた。私は家のある方に視線を向けてから、赤竜王様に視線を向ける。

「赤竜王様、契約はあの家の中でないと交わせないんですね?」

 確信を持って尋ねる。

「そう。そして、あの家に入れる人族は〈竜の愛し子〉だけ」

 だったら、初めからそう言ってくれたらいいのに。そこが、黒竜王様や赤竜王様の優しさなんだけど。だから、黒竜王様も赤竜王様も、私を家に招くことに躍起やっきになってたんだね。納得したわ。他で契約を交わせるなら、こんなまどろっこしいことしないよね。それに、契約のためだけに私を家に招いたとは思えないし。少なくとも、黒竜王様は違った。鈍感な私でもわかるよ。

 私は軽く息を吐き出すと言った。

「わかりました……こうなったら、腹を決めるわよ!!」

 ここで、ジュリアス様とライド様はお留守番。私は通路の前で足を一旦止める。

「下を見ないようにな」

「それ、高い場所で言うセリフ」

 思わず、苦笑がれちゃったよ。

『ゆっくりでいいからね、頑張って』

 ハクアが応援してくれたよ。

 うん、頑張るね。

 黒竜王様の時はなにも知らないで足を動かしていた。でも今回は、すべてを承知して足を動かす。本当の意味での、私の〈竜の愛し子〉生活はこの時点から始まるかもね。






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