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第五章 田舎娘が竜の愛し子になりました
忘れない
しおりを挟む闇の精霊王って……
聞かなかったことにしたい。っていうか、できるよね。自分の考え方次第で。記憶にフタをするかんじで、中身がどうであれリスさんはリスさんだから。いける!!
「いけるわけなかろう。目や耳を塞いでも変わらぬぞ」
黒竜王様の呆れた声がした。
「…………やっぱり」
ですよね~
「特に不愉快そうではなかったぞ。安心するがよい、我に関係なく気に入っておったぞ」
「……なら、よかったです」
そうとしか言えないよ。
「そうそう、やつらもユーリアの影を通して移動できるようにしておいたぞ。だから安心せい」
「…………はい?」
「これで、人攫いを返り討ちにできるぞ」
テリトリー内だったからね。私たちの会話は聞かれてたよね。うん、黒竜王様が私を心配してくれてのことだから嬉しいよ。でもね、人相手にSSランクの災害級の魔物をけしかけるなんて、かなり過剰防衛だよね。
「そんなわけねーじゃん。俺たちの愛し子に手をだそうとするやつらは、ケッチョンケッチョンにやられても文句なんか言えねーよ」
赤竜王様が参戦してきたよ。
「そうですよ。もし、ユーリアの身になにか起きたら、古竜様たちも聖獣様も悲しみと怒りで苦しみますよ」
ジュリアス様が会話に加わった。さっき、黒竜王様に怒られたばかりだから、すっごい勇気がいったよね。でも、必要だと思ったから言った。古竜様たちもハクアも怒りもせずに聞いている。
「そうだな、我は悲しくて悲しくて引き込もってしまうかもしれぬな」
反対に追撃してきたよ。
『僕も、そうなったら……』
ハクアもか!! 引き込もったらどうなるのよ?
「この世界は、ずっと冬が続くことになるに決まってるだろ」
赤竜王様が教えてくれた。
冬って……
雪が降って綺麗だって思うのは、なにも知らない小さな子供か裕福な家の人だけだよ。ましてや私みたいな田舎の子供にとって、冬はあまり好きな季節じゃない。農作物はとれないし、山にも入れない。蓄えてあった食べ物を少しづつ食べながら、春がくるのを両親と一緒に待つだけ。それはそれで温かかくて幸せだけどね。でもそれは、いずれ春がくるってわかってるからだ。
終わりがありから、苦痛に耐えられるんだよ。
「……それって、軽くだけど脅してるよね」
皆はただ私を心配してくれてるだけ。わかっている。でも、天邪鬼だから、そんな台詞が口からポツリと出てしまったの。
「「そういう、意味じゃない!!」」
『違うよ!! 僕らはユーリアが心配で!!』
古竜様たちとハクアは必死で否定する。反対に、ジュリアス様とライド様は思い詰めた様子で答えた。
「そういう意味ではなくて、あの時は生きた心地がしませんでしたから……だから、私は」
「あの時、私が無理にでも手を繋いでいたらと、今でも悔やみます。なのでーー」
ほんと、おかしいよね。私みたいな平民の子供に、皆が慌てふためいている。秀でたところもない、平凡な田舎の子供の私にね……それが、とても悔しい。そして、そんな自分がとても嫌でしかたがない。馬鹿なこと言っちゃった……
「……ごめん、ちょっと意地悪なこと言っちゃったね。そんな風には思ってないから安心して。学園内は安全だから、護衛は大丈夫だよ。でも、学園外はお願いできますか? できれば、混乱するので姿は見せないで」
私はにっこりと微笑みながら答えた。
「「もちろん!!」」
黒竜王様と赤竜王様って仲良しだよね。息ぴったりだもん。
『僕の存在忘れないで~』
焦った声のハクアに私は顔が綻ぶ。でも、すぐにいつもの表情に戻った。だって、気付いてたから。
赤竜王様が言った台詞は大袈裟なことじゃないってことにーー
私は忘れない。一生、そのことを胸に抱えてすごすことになるんだよね。でもね、今は竜の愛し子になったことも、姫聖女になったことも後悔してないの。流され感はあるけどね。
だって、私にとって大切な仲間だから後悔なんてするわけないでしょ!! でもまぁ小心者だから、今みたいにグズることもあるけど。皆は許してくれるよね。
赤竜王様の家に行くまで、色々考えさせられたな。でもそれって、私にとって必要なことだと思う。
「ユーリア、この先が俺の家!!」
腕を緩めると赤竜王様が抜け出して振り返ると、とっても良い笑顔で言った。
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