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第四章 田舎娘と古代竜
白い霧
しおりを挟むあのあと、王女殿下とセシリアがものすごく怒ってね、レイティア様を引きずって森の中に行こうとした時は、必死で二人を止めたよ。なにかあったら困るからね。
渋々、森の中には入らないでくれた二人だけど、怒りがおさまらない王女殿下が、代わりに、こんな宣言をレイティア様にたいしてしたの。
「ここから無事に脱出できたら、レイティア、貴女とは縁を切らせてもらいますわ。貴女もそのつもりで。ローベル侯爵令嬢様」
レイティア様の肩がビクッと震えた。家名で呼ぶってことは、ただの一貴族として扱うってことを意味してるから。つまり、幼馴染をやめるって宣言したことになるの。それって、後の学園生活、レイティア様はかなり奇異な目で見られることになると思う。彼女が王女殿下の幼馴染であることを知っている貴族は多いからね。汚点になるよね。
「私も、そう呼ばせてもらいます。学園に戻ったら、必要なこと以外の交流は控えさせてもらいます」
セシリアも王女殿下に続いてそう宣言した。その表情は、感情が消えたかのようは無表情で、声はとても冷え冷えとしたものだった。
マジギレしてる……
思わず、私は息を飲む。セシリアって、怒りの度合いが強いほど、表情なくなるんだよね。怒気が凄いよ。ここまで怒ったセシリアを見たのは初めてだった。
「……あ、あの……そこまでしなくても」
私が原因で幼馴染の関係にヒビをいれたくないし、そもそも、こんなことに巻き込まれたせいだし。よほど不安な表情をしていたからかな、王女殿下は苦笑しながら言った。
「この件に関して、ユーリアは関係ないわ。だから、ユーリアが気に病むことはないのよ。私は心底、残念に思い軽蔑した。ただそれだけのこと」
「……エレーナ王女殿下」
その苦笑した顔が、私には泣き顔のように見えた。この人は私と似てる。生まれた立場からかもしれないけど、素直に泣けなくて、泣く代わりに笑ってしまう。それが誤解を受けるとわかっていてもね。私は両親に心配を掛けたくなかったからだけど。
「…………残念……残念なのは貴女の方よ。我が儘だと陰口を叩かれるでしょうね」
それは、学園内では、レイティア様の方が優秀だと思われてるから……家名呼びになった理由は公にはできないし。
「性格ひねくれてますね」
セシリアの冷たい声がレイティア様を貫く。
「……私は、レイティア様とエレーナ王女殿下が仲違いするのは嫌です。でも、それを決めるのは私ではありません。それに、エレーナ王女殿下は我が儘でこんなことを言ったんじゃないくらいわかります。でも……そのせいで、エレーナ王女殿下の周りに味方がいなくなったとしたら、私とセシリアが必ず味方になります」
そう告げると、レイティア様は傷付いた顔をして俯いてしまった。もうなにも聞かないって壁を張られちゃったよ。完全に拗らせたみたいね。
私はこれ以上、レイティア様になにか言っても通じないし信じないと思って、口を閉じた。
代わりに、王女殿下の絡みが強くなった。なぜか、背後霊化してる。そして、そのポジションを巡ってセシリアと張り合っていた。
時間が経って、たまに、レイティア様に視線を向けると、変わらずに俯いたまま。気不味くなって私は言葉をかわさないでいた。っていうか、なに話したらいいかわからないって感じかな。こういう時って、時間がやけに遅く感じるんだよね。私的には、早く朝が来てほしいんだけどね。
『ユーリアは気にしなくていいよ。こいいう場面で、人の本質が見えてくる。それに向き合うか、向き合わないかは、レイティア自身が決めることだよ』
厳しいけど、ハクアの言う通りだと思う。私はあんなことを言われたのに、レイティア様を嫌いになれないの。難しいかもしれないけど、また一緒にお茶を飲みたいなと、心から思った。
見張りをたてながら、私たちは順番に仮眠をとった。
やっぱり疲れてたのかな、ぐっすりと眠っていると、寒くなってきて薄っすらと目を覚ました。今は王女殿下が見張りの番をしている。毛布代わりにしていたローブを顔まで引き上げようとして、ふと気付く。
「……霧…………」
濃い白い霧が周りを覆っていた。
身震いする。上半身を起こしたら、見張りをしているはずの王女殿下がぐっすりと寝ていた。隣で寝ているセシリアの身体を揺さぶっても、ピクリともしない。
普通の霧じゃない!!
反射的に、口と鼻を袖口で覆うと、ガサッと背後から音がした。振り返ると、そこには果物を運んでくれた狼さんがいたの。
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