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第二章 出稼ぎライフの始まりです
クマ避けの鈴と虫除けの香
しおりを挟むあれから、旅は順調に進んだよ。本当に順調にね。
明日の午後には王都に着く予定かな。
メルセの街で起きたような事件は幸いにも起きなかったし、魔物も野盗も、最後まで出てこなかったよ。悪天候で足止めされることもなかったし。
旅ってこんなに安全なの? って思ってしまうくらい安全だった。私の不注意で起きたメルセの街のことは別としてね。
これには驚いたよ。いや……マジで。
ど田舎に住んでいる子供のご褒美はね、村の外から来る人の話を聞くことなの。主に行商人さんかな。私もだけど、子供たち皆でワクワクしながら聞いてたよ。
だから、外がとても危険な世界だって知ってた。山に狩りに行って、魔物や獣に襲われて怪我した人もいたし。それに、この馬車を警護するために聖騎士様と騎士様もいるんだから、当然、旅は危険なものだって思ってたんだけどな……
さすが、ハクアだよね。聖獣様のパワーってすごいわ。心底、そう思ったよ。
「ほんと、ハクアってすごいよね。ハクアのおかげで、危険なこと何一つ起きなかったよ」
定位置となった私の膝の上で、気持ち良さそうにお昼寝しているハクアの背中を撫でながら、小さな声で感謝の言葉を口にする。
『……僕だけの力じゃないよ』
起こしちゃったかな。前足を伸ばし伸びをしながらハクアは答える。
「いやいや、ハクアの力でしょ」
思いっきり否定する。私にそんな力ないよ。
『違うよ。ユーリアの力も少しは関係しているよ』
「う~ん、そうかな?」
首を傾げる私に、ハクアが教えてくれた。
『聖女の力だよ。聖女の近くには魔物が寄って来ないからね。野盗はわからないけど』
そう言われても、実感ないな。そもそも、聖女としての実感もないからね。
「そうなんだ。よくわかんないけど、クマ避けの鈴みたいなものなの?」
『または、虫除けの香みたいなものだね』
なるほど。なんとなくわかった。
ハクアの言い方がおもしろくて笑ってしまう。魔物を虫って言えるのはハクアだけね。
『ユーリアって、ほんと、見てて飽きないよ。少し目を離したら、変わってるんだから』
眩しそうなものを見るような目をしながら、ハクアは私を見上げる。ジュリアス様もライド様も、ハクアにつられるように私に視線を向けた。
「変わってるって、どこが?」
曖昧なことを言われても困るよ。
『ユーリア自身はわからなくても、僕やジュリアス、ライドにはわかるよ。なんか、逞しくなったっていうか……そう、魂の光が増してるって感じかな。吹っ切れたのか、成長したのか、どっちにしても良い感じだよ。さすが、僕の聖女だね』
僕の聖女ってことはひとまず横に置いといて、確かにそうかもしれない。
「この旅で色々学んだし、考えたから。……メルセの街の件は、いいきっかけになったと思う。勉強の大切さもマナーの必要性も、自分がどうやっていきたいのかも、考えることができたよ。だから、皆が、私のことをちゃんと見ててくれて嬉しい。ありがとうね」
両親以外に、私のことを親身になってみてくれる存在に、私は心から感謝した。そして思うの。皆に恥じないような行動をしようってね。もちろん、楽しみながら。無理してるの気付かれたら、皆悲しむもの。
明日はいよいよ王都。
ど田舎の、のほほんとした生活とは完全に真逆な生活が始まるんだ。あっ、それから、王都に着いたら初給料がもらえるんだって。ちゃんと仕送りするから待っててね。
少し怖いけど頑張るよ。でもね、ワクワクもしてるんだ。頑張るから応援しててね、お父さん、お母さん。
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