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第二章 出稼ぎライフの始まりです

領主様のせいで慌ただしい出発となりました

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「眠かったら、寝てていいですからね。気持ち悪くなったら、遠慮なくおっしゃってください」

 初めての馬車移動に、ジュリアス様がいつも以上に私に気遣ってくれる。聖獣様は私の隣で丸まって寝てるから、話す声は自然と小さくなるけど、じゅうぶん聞こえる。

 朝が早かったから仕方ないよね。騒がれるのを避けるために、暗いうちに出発したから。

 領主様が来るって噂がジュリアス様たちの耳に入ったから出発を早めたの。本当は、夜が明けてからの出発だったんだけどね。

 聖女ってだけですっごく価値があるんだって、つくづく思ったよ。当の本人は、いまいちまだ実感がないけどね。でもこれから先、嫌でも実感することになると思う。潰されないようにしなきゃね。

 なので、私の見送りはお父さんとお母さん、サリアだけだった。サリアは途中で目を覚まして出て来てくれたんだよ。それだけで、私はとても嬉しかった。

「はい、ありがとうございます。馬車に乗る前に、乗り物酔いの水薬をライド様からもらったので、今は大丈夫です。でも、本を読むのは止めときます」

 酔ったら困るから。外の景色を見たいと思ってもまだ暗いし、少し寝ようかな。

 そうそう、私は神官様たちのことを名前で呼ぶことにしたの。神官様だったら、二人とも振り返ちゃうからね。

「構いませんよ。勉強はいくらでも取り戻せます。気分が悪くなるかもしれないのに、する必要はありません。そんな状態でしたとしても、身に付きませんよ」

 私もジュリアス様に同意見。

「それにしても、ユーリア様が読み書きができて安心しましたよ」

 今度は、ライド様がホッとした様子で話し掛けてきた。ジュリアス様に睨まれている。別に気にしないのに。

 ライド様がホッとする気持ちはわかる。王都から遠く離れたど田舎の村では、まだまだ読み書きができる人が少ないもの。できなかったら、そこからだもんね。下手したら、入学を一年遅らす必要もあったと思うよ。私は読書好きなお父さんの影響で、小さい頃から本に触れる機会が多かった。なので、読み書きは自然と身に付いたの。

「お父さんが、本好きだったので」

「ユーリア様のご両親は、あの村の出身ですか?」

 ジュリアス様が訊いてくる。

 なんで、そんなことを訊いてくるんだろ? 不思議に思いながらも素直に答えた。

「いいえ。引っ越して来たって聞いてます。私が生まれる前に」

「そうですか……話してて、学のある方だと思いましたので」

「あっ、それ、聖獣様も言ってました。でも、お父さんは革職人ですよ」

 にっこりと微笑みながら答えた。ジュリアス様とライド様の目が一瞬、大きく見開いた。

 私も気付いてた。お父さんは普通の革職人じゃないってね。

 お父さんの部屋の本棚には、難しい本がいっぱい並んでる。中には、専門書的なものもあった。触れることも読むことも許してはくれなかったけど。だからもしかしたら、お父さんはそれなりの家で生活していたのかもしれないって、不安に思っていたこともあった。

 過去はそうかもしれないけど、今のお父さんは革職人だよ。お母さんのことが大好きで大切にしている。もちろん、私もね。それにもうすぐ、弟か妹が生まれるの。それが真実。それはこれから先も変わらない。変わっちゃいけない。そんな思いをのせて笑ったの。

「「……わかりました」」

 ジュリアス様たちに伝わってよかったよ。

「ユーリア様、朝食までまだ時間があります。それまでお休みください」

 ライド様にそう促されて、私は目を閉じる。さっきまでは全然眠たくなかったのに、意識がストンと落ちた。目を覚ます頃は、夜も明けて、外の景色が見えるよね。村から出たことがなかったから楽しみ。




「寝たか……」

「ああ、よく寝ている」

 寝顔はまだまだ子供だと、ジュリアスとライドは思った。それがかえって恐ろしいと、ジュリアスは内心呟く。

「どう思う?」

 真剣な顔で訊いてくる親友に、ライドは顔をしかめる。

「どういう意味だ? ジュリアス」

「七歳の子供が、私たちを黙らせるなんて、普通はできないぞ」

 声を荒げることも癇癪かんしゃくも起こすことなく、笑顔一つで黙らせた。それ以上、詮索せんさくするなと釘を刺された。それに私は驚き、恐れを感じた。ライドもそうだろう。

「それができるから、聖獣様がユーリア様を選んだんだろ。そもそも、普通の聖女様に聖獣様のお相手を務めることは、まず無理だからな」

 ライドの言葉にジュリアスが口を開くより先に、寝ていたはずの聖獣様が答えた。

『そうだよ。ユーリアの魂はとても強くて綺麗きれいなんだ。だから僕は、ユーリアにかれて選んだの。わかったら静かにしてね。ユーリアが起きちゃう。僕もまだ眠いんだ』

「「申し訳ありません」」

 小声でそう謝罪し頭を下げたジュリアスとライドは、私と聖獣様を起こさないように口を閉じた。


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