護国神社の隣にある本屋はあやかし書店

井藤 美樹

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第四冊 手帳

終章

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「疲れた~~」

 行儀悪いけど、帰って来た途端ソファに倒れ込んでしまった。体はそんなに疲れてないのにね。ドッと全身から力が抜けた。まるで、全身がクラゲになったみたい。

 よっぽどのことが起きない限り勝てる喧嘩だったけど、それでも無意識に肩に力が入ってたんだね。やっぱり緊張してたんだと思う。とても。絶対、後でガチガチに肩凝りそう。

(ほんと、疲れた……。少し寝ようかな)

 眠気に勝てずに目を瞑ろうとした。だけど、興奮した付藻神様たちに邪魔された。心配掛けてたからね。仕方ないか……。渋々、起き上がる。

『中々派手にやったな、祐樹。よくやった』

 第一声は朱里様。続いて、蒼と陸。最後は矢那さんだ。次々に私を誉めてくれた。

『『スカッとしたよ』』

『格好良かったですわ』って。

 どうやら、皆わざわざ見に来てたらしい。

(地獄って、道もあんまり舗装されてないから危ないのに、しょうがないな~~)

 でも、少し嬉しい。皆には言わないけど。

 喋れない紺は私の服を引っ張り、目が合うとニコッと微笑んでくれた。紺も行ったんだね……。私を心配して危ないことしたんだから、怒れないじゃん。

「ありがとう、皆。皆のお陰で勝てたよ」

 心からお礼を言う。皆のおかげで勝てることが出来た。皆の協力があってこそ勝てたんだから。

 大袈裟じゃないよ。

 ほんと、付藻神のネットワーク凄かった。

 実は、クズと周囲の鬼たちの動向を調べあげたのは付藻神様たちだ。連携プレイでね。おかげで、借金してることも、私の名前を出して高利貸しから借りてたことも知ることが出来た。これは、とても大きいよ。

(しばらく、お酒の予備増やしとかないとね)

 付藻神様は皆大酒飲みだから。つまみも必要だね。

『これに懲りたら、もう気楽にボランティアをしないこと。いいね』

 最後に父さんが姿を現す。

「うん、これから気を付けるね。良い勉強になったよ。皆に迷惑掛けちゃったけど」

『分かったらいい。疲れただろ。今日は早めに寝なさい』

「うん。そうする」

 その言葉に甘えて、その日はいつもより二時間早く部屋に戻った。

 電気のスイッチを押す。明るくなる部屋。ふと……机に置かれた手帳に視線が止まった。自然と手帳を手に取る。

(色々あって、置いたままになってたよね。出来れば、猛さんに返したいんだけど……)

 返す方法が分からない。神楽さんが何処にいるか知らないからね。送ろうにも送れない。皆も知らないようだし。訊いとけばよかったよ。何で訊かなかったんだろう。

 いつになるか分からないけど、神楽さんに会った時に渡せるように、大事に保管しとかないとね。

 そう思った時だ。

「にゃあ~~」

 猫の鳴き声が聞こえた。

「ヒッ!!」

 思わず、ビクッとしてしまう。恐る恐る振り返ると、黒猫が一匹ベットの上にちょこんと座っていた。

(猫!?)

 何でここに……?

 そもそも飼ってないよ。

 っていうか、どこから入って来たの?

 父さんや付藻神様たちに気付かれないって、ありえないよね。

 特に悪いものじゃないようだけど……。そもそも悪意を持つものなら入って来れないからね。

 混乱している私を置いて、猫はヒラリとベットから飛び降りると机の上に飛び乗る。そして、前足を上げて手帳を持つ私の腕にのせてから、くいくいと自分の方に引き寄せようとした。

(まさか……)

「もしかして、手帳を取りに来たの?」

 何故か、そう思った。確信なんてどこにもなかったけどね。

「にゃあ」

 黒猫は短く鳴く。まるで、人間の言葉を理解しているように。

(ほんとに……?)

 半信半疑のまま、もう一度尋ねてみた。

「ほんとに手帳を取りに来たの? もしかして、神楽さんの子なの?」って。

「にゃあ」

 黒猫はまた可愛く鳴く。

 私は手帳を机の上に置くと黒猫を抱き上げた。大人しく抱かれている。

 手帳を机の上に戻すと、黒猫を抱いたまま一階に下りた。

 まだキッチンにいた父さんに黒猫を見せる。

『その猫どうしたの?』

 驚いた顔をする父さん。

「部屋にいたの」

『部屋に?』

 父さんは黒猫を凝視する。黒猫は不愉快そうに「にゃ」と短く鳴く。父さんは眉間にしわを寄せ、盛大な溜め息を吐いた。

『……そうきましたか』

 小さな声で独り言のように父さんは呟く。何か一人で納得したようだ。

「父さん?」

『……間違いないよ。この黒猫は神楽さんの使い魔だ。手帳を受け取りに来たようだね』

「にゃ!」

(やっぱりこの子、言葉が分かってる)

「父さん。この子、ちょっと見てて。手帳取って来る。渡すものもあるから」

 黒猫を父さんに預けると、慌てて部屋に戻った。嫌そうに低い声で唸っている声を聞きながら。









「おかえり」

 背後から、本を読んでいる自分を抱き締めるように腕を回す男性に言う。

「ただいま」

 男性は愛しそうに女性の耳元で囁く。

 くすぐったそうに女性は身を捩る。

 だけど、男性は逃がさないように腕に力を入れた。その手には可愛い紙袋が握られている。

「それは?」

 紙袋に気付いた女性が尋ねる。

「君の大事な愛し子の贈り物だよ」

 男性は優しい声でそう答えた。



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