66 / 68
第四冊 手帳
終章
しおりを挟む「疲れた~~」
行儀悪いけど、帰って来た途端ソファに倒れ込んでしまった。体はそんなに疲れてないのにね。ドッと全身から力が抜けた。まるで、全身がクラゲになったみたい。
よっぽどのことが起きない限り勝てる喧嘩だったけど、それでも無意識に肩に力が入ってたんだね。やっぱり緊張してたんだと思う。とても。絶対、後でガチガチに肩凝りそう。
(ほんと、疲れた……。少し寝ようかな)
眠気に勝てずに目を瞑ろうとした。だけど、興奮した付藻神様たちに邪魔された。心配掛けてたからね。仕方ないか……。渋々、起き上がる。
『中々派手にやったな、祐樹。よくやった』
第一声は朱里様。続いて、蒼と陸。最後は矢那さんだ。次々に私を誉めてくれた。
『『スカッとしたよ』』
『格好良かったですわ』って。
どうやら、皆わざわざ見に来てたらしい。
(地獄って、道もあんまり舗装されてないから危ないのに、しょうがないな~~)
でも、少し嬉しい。皆には言わないけど。
喋れない紺は私の服を引っ張り、目が合うとニコッと微笑んでくれた。紺も行ったんだね……。私を心配して危ないことしたんだから、怒れないじゃん。
「ありがとう、皆。皆のお陰で勝てたよ」
心からお礼を言う。皆のおかげで勝てることが出来た。皆の協力があってこそ勝てたんだから。
大袈裟じゃないよ。
ほんと、付藻神のネットワーク凄かった。
実は、クズと周囲の鬼たちの動向を調べあげたのは付藻神様たちだ。連携プレイでね。おかげで、借金してることも、私の名前を出して高利貸しから借りてたことも知ることが出来た。これは、とても大きいよ。
(しばらく、お酒の予備増やしとかないとね)
付藻神様は皆大酒飲みだから。つまみも必要だね。
『これに懲りたら、もう気楽にボランティアをしないこと。いいね』
最後に父さんが姿を現す。
「うん、これから気を付けるね。良い勉強になったよ。皆に迷惑掛けちゃったけど」
『分かったらいい。疲れただろ。今日は早めに寝なさい』
「うん。そうする」
その言葉に甘えて、その日はいつもより二時間早く部屋に戻った。
電気のスイッチを押す。明るくなる部屋。ふと……机に置かれた手帳に視線が止まった。自然と手帳を手に取る。
(色々あって、置いたままになってたよね。出来れば、猛さんに返したいんだけど……)
返す方法が分からない。神楽さんが何処にいるか知らないからね。送ろうにも送れない。皆も知らないようだし。訊いとけばよかったよ。何で訊かなかったんだろう。
いつになるか分からないけど、神楽さんに会った時に渡せるように、大事に保管しとかないとね。
そう思った時だ。
「にゃあ~~」
猫の鳴き声が聞こえた。
「ヒッ!!」
思わず、ビクッとしてしまう。恐る恐る振り返ると、黒猫が一匹ベットの上にちょこんと座っていた。
(猫!?)
何でここに……?
そもそも飼ってないよ。
っていうか、どこから入って来たの?
父さんや付藻神様たちに気付かれないって、ありえないよね。
特に悪いものじゃないようだけど……。そもそも悪意を持つものなら入って来れないからね。
混乱している私を置いて、猫はヒラリとベットから飛び降りると机の上に飛び乗る。そして、前足を上げて手帳を持つ私の腕にのせてから、くいくいと自分の方に引き寄せようとした。
(まさか……)
「もしかして、手帳を取りに来たの?」
何故か、そう思った。確信なんてどこにもなかったけどね。
「にゃあ」
黒猫は短く鳴く。まるで、人間の言葉を理解しているように。
(ほんとに……?)
半信半疑のまま、もう一度尋ねてみた。
「ほんとに手帳を取りに来たの? もしかして、神楽さん家の子なの?」って。
「にゃあ」
黒猫はまた可愛く鳴く。
私は手帳を机の上に置くと黒猫を抱き上げた。大人しく抱かれている。
手帳を机の上に戻すと、黒猫を抱いたまま一階に下りた。
まだキッチンにいた父さんに黒猫を見せる。
『その猫どうしたの?』
驚いた顔をする父さん。
「部屋にいたの」
『部屋に?』
父さんは黒猫を凝視する。黒猫は不愉快そうに「にゃ」と短く鳴く。父さんは眉間に皺を寄せ、盛大な溜め息を吐いた。
『……そうきましたか』
小さな声で独り言のように父さんは呟く。何か一人で納得したようだ。
「父さん?」
『……間違いないよ。この黒猫は神楽さんの使い魔だ。手帳を受け取りに来たようだね』
「にゃ!」
(やっぱりこの子、言葉が分かってる)
「父さん。この子、ちょっと見てて。手帳取って来る。渡すものもあるから」
黒猫を父さんに預けると、慌てて部屋に戻った。嫌そうに低い声で唸っている声を聞きながら。
「おかえり」
背後から、本を読んでいる自分を抱き締めるように腕を回す男性に言う。
「ただいま」
男性は愛しそうに女性の耳元で囁く。
くすぐったそうに女性は身を捩る。
だけど、男性は逃がさないように腕に力を入れた。その手には可愛い紙袋が握られている。
「それは?」
紙袋に気付いた女性が尋ねる。
「君の大事な愛し子の贈り物だよ」
男性は優しい声でそう答えた。
0
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します
矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜
言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。
お互いに気持ちは同じだと信じていたから。
それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。
『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』
サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。
愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる