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光になれないのなら、闇になるしかないじゃない
しおりを挟む「……今も不思議ですわ。何故、あの女に、そこまでの信望者がいるのか」
ボソッとスノア王女殿下が呟く。
「カイナル様と一緒ですよ。抜きん出た者を賞賛し、憧れるのは、亜人族、人族、問わずに同じでしょう」
私がそう答えると、スノア王女殿下は顔を真っ赤にして怒り出した。逆鱗に触れたみたいね。
「カイナル様とただの犯罪者を同一に見ないで!!」
「見てはいませんわ。スノアお姉様もご存知の通り、ファンって一概に言っても、大まかに言って二つに分けらるでしょ。公式なものと非公式なものですね。まぁ、そのどちらも、カイナル様の熱烈なファンには違いないのだけど、節度があるかないかの違いが大きいですよね」
因みに、スノア王女殿下が立ち上げているのは公式なもので、活動の幅は広いけど過激な行動を取ったりはしない。遠くから見詰め、観賞するのが主な目的ね。あとは、情報の交換かな。あくまで観賞で、恋愛には発展しにくい。したとしても、淡いものだわ。憧れが行き過ぎたぐらいの可愛いものね。
「だから、なんですの?」
スノア王女殿下は不快そうに眉間に皺を寄せている。発せられる声も低く険しい。アベル殿下とカイナル様は、黙って私たちのやり取りを聞いていた。
「だけど、ユベラーヌは違います。あの女は、気にいったものを全部自分のものにしなければ気がすまないタイプ。そのためなら、なんでもするし利用します。たった一つしかない命でさえも。今まで、あの女が利用してきたのは他者の命です。不幸なことに、あの女はそれが許される立場にいました。だとしても、許されないけど。罪には問われない。社会的地位はそのままです。いえ、違いますね。戦果を上げたとして、王国に認められ盤石のものとなりました。その積み重ねが、あの女を完全な化け物へと変貌させたのだと、私は思います」
あの女がカイナル様に抱くのは、ファンや愛というよりは執着ね。そして、行きすぎた自分に対しての自尊心。究極の自己中女だわ。
「何が言いたいの?」
スノア王女殿下の問いに、私は同じ言葉を繰り返した。
「人は抜きん出た者が輝いて見えてしまうものです。それが、化け物でも。ましてや、罪悪感も持たず、堂々と振る舞っていれば、なおさら輝いて見えるでしょうね。ユベラーヌは王女としてのカリスマも持ち合わせていたので、その相乗効果は高かったと思いますわ。でも――その効果に陰りが見え始めた。だけど、正常な判断ができない信望者たちは、それには気付かない。今回のことも、やっと、我が君が真実の愛のために腰を上げたと思う程度なのでは?」
だから、盲目的に手を貸すのでしょ。その信者が我が国にも多少なりともいることに驚きですけどね。この国には、あの女を凌ぐ光が存在するのに。
「……確かに、そう説明されれば納得しますわ。納得はしても、理解は到底できませんが」
苦虫を噛み潰したような表情ね。気持ちはわかるけど、王女殿下がしたら駄目だよ、それ。
「私も理解などできませんわ。これはあくまで、私なりの人間観察の結果ですね。でも、あながち間違っているとは思えませんわ」
始終護られていても、完全じゃないからね。所詮、自分の身を護るのは自分自身。剣や魔法も大事だけど、一番の武器は情報と観察力。事実、私はそれで幾度となく、危険を回避することができた。
「……ユリシアがそう言うのだから、間違いないわね」
スノア王女殿下が大きく息を吐きながら言った。
信用してくれてるんだ、嬉しいな。
「さらに突っ込むと、真実の愛で繋がっている真の番は、平凡な元平民ではないのだと知らしめたいのでしょ。だから、ただ衣装にお互いの色を入れただけでは、インパクトが少ないと考えたのです。ほんと、見ものだと思いませんか? 強力な光は光を消せます。でも、影は絶対消せないのです。それを知らしめてやりますわ。私たち二人で」
クスリと私が微笑むと、スノア王女殿下とアベル殿下が、何故か冷や汗をかいている。二人の前では、あまり闇使用の私、見せてなかったからね~。学園での騒ぎも、触りでしかなかったし。
「そうだな。この際だ、徹底的にやらせてもらおう」
力強い言葉とともに、カイナル様に肩を抱かれ抱き締められた。
私はどう頑張っても光にはなれない。なら、闇になるしかないでしょ。光が強ければ、闇もまた目立つ。反対も然り。番ってそういうものでしょ。私はそこまで、番に夢を持ってはいないわ。でも、それなりにちゃんと受け入れているのよ。すっごく時間が掛かったけどね。
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