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平凡な差し色は決して非凡にはならない
しおりを挟む結局、説明もなしにリアお姉様は戻って行ったのだけど、残された私はなんか面白くない。
「難しい顔をしてどうしたんだい? 大丈夫、シアのことは俺が護るから心配するな」
相変わらず、良い声で囁くわね。侍女や他の令嬢、御子息を腰砕けにするって評判だもの。でも、長年聞いてきた私には免疫があるから大丈夫。
目の前に座っている、アベル殿下とスノア王女殿下のように真っ赤にはならない。なるのは、囁かれる内容だから。
「あっ、そのことなら心配してないので、特に何もありません」
なので、平然と応対ができるんだよね。それを見て、冷たいって言われるのが解せないんだけど。まぁそれは、ひとまず横に置いといて。
「シア、冷たい。でも、嬉しい」
カイナル様も言いますか!? ちょっと、話し合う必要があるようね。だけど、想いは伝わっているみたいだから、よしとしようかな。
「ユベラーヌの対策は一応立てれましたが……なんか、面白くないのです。ここは確実に、あの女を悔しがらせないと気が済みませんの」
悔しがらせると、絶対出てくるからね。あの自己中女は。その時の顔が見たいの。さぞかし、良い顔をしてくれると思うから。
そんなことを考えていると、若干、顔を引きつらせながらスノア王女殿下が訊いてきた。
「……仲が良い様子を見せるだけではいけないの?」
「互いの衣装に、番の色をいれるとかですよね……でも、それってありきたりではありませんか?」
「今になって、衣装の駄目出しは無理があるだろ」
アベル殿下が指摘してきた。私にベッタリと引っ付いているカイナル様の身体も強張っている。室内の空気がピシッと凍り付いた。
えっ!? もしかして、言葉が足りなかった……カイナル様、私のドレス、私以上に力が入ってたから、細部にわたって決めていたからね~
「違います!! 衣装の駄目出しなんかしてません!! とても気に入ってます!!」
キッパリと否定する。
「なら、何が不満なんだ?」
力ないカイナル様の声に少し胸が痛むよ。
「不満ではなく、それだけでは、インパクトに乏しいというか……婚約者同士なら、それは当たり前ですよね」
説明しづらいよね。
「つまり、シアは衣装以外にも、私の色を身に纏いたいと?」
正解です。さすが、カイナル様。それに、とっても嬉しそう。尻尾が左右に揺れてるわ。
「ええ、その通りです」
「なんとなく、ユリシアの言いたいことは理解できたけど、衣装の他に纏えるものってあります?」
首を傾げるスノア王女殿下。
確かに、言葉にするのは簡単だけど、いざやるとしたら悩むんだよね。こういう時、必ず、カイナル様って悪戯してくるのよ。今も髪を――!!
「思い付きましたわ!! 髪の一房を互いの色にするのはどうでしょう!? 目立たなく、でもさり気なく、わかる人にはわかるように」
変異魔法の中で、確か……顔の造形だけてなく、髪の色だけを変化させるのがあったはず。手に取り魔法を掛けるなら、さほど精密さは問われないでしょ。
ユベラーヌなら、絶対気付くわ。
「面白そうだな」
カイナル様は早速私の髪を掌に乗せ、軽くキスをし魔法を掛ける。優秀な侍女が何も言わずに、手鏡を渡してくれた。横の髪が一房、青くなっている。指一本分ぐらいかな。これなら、嫌味にはならないはず。でも……焦げ茶の髪に青って……
「さぁ、シア、今度は俺を染めてくれ」
ウワッ!? 完全にカイナル様、周り見えてないよね。いないものとしてるわ……
呆れて小さく溜め息を吐いていると、スノア王女殿下が短い悲鳴を上げた。そのまま、真っ赤な顔で放心してしまったよ。平静を装ってるけど、侍女たちや執事たち、アベル殿下も顔が赤い。室内の空気もね。しょうがないよね、カイナル様、色気ダダ漏れだから。免疫なければこうなるって。普段のストイックさを知れば知るほどね。
髪、やってあげたわよ。でも、白銀の髪に焦げ茶って似合わない。なんか、カイナル様のファンに喧嘩売ったみたいな仕上がり。ちょっとへこむわ~でも、カイナル様がすっごく機嫌がいいのが、まだ救いだよね。
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