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私も前線に立ちます

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「あ~言葉を濁しても意味ないな。コーマン王国第二王女が、留学を切に希望しておる」

 やっぱりか~まぁ、そうだよね。留学というのは名目で、自ら奪いにきたってわけね。

「陛下、受け入れるつもりですか?」

 アジル殿下が低い声で尋ねる。心底、関わりたくないっていう圧をありありと感じるよ。毛を逆立てた猫みたい。

「受け入れぬ理由がない」

 友好国が溺愛する王女殿下だものね……なおさら、ないよね。

「理由ならあるではないか!! 我が王国の第二王女殿下の番に恋慕を抱き、貶める手紙を送りつけ脅している。立派な理由になりませんか!? 我が大国に剣を向けたと同等な行為ですよ、陛下」

 義お父様が国王陛下に詰め寄る。っていうか、脅してる?

「その手紙の原本はあるのか?」

 陛下に訊かれ、一応持参していた手紙を見せる。原本はコンディー公爵家で大事に保存してるよ。

「複写したものですが……」

「大事な証拠を持ち歩いたりはしませんわ、陛下。あれは、大事に飾らせてもらってます」

 義お母様がとんでもない威圧を放ちながら補足する。満面な笑みを浮かべてね。

 実際、義お母様が言ったことは大袈裟じゃないの。なんと、玄関の一番目立つ所に豪華な額縁に入れて飾られてるよ。なので、ゼシール王国では、ユーベラの人となりが正確に伝わっている。

「だかな……」

 煮えきらない表情の国王陛下。義お父様と義お母様の威圧を受けながらもその態度。さすが、国王陛下。

「あの……少しよろしいでしょうか、陛下」

 ずっと黙っていた私は、区切りがいいところで口を挟む。

「なんだ、ユリシア」

 視線を向けられただけで、心臓が潰れるほど早打ちしてるよ。だって、元平民だよ。それが、この大国の一番偉い人に意見するなんて……自分から口を開いたんだけどね。落ち着け、私!!

 すると、隣にいるカイナル様が私を見て微笑む。それだけで、なぜか少し落ち着いた私は、緊張をほぐすために軽く深呼吸をした。

「……そもそも、コーマン王国は友好国で同盟国ではありませんよね。それに、王国の国益も領地も軍事力も、我がゼシール王国の方が遥かに上。なのに、気に病む必要はあるのでしょうか? 第二王女である私にあのようなふざけた手紙を署名入りで渡したことを、水に流して差し上げたのに、図に乗って、さらに要求してくる方に、誠実な態度をとる必要がどこにありますか?」

 言い切ったよ私。前線で闘うって決めたからね。

「受け入れると、我が王国が舐められると言うのだな」

 国王陛下の目がさらに細くなり、厳しいものになる。

「はい。手紙を受け取った時点では王女ではありませんが、それを証明する術はコーマン王国側にはありません。ゼシール王国第二王女の番に、それも婚約している者に対しての横恋慕、そして身勝手な妄想と悋気。ユーベラ王女殿下の留学を認めれば、その行為を陛下が黙認することにはなりませんか? 現時点では、私の温情で抗議していないだけですのに」

 そう言いながら、私はにっこりと微笑む。

「……そうだな。ユリシアの言う通りだ。早速、断りの書状を送ることにしよう」

 まさか、断られるとは思いもしないでしょうね。悔しがる姿が見れないのは嫌だけど、これがあの女には一番効くでしょ。

 プライドをズタズタにしてやったんだから。

「だが、もう出発しているらしい」

 義お父様が楽しそうな声で言った。

「ならば、国境でお帰りいただければいい話よね。ごねるなら、多少は荒っぽい真似をしても構いませんよね、陛下」

 リアお姉様もとても楽しそう。っていうか、陛下を脅しにかかってる!! これ、自分が行く気満々だよね。

「許可もなく、勝手に我が国に入ろうとするならやむ得ぬな」

 国王陛下、疲れた様子だね。まぁ仕方ないか、ゴンディー公爵家総出だもんね……

「大袈裟に抗議をするなら、あの手紙の複写を周辺諸国にばら撒けば解決です」

 まぁどっちにせよ、ユーベラの評判は地の底に落ちるわね。頭の良さと行動力で、多少の性格の悪さはカバーできてたけど、今回のことで、完全に逆転するわね。

 どんな反論をするのか楽しみだわ。


 
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