上 下
43 / 73

リアお姉様に提案です

しおりを挟む

 ユベラーヌからの手紙、本当はその場で突き返してやりたかった。気持ち的にね。でも、口で言うよりも現物を見せる方が、より確実に相手の意図が伝わるでしょ。だから、持って帰ってきたの。

「ユリシア、お帰り」

「シア、お帰り」

 エントランスで出迎えてくれたのは、リアお姉様とちょっと不機嫌そうなカイナル様。もしかして、私なにかしたかな? って考えたけど、不機嫌な理由はすぐにわかったよ。

「シアの顔を見たのだから、もう消えろ」

 実の姉に向かって消えろって……でも、亜人族では、特に酷い言動じゃないから驚きだよね。

「心配だったんだから、邪険にしないでよ。あの自分が世界の中心だと勘違いしている腹黒女から、接触があったって聞いたら心配するわよ」

 情報早っ!!

 まだ、盗聴用の魔法具を忍ばせてるカイナル様ならわかるけど、リアお姉様が知っているなんて、もしかして、リアお姉様の配下の人を紛れ込ませてたの!? 訊いても、きっとはぐらかされるわね。

「リアお姉様は、コーマン王女殿下のことを知っているのですか?」

 立場上、面識があってもおかしくない。メイド服を自分でデザインして作って着る人だけど、騎士団長様だからね。

 カイナル様に子供抱っこされてるから、リアお姉様と目線は少し下。いつもなら、頭を撫でてくれたりしてくれるんだけど、カイナル様が一緒にいるからお預けみたい。ちょっと寂しいな。でも今は、ユベラーヌのことをより詳しく知るのが先。

 でも、やっぱり腹黒なんだ……

「知ってるわよ!! あ~マジで、今思い出しても腹が立つ!!」

 殺気がでてるよ、リアお姉様……一応、公爵令嬢だよね。

「……シア、すまない。こいつ、一度、命令無視されたあげく、自分の団員が囮にされたことがあってな」

 カイナル様が苦笑いしている。その横で、リアお姉様は憤慨していた。

「問い詰めたら、あの腹黒女、なんて言ったと思う!? 『結果良ければ全て良しではありませんか、別に貴女様に怪我一つないのですから。団員の一人、二人失っても、すぐに補充できますでしょ』ってね!! 私の団員は駒じゃないのよ!!」

 言葉が浮かばないわ……さすがに酷い。思っていても、口にはしないよ、普通。少なくとも、恋している相手の姉に言うべき台詞じゃないよね。それを踏まえてでも、その言葉が吐けるってことは、本当に罪悪感の一欠片もないのね。クズ以下だわ。

「シアに聞かせる話じゃないな」

 カイナル様は私に仕事の話をしない。したがらない。血なまぐさいことを聞かせたくないからだって。私は別に構わないんだけどね。今回も、たまたま成り行きで聞いただけ。だからかな、私が黙り込んだから、これ幸いとカイナル様は話を打ち切ろうしてきたの。

 だけど、私はそれを許さなかった。口を開くとカイナル様は足を止める。

「…………戦場のことは、ズブの素人だからわかりませんが、囮に使うのなら、自国の兵士がするべきでは。そもそも、人を命が通ってない駒と言うことが、不愉快極まりない。まぁ、そんな考えの持ち主だから、人の人生を簡単に狂わすことが、平気でできるのね。リアお姉様の話を聞いて確信しました。本当に、コーマン王女殿下は人を二人、駒にして壊したのだと」

 リアお姉様は怒りを表に出すタイプ。でも私は、表には出さない。代わりに出てくる声は、冷静で感情がこもらない、低くて冷たい声。

 決断をしたのは、お花畑一号と二号。

 でも、完全に誘導されていたとしたら、それは――

 私の怒りを目の当たりにしたリアお姉様とカイナル様は、啞然とした表情で私を見ている。

「リアお姉様、ここに一通の挑戦状があります。一矢報いる気はありませんか?」

 私はニコッと微笑みながら、リアお姉様に提案した。味方は多い方がいい。それに、リアお姉様に見せてあげたいから、コーマン王女殿下の煮え湯を飲まされる顔をね。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大好きだけど、結婚はできません!〜強面彼氏に強引に溺愛されて、困っています〜

楠結衣
恋愛
冷たい川に落ちてしまったリス獣人のミーナは、薄れゆく意識の中、水中を飛ぶような速さで泳いできた一人の青年に助け出される。 ミーナを助けてくれた鍛冶屋のリュークは、鋭く睨むワイルドな人で。思わず身をすくませたけど、見た目と違って優しいリュークに次第に心惹かれていく。 さらに結婚を前提の告白をされてしまうのだけど、リュークの夢は故郷で鍛冶屋をひらくことだと告げられて。 (リュークのことは好きだけど、彼が住むのは北にある氷の国。寒すぎると冬眠してしまう私には無理!) と断ったのに、なぜか諦めないリュークと期限付きでお試しの恋人に?! 「泊まっていい?」 「今日、泊まってけ」 「俺の故郷で結婚してほしい!」 あまく溺愛してくるリュークに、ミーナの好きの気持ちは加速していく。 やっぱり、氷の国に一緒に行きたい!寒さに慣れると決意したミーナはある行動に出る……。 ミーナの一途な想いの行方は?二人の恋の結末は?! 健気でかわいいリス獣人と、見た目が怖いのに甘々なペンギン獣人の恋物語。 一途で溺愛なハッピーエンドストーリーです。 *小説家になろう様でも掲載しています *表紙イラストは星影さき様に描いていただきました

婚約破棄された直後に隣の帝国王に番認定されてあっという間に囲い込まれてデロデロに愛されます!

ちゃこ
恋愛
前世は病弱で普通の暮らしができなかった・・異世界転生を熱望して乙女ゲームの世界に神様が転生させてくれた。 なのに、転生したのは悪役令嬢ミシェルでさらに罪は犯したあと。断罪不可避の婚約破棄&断罪シーンからのスタート。 そしたらなんとストーリーでは登場もしなかった帝国の王にミシェルがツガイ・番であると言われ、絡め取られる。 別名冷酷王。大人の色気ダダ漏れの王が初心なミシェルに迫り、溺愛ハッピーエンドの物語です。

【完結】ヤンデレ設定の義弟を手塩にかけたら、シスコン大魔法士に育ちました!?

三月よる
恋愛
14歳の誕生日、ピフラは自分が乙女ゲーム「LOVE/HEART(ラブハート)」通称「ラブハ」の悪役である事に気がついた。シナリオ通りなら、ピフラは義弟ガルムの心を病ませ、ヤンデレ化した彼に殺されてしまう運命。生き残りのため、ピフラはガルムのヤンデレ化を防止すべく、彼を手塩にかけて育てる事を決意する。その後、メイドに命を狙われる事件がありながらも、良好な関係を築いてきた2人。 そして10年後。シスコンに育ったガルムに、ピフラは婚活を邪魔されていた。姉離れのためにガルムを結婚させようと、ピフラは相手のヒロインを探すことに。そんなある日、ピフラは謎の美丈夫ウォラクに出会った。彼はガルムと同じ赤い瞳をしていた。そこで「赤目」と「悪魔と黒魔法士」の秘密の相関関係を聞かされる。その秘密が過去のメイド事件と重なり、ピフラはガルムに疑心を抱き始めた。一方、ピフラを監視していたガルムは自分以外の赤目と接触したピフラを監禁して──?

【完結】好きになったら命懸けです。どうか私をお嫁さんにして下さいませ〜!

金峯蓮華
恋愛
 公爵令嬢のシャーロットはデビュタントの日に一目惚れをしてしまった。  あの方は誰なんだろう? 私、あの方と結婚したい!   理想ドンピシャのあの方と結婚したい。    無鉄砲な天然美少女シャーロットの恋のお話。

異世界に召喚されたけど、従姉妹に嵌められて即森に捨てられました。

バナナマヨネーズ
恋愛
香澄静弥は、幼馴染で従姉妹の千歌子に嵌められて、異世界召喚されてすぐに魔の森に捨てられてしまった。しかし、静弥は森に捨てられたことを逆に人生をやり直すチャンスだと考え直した。誰も自分を知らない場所で気ままに生きると決めた静弥は、異世界召喚の際に与えられた力をフル活用して異世界生活を楽しみだした。そんなある日のことだ、魔の森に来訪者がやってきた。それから、静弥の異世界ライフはちょっとだけ騒がしくて、楽しいものへと変わっていくのだった。 全123話 ※小説家になろう様にも掲載しています。

番なんてお断り! 竜王と私の7日間戦争 絶対に逃げ切ってみせる。貴方の寵愛なんていりません

ピエール
恋愛
公園で肉串食べてたら、いきなり空から竜にお持ち帰りされてしまった主人公シンシア 目が覚めたら ベッドに見知らぬ男が一緒に寝ていて、今度は番認定! シンシアを無視してドンドン話が進んでいく。 『 何なの、私が竜王妃だなんて••• 勝手に決めないでよ。 こんなの真っ平ゴメンだわ!番なんてお断り 』 傍若無人な俺様竜王からなんとか逃げ切って、平和をつかもうとする主人公 果たして、逃げ切る事が出来るか••• ( 作者、時々昭和の映画•アニメネタに走ってしまいます 。すみません) ザマァはありません 作者いちゃらぶ、溺愛、苦手でありますが、頑張ってみようと思います。 R15は保険です。エロネタはありません ツッコミ処満載、ご都合主義ではごさいますが、温かい目で見守っていて下さい。 映画関連、間違えがありましたら教えて下さい (*´ω`*) 全九話です。描き終えてありますので最後までお読みいただけます。

【完結】運命の番? この世界に白馬の王子様はいないようなので、退場させていただきます。

美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
 断罪シーンの立ち位置で、自分が転生者のヒロインだと自覚したアンジュ。しかし、アンジュには目的があった。それは自分の叔母である現王妃を救い出すこと。  番というものがあるこの世界で、政略結婚の末に現国王の番の影に追いやられた叔母。白い結婚のまま王宮で肩身の狭い思いをした後に、毒殺未遂をさててしまう。  そんな叔母を救うためには、国王の王弟殿下であるアレン様に近づきその力を借りること。しかし目的があって近づいたアンジュをアレンは運命の番として見染める。  ただ殿下には国王と同じく、公爵令嬢のティナという婚約者がいた。ティナは王妃となるために教育を受け、ただ殿下を素直に愛してきた。  その殿下を番という立場の者に、すんなりと盗られてしまう。その悔しさからアンジュへのいじめが始まった。  そして自分をいじめたために断罪されるティナを見た時、アンジュの中で考えが変わる。  国王と同じことを繰り返そうとする王弟殿下。殿下にとって自分が番であっても関係ない。少なくともアンジュにとってアレンは、前世で夢見た白馬の王子様ではなかったから……。  ティナの手を引き、アンジュはヒロインからの退場を宣言する。 「殿下にとって私は運命の番でも、私にとっては運命ではなかったみたいです」

はじめまして、期間限定のお飾り妻です

結城芙由奈 
恋愛
【あの……お仕事の延長ってありますか?】 貧しい男爵家のイレーネ・シエラは唯一の肉親である祖父を亡くし、住む場所も失う寸前だった。そこで住み込みの仕事を探していたときに、好条件の求人広告を見つける。けれど、はイレーネは知らなかった。この求人、実はルシアンの執事が募集していた契約結婚の求人であることを。そして一方、結婚相手となるルシアンはその事実を一切知らされてはいなかった。呑気なイレーネと、気難しいルシアンとの期間限定の契約結婚が始まるのだが……? *他サイトでも投稿中

処理中です...