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ユベラーヌ・コーマン
しおりを挟む「……そうね~一番近い言葉で表現するなら、腹黒ですね」
スノア王女殿下が呟くように答えた。
「もしかして、スノア王女殿下は彼女のことが苦手なのですか?」
普段は貴族令嬢の鏡のようなスノア王女殿下が、めちゃくちゃ嫌そうな顔をしてるからね。溜め息まで吐いてるし。
「ユベラーヌ第二王女殿下のことが苦手じゃない人はいないよ。彼女と少しでも接したことがある人は。ただ……家族には重宝されて、溺愛されているよ」
スノア王女殿下より酷い顔をしてるね、アジル殿下……この二人にそこまで言われる人って……かなり、問題がありそうね。でも……
「重宝?」
元ラメール侯爵夫人や令嬢には、間違っても言われない単語だよね。
「頭がかなりキレるのよ。戦術にも長けているし、スタンピードの時はカイナル様と共闘したそうよ」
「共闘ですか……」
声のトーンが自然と低くなる。まぁ、仕事だったんだからなにも言わないけど、なんかモヤッとする。
「敵に回したくない、腹黒よ。人の気持ちを利用することにも長けてるわね。ましてや、目的のためにはなんでもする面があるし。平気で臣下を切り捨てられることができる人間よ、あれは」
「確かにな。ユベラーヌ第二王女殿下は……人の弱みや願いに敏感なところがあるよ」
両殿下の台詞に私はなぜか納得したよ。
「……つまり、元ラメール侯爵夫人と令嬢は人形だったってことですか?」
あの術式は未完成だったけど、床に描かれた魔法陣はそれっぽいものだった。それに、そこまでの凶行を引き起こさせるには起爆剤が必要だったはず。もしくは、それが可能だと信じ込ませる必要があるわ。
だとしたら、ユベラーヌの立ち位置は力になるわね。それに、両殿下の直感と観察力、人を見る目は信用できる。
「「その可能性は高いかな」」
両殿下も私と同意見か……
「……囁き続けて、花開いたってところですか。なら、このまま終わりってことはなさそうですね」
「だとしても、難しいと思うわよ」
「俺も同意見だな。言っただろ、重宝されて溺愛されているって。だから、国からは出にくいと思う」
そうだけど……なんか、頷けないんだよね。両殿下には悪いけど。
「だといいんですが……」
「やっぱり、心配?」
スノア王女殿下が心配そうに尋ねてくる。
「心配っていうよりは、不安ですね。そこまで頭のキレる人で目的のためならどんなことでもする人が、理由もなく、こんな面倒くさくて遠回しなことをするのでしょうか? そこには、なにかしらの目的と意図があるように思えるんですよね」
言葉にすると、頭の中が整理されるって本当だよね。
「意図って……まさか!?」
アジル殿下が驚愕する。
「その可能性は高いと思いますよ。コーマン王国は、いえ、ユベラーヌはカイナル様が欲しいのでは? 接点もありますし。彼を手に入れたいと本気で彼女が動けば、なにかしらの動きがあると思います」
正直、考え過ぎであって欲しい。そうでなければ、お花畑一号と二号は遊ばれたってことになるわ。それはさすがに気の毒だよ。同情はしないけど。
「か、考え過ぎですわ」
アジル殿下は黙り込んでしまった。代わりに、スノア王女殿下が不安を打ち消す。
「そうですね」
私は笑みを浮かべながら、ユベラーヌの話を終えた。
消えない不安が闇のように心を蝕んでいく。でもなぜか、怖いとは思えないんだよね。それはやっぱり、カイナル様を、そして新しい家族を信頼してるからかな。まぁそれに、簡単に負ける気はないから。
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