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第三章 働き始めていきなりこれですか

第六話 誘拐されました

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 平積みされている本が宙に舞うくらいの突風だった。

 その本が、後ろに立っていた桂たちに当たっては飛んで行く。

 いきなり人が目の前で消えたのに驚いて、その場に座り込んでしまった私よりも、後ろに立っている桂たちの方が被害を受けていた。それを見て我に返る。考えるよりも先に体が動いていた。

 桂たちを庇おうと、小さな体に覆い被さろうとした時だ。

 何者かが、私の腰に腕を回し引き寄せていた。

 アッという間の出来事だった。声を上げるよりも早く、私の両足は床を離れる。

 桂と刀牙がいち早く気付き、必死に手を伸ばそうとしたが、小さな体はまたしても突風に吹き飛ばされてしまった。床を何回転も転がる。その小さな体に、容赦なく本が襲い掛かった。

「桂!!!! 刀牙!!!!」

(小さい子に何してるのよ!!!!)

 必死で体をよじって逃げようともがくが、私を掴んでいる太い腕に阻まれて身動き一つ取れない。

 廉と小太が、倒れている桂と刀牙に駆け寄る。桂と刀牙は倒れたままだ。ピクリとも動かない。

「桂!! 刀牙!! 放して!!!!」

 全身を使ってもがく。それでも、がっしりと掴まれた腰はビクともしない。

 今ここで手を放されたら、怪我で済むかどうか分からない。誘拐犯と私は空中にいるのだから。

 それでも、必死で抗う。私も桂と刀牙の側に駆け寄りたかった。 

「放してって、言ってるでしょ!!!!」

 怒鳴っても、手足をバタつかせても誘拐犯は黙ったままだ。

「「睦月!!!!」」

 廉と小太が私の名前を叫ぶ。その時だった。

「睦月さん!!!!」

 桂たちとは違う大人の叫び声がした。と同時に、サス君の銀色の頭と耳が見えた。

 その瞬間、蒼白い炎が私と誘拐犯の周囲を取り囲んだ。サス君だ。

 しかし、誘拐犯は慌てる様子を見せない。

(どうして?)

 腰を掴んでいる誘拐犯の反対の腕が上がり掛けているのが、目の端に映った。誘拐犯の手には扇が握られている。さっきの突風はもしかして……。

 頭で認識するよりも早く、私は反射的に叫んでいた。

「サス君、駄目!!!!」

 駆け寄ったサス君の前には、桂たちがいたからだ。誘拐犯は躊躇ためらわない。サス君を攻撃したら絶対扇を使う。そしたら……まず間違いなく、桂たちも巻き込まれる。さっき以上の力で。

 廉も小太も……倒れてる桂も刀牙も……無傷ではすまない。それだけは絶対嫌!!

 私の意図を瞬時に理解したサス君は、心底悔しそうに、険しい表情で唇を強く噛み締め堪えた。その目は真っ直ぐ誘拐犯を睨み付けている。今にも、誘拐犯を殺しそうな視線で。

 周囲を取り巻いていた炎が消える。

(ごめん。サス君……)

 声に出さずに謝る。

 誘拐犯はサス君と対峙したまま、中二階にある大窓の側まで飛ぶと、目に見えない力で窓ガラスを粉々に割った。

 そして私を抱えたまま、雪が降る外へと出た。

 店の上空から、転がるように飛び出すサス君の姿が見える。

「睦月さん!! 待ってて下さい!! 必ず迎えに行きますから!!!!」

 気を失ったままの桂と刀牙を残して、サス君は私を追い掛けることは出来なかった。

(あれ……何かされたのかな…………)

 急に目が霞んできた。薄れ行く意識の中で、サス君の叫び声が微かに……だが、確かに耳に届いた。

(うん。信じて待ってる)

 声に出して返事することは出来なかった。でも、心の中でそう答えた。絶対、届いてるよね……。

 誘拐犯と私が消えた上空から、数枚の黒い羽が降り積もった新雪の上に落ちる。

 サスケはその一枚を拾うと、ギュッと握り潰す。蒼白い炎が、握り潰した黒い羽を一瞬にして灰にした。



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