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閑話〈大学生編〉
鬼ごっこ(1)
しおりを挟む完全にキレた松井。敵の陣地のど真ん中なのに、それを忘れ怒鳴り散らしている。積まれていた段ボールを乱暴に蹴飛ばす。
「おい!! キレるのは後だ。さっさとここを脱出して、中川をぶっ殺しに行くぞ!!!!」
松井を宥めていているつもりの村山たが、彼自身も完全にキレていた。村山が言い終わってすぐだ。
ガタン。
何か軽い物が倒れた音がした。警戒するが、すぐに松井と村山はその音の正体を知る。
〈トントン。マイクテス。マイクテス。大丈夫そうだね。あ~~それでは、気を取り直して、第二ゲーム、【鬼ごっこ】を開始します。今から五分後、鬼が放たれますので、プレイヤーの方は一生懸命逃げて下さいね〉
若い男性のやけに明るい声が館内に流れた。ふざけてるとしか思えないその内容と声は、スマホのスピーカーから流れた声によく似ていた。
間違いない。中川の声だ。
さっきスマホから聞こえてきた声。そして館内放送の声。両方とも、とてもとても楽しそうだ。
人、二人を切り刻んで殺しておいて、これっぽっちも罪悪感も持たず、楽しそうな声を上げる中川に、村山と松井は別の意味でゾッとする。
完全に壊れた男の声。
自分たちに向けられた、明確な【殺意】。
雑念も邪念も何もなく、純粋までに自分たちをいたぶり殺したいと願う意思。
普通の人間がまず抱くことが出来ない程の、とても強く濃い殺意の塊を感じた。それが、村山と松井を凍り付かせる。
ただ殺すのではなく、殺すまでの過程も、中川にとっては大事なのだ。村山と松井はそう感じた。
ジワリジワリと獲物の自由を奪い、苦しむ様を見て楽しむ。花梨と里奈は女だから殺すだけで済んだんだ。喩え、残虐だろうと、死ぬまでの時間が短くても。中川はよかった。
だけど、自分たちは違う。
今までの過程を見ても明らかだ。あまりにも回りくどいやり方。第二ゲームってぬかしたのも花梨や里奈とは違う。
まるで、腹が満たされた肉食動物が草食動物を玩具のようにいたぶり楽しむ。まるでそれと同じだ。肉体的にも精神的にもいたぶり尽くす。まさに、そんな感じだった。
村山と松井は、そこまで自分たちが中川に恨まれていたとは思ってもみなかった。これっぽっちもだ。自分たちはちょっとからかって遊んだだけだ。
そう、ゲームと同じだ。少しお金を巻き上げたが、たかがしれている。素直に金を出さないから、少しばかり孤立させてやった。ただそれだけだ。
所詮、この世は弱肉強食。
弱い者は強い者に淘汰され搾取される。
それが、この世界の摂理だ。
自分たちは強者だ。搾取して何が悪い。俺たちの側に侍らせてやっただけでも、ありがたいと思え。それを、こんな真似を仕出かすなんて、逆恨みもいいところだ。だから負け犬なんだと、松井と村山は思った。
そんな二人だから、当然、命を狙われる覚えなど毛頭ない。
今追い込まれているこの状態でも、自分たちに非は全くないと村山と松井は思っていた。だからこそ、この理不尽なゲームにどうしても勝たなければならない。負ける訳にはいかないのだ。
強者が弱者に負けるなどあってはならない。
その関係性が、完全に逆転していていることに、村山と松井は気付こうともしなかった。
気付かないからこそ、された事を倍返し、いや、それ以上の制裁を加えてやると、村山と松井は心に深く刻み込む。
何故、彼らは思い至らないのだろう。
中川も同じ気持ちを抱いていたのだと。そこまで追い詰めたのだと。
結果、花梨と里奈は無惨に殺され、今自分たちが追い込まれている。追い込まれても尚、村山と松井はそこまで考えが至らなかった。いや、悲しいことに気付こうとはしなかった。
人はそれを【因果応報】というーー。
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