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お題『『今月の請求額 二十六万円』 と書かれた請求書がポストに届いた。』
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『今月の請求額 二十六万円』
と書かれた請求書がポストに届いた。ただしそれは、隣の部屋の人の物であった。夜遅くまでバイトに明け暮れ、疲れ果ててグロッキーな状態で帰宅。そのままポストに入っていた封筒を取り出し、開けてみれば『二十六万円』だ。混濁した意識は一気に覚醒し、冷や汗が流れまくった辺りでようやく自分宛ではない事に気づいたという訳である。とはいえ、あまり知らない隣人の個人情報に関する物を勝手に見てしまったのは事実であり、どう謝ろうかという問題は疲れ果て摩耗した精神に追い討ちをかける。ひとまず夜も遅いので、明日謝ろう。そう心に決めた俺は、その日は眠りについたのだった……
もう昼と言える時間に起きた俺は、最低限の身嗜みを整えて謝罪の為に隣の部屋へと向かった。【304】と書かれたその扉の前に立ち、インターホンを押す。……出てこない。もう一度押しても反応が無かったので、俺はこの封筒を管理人さんに預ける事にした。これから俺はまたバイトがある。謝るのは後でもできるが、この封筒は早めに渡したかったのだ。だが、管理人室で俺は新たな問題に直面する事になった。
「その部屋は誰も住んでませんよ?」
不審者を見るような目をした管理人さんにそう告げられたのだ。俺は「間違えました」とかなんとか適当な事を言って、崩れ落ちそうになる膝を何とか抑えながら部屋に戻った。まさかここに来てこんな問題に行き着くとは……昨日は思いもしなかった。バイト帰りでもないのに昨日より疲れている。更には視界もブラックアウト寸前だ。震える足で階段を上り……俺は見た。【304】の扉の前で、鍵を開ける女性の姿を……その瞬間、俺はぶっ倒れてしまった。
目を覚ますと、見知った天井と知らないレイアウトの中に居た。
「起きたみたいね、大丈夫?」
その声の方を向くと、先程【304】の扉の前に居た女性だった。という事は、この部屋は【304】……すなわち、問題の渦中にある部屋の中に今俺は居るという事だ。そうなると管理人さんの言葉の意味がわからないが、ひとまずは言わなければならない事がある。俺は、倒れた自分を助けてくれた事へのお礼と封筒についての謝罪をした。そして、快く許してくれた女性にあの話をしてみる事にした。
「……それで、ですね。管理人さんに封筒を預けようとしたら隣の部屋には誰も住んでいないと言われたんですよ」
「あら、失礼な話ね。私がちゃんと居るじゃない」
「そうなんですよね。しかもあんまり話をした事は無いですが、何度かすれ違って挨拶をした覚えもあります。それでも『居ない』と言われたものだから、もしかしたらホラー的展開かと不安に思っていたタイミングで丁度あなたに会ったので……」
「そうなのね、なんだかごめんなさい……タイミングが悪かったみたいで」
「謝る必要ないですよ、俺が小心者なのが悪いんです。にしても、なんで管理人さんはあんな事言ったんでしょうね?」
「うーん、そうね……」
「心当たりでもあるんですか?」
「ないわけではないわね」
「教えてくださいよ、気になります」
「でもね、それを聞いてしまったら後戻り出来ないわよ。それでもいいの?」
「はい、お願いします」
「私が……家賃を二十六万円分も滞納した上に請求書の封筒を隣の部屋のポストにねじ込むような人だからじゃないかしら?」
俺は黙って部屋を出た。確かに後戻りは出来ないだろう……というか、しないだろう。二度とあの女とは関わらないのだ、あの部屋に……【304】に戻る事もあるまい。
と書かれた請求書がポストに届いた。ただしそれは、隣の部屋の人の物であった。夜遅くまでバイトに明け暮れ、疲れ果ててグロッキーな状態で帰宅。そのままポストに入っていた封筒を取り出し、開けてみれば『二十六万円』だ。混濁した意識は一気に覚醒し、冷や汗が流れまくった辺りでようやく自分宛ではない事に気づいたという訳である。とはいえ、あまり知らない隣人の個人情報に関する物を勝手に見てしまったのは事実であり、どう謝ろうかという問題は疲れ果て摩耗した精神に追い討ちをかける。ひとまず夜も遅いので、明日謝ろう。そう心に決めた俺は、その日は眠りについたのだった……
もう昼と言える時間に起きた俺は、最低限の身嗜みを整えて謝罪の為に隣の部屋へと向かった。【304】と書かれたその扉の前に立ち、インターホンを押す。……出てこない。もう一度押しても反応が無かったので、俺はこの封筒を管理人さんに預ける事にした。これから俺はまたバイトがある。謝るのは後でもできるが、この封筒は早めに渡したかったのだ。だが、管理人室で俺は新たな問題に直面する事になった。
「その部屋は誰も住んでませんよ?」
不審者を見るような目をした管理人さんにそう告げられたのだ。俺は「間違えました」とかなんとか適当な事を言って、崩れ落ちそうになる膝を何とか抑えながら部屋に戻った。まさかここに来てこんな問題に行き着くとは……昨日は思いもしなかった。バイト帰りでもないのに昨日より疲れている。更には視界もブラックアウト寸前だ。震える足で階段を上り……俺は見た。【304】の扉の前で、鍵を開ける女性の姿を……その瞬間、俺はぶっ倒れてしまった。
目を覚ますと、見知った天井と知らないレイアウトの中に居た。
「起きたみたいね、大丈夫?」
その声の方を向くと、先程【304】の扉の前に居た女性だった。という事は、この部屋は【304】……すなわち、問題の渦中にある部屋の中に今俺は居るという事だ。そうなると管理人さんの言葉の意味がわからないが、ひとまずは言わなければならない事がある。俺は、倒れた自分を助けてくれた事へのお礼と封筒についての謝罪をした。そして、快く許してくれた女性にあの話をしてみる事にした。
「……それで、ですね。管理人さんに封筒を預けようとしたら隣の部屋には誰も住んでいないと言われたんですよ」
「あら、失礼な話ね。私がちゃんと居るじゃない」
「そうなんですよね。しかもあんまり話をした事は無いですが、何度かすれ違って挨拶をした覚えもあります。それでも『居ない』と言われたものだから、もしかしたらホラー的展開かと不安に思っていたタイミングで丁度あなたに会ったので……」
「そうなのね、なんだかごめんなさい……タイミングが悪かったみたいで」
「謝る必要ないですよ、俺が小心者なのが悪いんです。にしても、なんで管理人さんはあんな事言ったんでしょうね?」
「うーん、そうね……」
「心当たりでもあるんですか?」
「ないわけではないわね」
「教えてくださいよ、気になります」
「でもね、それを聞いてしまったら後戻り出来ないわよ。それでもいいの?」
「はい、お願いします」
「私が……家賃を二十六万円分も滞納した上に請求書の封筒を隣の部屋のポストにねじ込むような人だからじゃないかしら?」
俺は黙って部屋を出た。確かに後戻りは出来ないだろう……というか、しないだろう。二度とあの女とは関わらないのだ、あの部屋に……【304】に戻る事もあるまい。
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