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お題『「残る防壁は後1枚......愛する彼のため、明日には俺も出撃しなければ」』
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「残る防壁は後1枚......愛する彼のため、明日には俺も出撃しなければ」
数少ない残された花畑を眺めながら、俺は決意を固めた。彼と過ごしたこの国を、奴らに蹂躙させるわけにはいかない。気付けば、彼との日々も長くなったものだ。出会いは、数ヶ月前の事だった。選ばれし英雄として人類の為の戦いに挑み続け、ボロボロに傷付いていて倒れていた彼を必死で看病し、まだ傷も癒えてないのに再び戦いへと身を投じようとした彼を必死で止めて……『逃げてもいいじゃないか』と言ってあげたのだ。心のどこかで、ずっとその言葉を求めていたのだろう。最初こそ『そんな無責任な!』と怒ったり『さては裏切り者だな』と俺に詰め寄ってきたりしていたが、最後にはどこか安心した様な顔をして『本当に、いいのだろうか』と呟いた。思えばその時……責任の重圧に押しつぶされそうだった少年が、俺の言葉という唯一の救いに手を伸ばした時の縋る様な姿を見て今まで抱いていた選ばれし英雄への尊敬も、傷付いた姿への同情も、全てが恋へと変わったのだ。それからの毎日は、俺にとってはバラ色の日々だった。毎日甲斐甲斐しく彼の世話を焼き、怪我が治って動ける様になってからは二人で色んな所へ出かけた。それこそ、この花畑は彼の一番のお気に入りだった様だったので、良く遊びに来た。だが、そんな幸せは永遠には続かない。英雄を失った人類は敗北を重ね、残すはこの国のみとなり、明日には残された全ての人類による総力戦があるのだ。負けられない。負けたくない。だが、勝ち目が無い。できる事なら戦いに参加せず、最期まで彼と共に過ごしたい。しかし、人類から英雄を奪って独り占めしてきた責任は取るつもりだ。明日は誰よりも勇敢に戦おう。その意思は、先程固まったのだ。そう思っていた正にその時だ、明日の戦いで同じ班に配属される予定だった知人が慌てた様子でやって来た。
「おい、やったぞ!僕たちは戦わなくていいんだ」
「どういう事だ?」
「英雄だよ!英雄が帰ってきたんだ!この国を囲んでた魔の軍勢を一人で全滅させやがった!」
「なんだって!?」
俺は驚愕した。彼を二度と戦わせない為に匿っていたのに。二度とその重荷を背負わなくていい様に、俺が戦うつもりでいたのに。言葉を失う俺を、喜んでいると勝手に解釈した知人が黙って頷き去って行った後、初めて会った時の様に傷だらけになった彼が現れてこう言った。
「今までの日々を、失いたくなかったのは私もです」
「しかし、俺はあの日誓ったんだ。君に重圧から逃げる事を決めさせたあの日、二度と君に人類という重荷の為に戦わせないと!」
「安心してください、私は人類の為には戦ってないですよ。君の為に戦いました」
優しく微笑む彼を見て、俺はもし生き延びたら言うつもりだった台詞を口にした。
「性別は気にしない。周りがどう言おうと関係無い。もし何か言って来る様な奴がいたら、今度こそ俺が君を守るから……だから、結婚してくれ」
すると彼は、一瞬驚きの表情を見せた後、納得した顔をして
「いいとも、結婚しようじゃないか」
と。そして喜ぶ俺に続けてこう言った。
「にしても、もしやとは思っていたけどね。まさか本当にそうだったとは」
「俺が君に好意を抱いてた事に気づいてたのか?」
「それもそうだけどね、なんで君はこんなに一緒に過ごしたのに未だに私を男性だと思ってるのかな?そりゃあ、同世代と比べても些か胸は無い方だが、傷付くな」
「隠さなくてもいい、言っただろう。俺は性別は気にしないと」
「だから、本当に男じゃないんだってば。どうしてそんなに男だと思うんだい?」
「だってそうだろう?女ごときが英雄に選ばれる訳が無いじゃないか」
「……えっ!?えー、と。そう、か。うん、なるほどねぇ」
「ゴメン、やっぱり結婚できません」
「何故!?」
数少ない残された花畑を眺めながら、俺は決意を固めた。彼と過ごしたこの国を、奴らに蹂躙させるわけにはいかない。気付けば、彼との日々も長くなったものだ。出会いは、数ヶ月前の事だった。選ばれし英雄として人類の為の戦いに挑み続け、ボロボロに傷付いていて倒れていた彼を必死で看病し、まだ傷も癒えてないのに再び戦いへと身を投じようとした彼を必死で止めて……『逃げてもいいじゃないか』と言ってあげたのだ。心のどこかで、ずっとその言葉を求めていたのだろう。最初こそ『そんな無責任な!』と怒ったり『さては裏切り者だな』と俺に詰め寄ってきたりしていたが、最後にはどこか安心した様な顔をして『本当に、いいのだろうか』と呟いた。思えばその時……責任の重圧に押しつぶされそうだった少年が、俺の言葉という唯一の救いに手を伸ばした時の縋る様な姿を見て今まで抱いていた選ばれし英雄への尊敬も、傷付いた姿への同情も、全てが恋へと変わったのだ。それからの毎日は、俺にとってはバラ色の日々だった。毎日甲斐甲斐しく彼の世話を焼き、怪我が治って動ける様になってからは二人で色んな所へ出かけた。それこそ、この花畑は彼の一番のお気に入りだった様だったので、良く遊びに来た。だが、そんな幸せは永遠には続かない。英雄を失った人類は敗北を重ね、残すはこの国のみとなり、明日には残された全ての人類による総力戦があるのだ。負けられない。負けたくない。だが、勝ち目が無い。できる事なら戦いに参加せず、最期まで彼と共に過ごしたい。しかし、人類から英雄を奪って独り占めしてきた責任は取るつもりだ。明日は誰よりも勇敢に戦おう。その意思は、先程固まったのだ。そう思っていた正にその時だ、明日の戦いで同じ班に配属される予定だった知人が慌てた様子でやって来た。
「おい、やったぞ!僕たちは戦わなくていいんだ」
「どういう事だ?」
「英雄だよ!英雄が帰ってきたんだ!この国を囲んでた魔の軍勢を一人で全滅させやがった!」
「なんだって!?」
俺は驚愕した。彼を二度と戦わせない為に匿っていたのに。二度とその重荷を背負わなくていい様に、俺が戦うつもりでいたのに。言葉を失う俺を、喜んでいると勝手に解釈した知人が黙って頷き去って行った後、初めて会った時の様に傷だらけになった彼が現れてこう言った。
「今までの日々を、失いたくなかったのは私もです」
「しかし、俺はあの日誓ったんだ。君に重圧から逃げる事を決めさせたあの日、二度と君に人類という重荷の為に戦わせないと!」
「安心してください、私は人類の為には戦ってないですよ。君の為に戦いました」
優しく微笑む彼を見て、俺はもし生き延びたら言うつもりだった台詞を口にした。
「性別は気にしない。周りがどう言おうと関係無い。もし何か言って来る様な奴がいたら、今度こそ俺が君を守るから……だから、結婚してくれ」
すると彼は、一瞬驚きの表情を見せた後、納得した顔をして
「いいとも、結婚しようじゃないか」
と。そして喜ぶ俺に続けてこう言った。
「にしても、もしやとは思っていたけどね。まさか本当にそうだったとは」
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「それもそうだけどね、なんで君はこんなに一緒に過ごしたのに未だに私を男性だと思ってるのかな?そりゃあ、同世代と比べても些か胸は無い方だが、傷付くな」
「隠さなくてもいい、言っただろう。俺は性別は気にしないと」
「だから、本当に男じゃないんだってば。どうしてそんなに男だと思うんだい?」
「だってそうだろう?女ごときが英雄に選ばれる訳が無いじゃないか」
「……えっ!?えー、と。そう、か。うん、なるほどねぇ」
「ゴメン、やっぱり結婚できません」
「何故!?」
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