徒然短編集

後醍醐(2代目)

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お題『ごめん。俺今から新薬のバイトなんだよね』

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「ごめん。俺今から新薬のバイトなんだよね」
右目から涙を流しながら、彼はそう言った。
「またなのかい?この前もそう言って、結果がその涙が止まらない右目じゃないか」
「新薬のバイトは割がいいからね。それに、今までかなりの数をこなしてきたけど失敗作に当たったのは前のが初めてだよ」
  いくら割が良くても、右目から涙が止まらないのは致命的なのではなかろうか。しかし、別段貧乏なわけでも無いのにそこまでして新薬のバイトを続けるのは何故なのだろうか。そんな疑問が顔に出ていたのか、彼はふと真剣な顔をして語り始めた。
「俺はね、昔から『凄い人』になりたかったんだ。でも勉強もスポーツも人並み程度で、歌や踊り、絵や詩なんかも試してみたけどイマイチだった」
「それが、新薬のバイトと何の関係があるのさ」
「いやまあ、何に手を出しても『凄い人』レベルになる事はできなかったからね。普通の事でそれを目指すんじゃなくて新しい事でやってみようと思ったのさ」
「……まさか、『新薬のバイトで稼ぎまくった凄い人』にでもなるつもりかい?」
「ふふっ、どうだい?発想だろう。後はまあ、色んな新薬を片っ端から試してみたら、謎の組織が実験の為にこっそり使った超人薬とかに当たるかもしれないし、はたまた多くの薬の影響を受けたこの身体が突然変異を起こして新たな才能に目覚めるかもしれない。そうなれば、晴れて夢は叶うというわけさ!」
  見ているこちらが眩しさにやられてしまいそうになるほどの笑顔でそう言ってのけた彼に、僕は素直な尊敬の念を抱いた。やり方はどうであれ、その熱い思いを風化させることも無く夢に向かって進み続けるのは、並大抵の事では無い。それだけで、最早彼の言う『凄い人』と呼べるのではないだろうか。僕はその事を、もう君は凄い人だという事を伝えようとして……辞めた。今の彼には、もっとふさわしい言葉があると思ったからだ。それは……

「でも右目だけから涙が止まらないって凄くね?」
「俺新薬のバイト辞めるわ!!!」
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