スパダリ社長の狼くん

soirée

文字の大きさ
上 下
104 / 128
第五章

十三話

しおりを挟む
 翌朝、早朝からログハウスを出た二人は佑の情報を頼りに湾という街を訪れた。

 予想通り石垣に囲まれた細くねじ曲がった道を進むことになったせいで、運転にも気を使う。車体を擦らないように細心の注意を払いながら、複雑な道を進む。
 どこをどう曲がればどこに出るのか、一切の規則性がない。土地勘のない二人にはどうにも難解で、こうなるとスマートフォンの地図アプリが頼みの綱だった。何度か迷いながら、行き止まりになってしまった袋小路で車を停める。
「おかしいな……この辺のはずなんだけど。というかどうやって戻ればいいんだろう、これは」
 流石の忍も困惑をする。車から降りて、辺りを見回した瞬に近隣の住民が声をかけた。
「どうされたね。迷ったの?」
「あ、はい……ええと、この辺りにサリー・オオムラっていうアーティストの方がいらっしゃると聞いて」
 瞬の言葉に、相手は明らかな困惑を見せた。忍も運転席から降りて事情を尋ねる。
「ああ……サリーはねぇ、今はもうほとんど何もわからなくなっちゃってね。数年前まではそりゃあ素敵な絵を描いていたんだけどね。若年性アルツハイマーって言うらしいねぇ……会話もままならんのよ」
 その言葉に瞬が落胆を見せる。ここまできて、結局わからないのかと。けれどそれは朗報でもあった。彼女はもう、瞬を認識できないのだろうから。
 忍がとり為すように言葉を繋ぐ。
「そうでしたか……僕たちは東京から彼女を訪ねてきているんですが、実は彼が幼い頃にサリーさんとゆかりがありまして。もしよろしければ、少しだけでもお会いできないでしょうか」
 頷いた老婆が背後を指差す。
「アトリエに使っておったんじゃけどねぇ……今じゃ、住むところもないし。私らが世話しているんよ。中におるから会ってみたらいいんじゃないかね。あとね、あの子はなんだかたくさん日記を書いていたからそれも役に立てばどうぞ。全部、隣の部屋に置いてあるから」

 その言葉が終わるか終わらないかのうちに、庭に一人の女性が姿を見せた。白い麻のワンピースを纏った40歳ほどの女性は、瞬を見るなり夢を見るような顔で歌うように囁いた。
「あぁ、ダディ。会いにきてくれたの? 私、ちゃんとできたでしょう? あの子は変身したのよ。誰も信じてくれなかったけれど、ちゃんと。ダディは知っていたのね」
 縋り付くように瞬の体を抱きしめて、ダディ、と繰り返す。
複雑な表情でそれを見下ろした瞬が、忍と視線を交わした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おとなのための保育所

あーる
BL
逆トイレトレーニングをしながらそこの先生になるために学ぶところ。 見た目はおとな 排泄は赤ちゃん(お漏らししたら泣いちゃう)

お仕置きの国

kuraku
ファンタジー
ここでない国。ここでない時。家庭や学校ではケインやパドルでお尻を叩かれるのが当たり前の世界。  この国では軽微な罪はお尻への鞭打ちの「お仕置き」で償う事になっている。  細かな法は県毎の県法で決められており量刑、年齢の上限、男女の違い、回数…全てが法によって定められている。    その日も一人の万引き少年が即決裁判により剥き出しのお尻に革パドル百叩きの刑を受ける羽目になった。    

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

少年更生施設のお仕置き

kuraku
BL
ユウリは裕福とは程遠い。家にも帰らず、学校にも通わず。今、自分が十代の半ばだという事は覚えている。学年は知らない。死んだ母親譲りのアイドルそこのけの美貌が災いして、父親に売り飛ばされそうになってから一人で街で生きている。 「お、結構持ってるね。いいね、友達になろ?」  歓楽街の近くでブランド物を身に着けているホストやお坊ちゃんを狙う。  人通りの少ない裏路地に連れ込んで脅しつける。特殊警棒で看板をへこませ、そのまま振り下ろして額スレスレで止めてやる。それで、大抵は震える手で紙幣を掴んで渡してきた。ちょろいもんである。  あまりやり過ぎるとケツモチが出てきてどんな目にあわされるか分からないからほどほどにしないといけない。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

前後からの激しめ前立腺責め!

ミクリ21 (新)
BL
前立腺責め。

“5分”で読めるお仕置きストーリー

ロアケーキ
大衆娯楽
休憩時間に、家事の合間に、そんな“スキマ時間”で読めるお話をイメージしました🌟 基本的に、それぞれが“1話完結”です。 甘いものから厳し目のものまで投稿する予定なので、時間潰しによろしければ🎂

ゲイアプリで知り合った男の子が浮気してお仕置き調教されるはなし

ましましろ
BL
あらすじはタイトルの通りです。 ※作者の性欲発散のために書いたのでかなりハードなプレイ、マニアックな内容となっております。 【登場人物】 黒田春人 (ハル) 会社員 26歳 宮沢時也 (M) 無職 18歳 タロさん 別のBL小説を同時に連載しているので投稿頻度はまだらです。

処理中です...