スパダリ社長の狼くん

soirée

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第五章

一話

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 社長が来ない黒宮君の全快祝い飲み会、という触れ込みは凄まじい勢いで社内に広まった。参加者殺到の現状に幹事を申し出た藍原と笹野が頭を抱える。笹野がうめいた。
「あいつの人気忘れてたわ……なんなんだよ、営業一課の俺らより人気じゃねーか、やばいだろ」
 参加人数をもう一度確認しながら、宴会会場をスマホで検索していた藍原も音を上げる。
「今回はまた社長が来ないから余計にな……いくら社長が顔を出さないからって黒宮に手を出すのはタブーもいいところなのに」
 通りかかる帰宅する社員が二人の手元を覗き込んでは歓声を上げてさらに参加を名乗り出る。頭痛を堪えながら二人で残業ばりに頑張る羽目になって、笹野がバリスタからコーヒーを取って渡してやる。
「あ、さんきゅ。こんな大変な幹事入社して初めてだな」
「こういう時槙野さんに頼りたくなるよな。あの人新入社員歓迎コンパとか創立記念パーティーとか全部幹事やってたから」
「秘書ってそんなこともするのか……黒宮も前途多難だなぁ」
 かかりきりだった会計の計算を一時的に放り出して二人でコーヒーを啜る。
 人気のない夜のオフィス、おそらくファイナンシャル事業部のビルに今残っているのは警備員と二人だけ。据え膳にも近い状況をグッと堪えながら笹野が藍原から目を逸らす。

 あの時もこういう状況だったのだ。営業成績最下位の藍原に少しノウハウを教えてやってくれと上司に頼まれて、二人で残った。伸び悩む成績に自信を喪失していた藍原だったが、その時にはすでに笹野が紹介した萌絵と知り合って、なんとか今の状況を変えようと必死になっていた。
「結婚しようと思ってるんだ」
と弱った顔で白状した藍原に、自分が紹介したにも関わらず苛立ちが抑えきれなかった。どうせ手に入らないなら最後に、となし崩し的に藍原の体をものにしたのだ。言い訳のように添えた理由を馬鹿正直に受け入れた藍原に手加減ができなかった。その時の記憶が脳裏をチラつくたびに転職を考えては、藍原と会えなくなるくらいならと未練がましく足踏みをしている。
 もう、あんな暴走をしてはならない。藍原の掴んだ幸せをめちゃくちゃにしてまで自分のものにしたいとは思わない。
「拓海」
 呟いた笹野に藍原が邪気のない視線を向けてくるのを、罪な野郎だなと眺め返す。
 笹野が藍原を名前で呼ぶ時、それが抑えきれない性欲の顕れなのだと藍原は気づかない。恋愛感情がわからない藍原には、笹野にとって自分がそういう対象であるということがわからない。ぐしゃっと前髪をかき上げて頭を切り替える。わざとらしくない程度に話を逸らす。
「あー、参加人数50人超えたな。50人入る宴会場ってなぁ、黒宮と同じ部屋になるかもわかんねーのに、諦めずに参加する神経がわかんねぇよ」
「まぁ、あいつの場合は見た目が良すぎるからな……アイドル枠に近いし、同じ空間にいるってだけでアガるのかもな。性格も可愛いし」
 藍原の言葉に驚いたように笹野が聞き返す。
「何、お前も可愛いとか思うの?」
 同じく驚いたように笹野を見返して、藍原がしばらく考え込む。
「ああ、まぁどっちかっていうと親戚の甥っ子と同列だけどな。子供の相手してる気分になるから、黒宮と話してると」
 そのセリフに笹野が脱力する。余計なライバルが増えなくて良かったと心底安堵しながら改めてその姿を思い返す。そう言われるとたしかに、あれほどの容姿端麗さを持ちながらそういう気分にさせられたことはない。
「たしかにそうだな……アイツにムラムラするかっていわれると全くしねぇわ俺は。アイツにそんなことしたらすっげえ年下に手を出してるみたいな罪悪感感じちまいそう」
「そう思うと社長も結構悪い人だよな。あの二人年齢だって実際結構離れてるだろ?」
「あー……そうねぇ……」
 上の空で答えながら、藍原の体に無駄なボディタッチをしそうな指を握り込む。
「そうだな。ワルイ大人。世の中には結構いるんだぜ、そういうの」
 お前の前にもいるんだよ、と言葉には出さないまま飲み込む。藍原が飲み終わった紙コップをデスクに置いて、また宴会場を検索し始める。
 青い光に照らされる藍原の横顔を見つめて、笹野が持て余した欲を逃すためにコーヒーを喉の奥に一気に流し込んだ。
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