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第一章
~74~
しおりを挟む水の節も半ば過ぎ、街はいつもの賑わいを見せている。
少しばかり違いがあるとするならば、街の中心部、王城の取り壊しの工事が始まった事くらいだろうか
相も変わらず私は教師と出版社代表の二足の草鞋を勤めており、ライネルは漁業会で何やらやっているのだろう
書類上は夫婦、となっているが現状では式も挙げておらず別居状態だ。
ふぅ、と音も立てず息を吐き出す。
漁業会の開発者達は勢いに乗ったかのように次から次と様々な物を試行錯誤しては何故か私に相談を持ちかけてくる。
忙しいのだから止めて欲しい、と言えど終ぞ聞き入れられた事は無い
「む、もうこんな時間か」
授業内容の纏め作業に夢中になっていた為か、視界が暗くなって夜が近い事に気付く
室内であるのだし明かりを付けていれば良いのだろうがそうすると夜中まで作業をし続けてしまうので時間の指標が解るよう極力日の光で仕事をする習慣を付けた。
それはそうと、特に何かする訳でも無く退屈を持て余している様子のルークを見る。
時間を教えるくらいの事はしても良いだろうに、と思うもこれがルークなりの何もしないと言う気遣いであるのだと解るが故に文句も言えない
賢すぎるのも考え物だ。多少愚かであった方が扱い易い
「ルーク、お前は何故私に固執する?」
■ルーク
痛みも無い、スッキリとした身体で山を下る。
『神』とやらを殺し、心臓を喰らう事でその力を得た
『力有る者の核は心臓に在り、それを喰わらば力を手に入れる』なんて、御伽話に出てくる悪役の台詞だったか
半信半疑であったが、方法も手段も選ばないと決めた俺には、
何がなんでもあいつに追い付けるだけの力が欲しかった俺には、試してみる価値はあったし、成果もあった。
ついでに、てめぇらの神が滅された事に気付いた奴らが俺を取り囲んでギャーギャー喚きたてやがったが、一つ残らずその心臓も貰いうけた。
同族であるとかんなもん関係ないし、共食いは禁忌だなんだうるせぇっつうの、弱いてめぇらは強い俺に力を寄越す為に死ね。
雑魚共の力は対した事は無かった。
神とやらの心臓を喰った時の、何かがズルリと身体の内側を這いづられるような妙な感覚はこいつらの心臓では感じられない
神とやらが規格外だったのか、こいつらが弱っちいのか、
老人もガキも一人残らず殺して喰った。
そこらに散らばる死体を見て、可哀想にと思いつつ胸を裂き穴を空け邪魔な骨を砕いてブチブチと血管をちぎって心臓を取り出しては齧り付く
初めのうちは慣れなくて上手く取り出せ無かったが十人、二十人と数をこなして慣れてくる。
要らない死体を一箇所に投げ捨て胸に穴を空けた死体の山が出来上がる。
罪悪感は欠片も湧かなかった。
死体の山を放置して山を下り、あいつの居場所を探す。
探知魔法なんて使った事もねぇし使い方も知らないが、今の俺には出来る様な気がしてヤケに冴えた頭であいつの姿を強く思う
ぼんやりと頭の中に浮かんだあいつの姿とその背景を頼りに、俺の身体があっちだと指し示す方向へと走る。
ああ、もう走るのさえ面倒くさい
速く速くと急く度に身体がグンと引っ張られる感覚、木々が生い茂る風景は変わり映えしなくとも今俺の居る場所がさっきまで居た場所で無い事は何となくわかった。
移動魔物。そんなもんまで使えるようになったのか、と驚くもすぐに思考は切り替わる。
ビュンビュンと景色が飛んでいく、一気にあいつの居る場所まで飛べれば速いのに、と思うも今の俺にはそこまで出来ないのだろう
一日も掛からずあいつの後ろ姿に追い付く
こちらを振り向き、何も言わず、顔色一つ変えずまた前を向き、歩き続ける
ズキリ
?
何で、
こいつのアクセサリーのおかげで身体には怪我一つ無い
寧ろ戦う前より調子は良いくらいだ。
なのに何故俺は、一体何に傷付いた?
こいつの態度に?傷心ってやつか?
なにを今更
こいつはこういう奴じゃないか
元からそうだったじゃないか
何を期待しているんだ、わかった上で付いていくと決めたのは俺だ。
何故?どうして?なんてもう自問自答するのさえ止めた。
ここまで来たらもう引き返せない
ただ俺はこいつの後を付いていければそれで良い
それだけで良いんだ。
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