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第一章

~63~

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◆ライネル



ミーシャ嬢との結婚が決まった。


ミーシャ嬢が不在であった間に、漁業会は事業を幅広く取り入れるようになり
漁業会員も増えていった。
今やサズワイト王国は漁業会無しでは経済が回らないとまで言われている。

王族として、その事実に思う所が無い訳では無いけれど
なんというか、どうでもいい

今の俺にはやるべき事、やりたい事が沢山あって
堰堤の工事確認も、電線配備も、下水処理施設建設も、電気機器の開発も
目の前に現れていく新しい物、新しい発見
それらがひたすらに楽しくて、面白くて

そんなこんなで気が付いたら十八歳だ。
研究の片手間に勉強もしていたから無事に学院も卒業する事が出来たし
俺の知らない間に兄さんは何やら浮気してるみたいだしと、俺とミーシャ嬢との結婚が正式に決まったのだった。


本来なら、嬉しい。と思うべきなんだろう

俺の初恋で、成長して女の子らしくなった姿はとても綺麗で、素敵な女性だ。
今でも、好意はある。

でも彼女は俺の事を何とも思っていない
父様との約束だから結婚する。その程度にしか考えていないんだろう
別に結婚自体に夢を持っちゃいないし、兄さんが手放したお零れを貰うような形に少し不満はあるけれど
彼女に愛して欲しいなんて期待を捨ててしまう事が出来れば、これは幸せな結婚だ。

必ずしも両想いでなければ付き合ってはいけないなんて決まりは無い
愛しあっていなければ結婚してはいけないなんて法律は無い
けれどそう割り切るまでにはそれなりの葛藤もあった





















「ルークさん、ちょっといいですか?」

「ん、何だ?」

「ルークさんは、ミーシャ嬢の事どう思っているんですか?」

「どうって・・・別になんも?」

「いいえ、ルークさんは、ミーシャ嬢の事好きですよね」


カマを掛けただけだった
確証なんて無い
でも何となく、ルークさんはミーシャ嬢にそういう、恋愛的な意味での好意を持っているはずだと
勝手にそう思い込んで聞いてみただけだった


「・・・どーなんだろな、好き、なのかなんなのか
俺でも良くわかっちゃいねーんだ
でもよ、決めたんだ。
何がなんでもあいつに付いてくって」

「それは、」

それは、もう、愛と言うのでは?
そう言葉にするのは簡単だ
でも、軽々しく言える訳がない
何も考えずに気軽に好きだとか愛してるとか言える子供では無くなってしまった。
言葉一つすら満足に言えないのは、それに重い責任がついてくる事があるのだと知ってしまったから
大人になってしまったんだ


「恋愛っつーのは良くわかんねーけどよ
好きだって思うのもそいつに好いて貰いてーだの、勝手にそう思ってりゃいーんじゃねぇの?
だってよ、あいつだぜ?
惚れた腫れただの言うような奴か?」

「・・・まぁ、想像出来ませんね」


本人がすぐ近くにいるのにこの言いよう
いや、先に話しかけたのは俺なのだけれど

「あいつもなーんか言ってたなぁ
恋愛は契約みたいなもんーだったか?」

「ああ、相手を好きでい続ける代償に相手に好意を持ち続けて貰う。
好意には好意を、愛には愛を、
対価交換の契約そのものだろう」

「ほら、こんな事言う奴だぜ?
こいつがマトモな恋愛出来るわきゃねーだろ」

「失礼な、私とて今は理解出来ないというだけだ」

「自分は誰かを好きになる事は無い、そんな感情は持ち合わせて無いーとか言ってたのはどこの誰でしたっけねぇ」

「あの場を納めるにはそう言うのが適切だと判断したまでだ」

「あーはいはい、そーですねー」

「・・・・仲が良いですね」


なんというか、お互いの事を知り尽くしたような
二人で一つ、なんて言葉が頭に浮かぶ

「仲は良くねぇんじゃねぇか?
ただ俺はこいつのこーゆーとこ受け流すのが上手くなったってだけだと思うぜ」

「受け流す、ですか」

「そ、お前あいつの事好きなんだろ?
結婚すんだし」

「ええ、好き、ですけれど・・・結婚って、人生のパートナーとか、互いを尊重し合える仲とか、言うじゃないですか
俺とミーシャが、そういう風になれるのかなって・・・」

「その必要は無かろう。
結婚の形等それこそ人それぞれだ
私が君に望むのは五人家族の平均的な生活費を賄えるだけの経済力のみだ。
それさえ満たして貰えれば後は何も期待しない、好きにしろ」

「だってよ」



はっきり言って、傷ついた。
愛のない結婚であるのだと言う確証
俺は選ばれた訳では無いと言う事実
何も、期待されていないのだという事・・・


「五人家族って、子供は三人の予定ですか」

「家督を継ぐ予備は必要だろう」

「酷い言いようですね。俺達の子供なのに」

「子は親の所有物も同じだ。躾をしっかり行わないと責任は私達に押し付けられるからな」

「なるほど、そういう・・・」



相手に望むもの、結婚すると言う理想

好きな人に好きになってもらいたいという願いは、なんて自分勝手なものなんだろう

優しくされたいから優しくする
好意を向けられたいから献身する
誰かの為だなんて口にしておいて、その実自分の事しか考えていない
善意の押し付け、優しさの押し売り、自分に返される事を期待した上での好意の言葉

なら、俺も期待なんかしない
俺がミーシャに望むもの、それは

「俺にもしもの事があったら、子供達の事お願いしますね」

せめて、子供達には寂しい思いをさせたくない
愛さなくても良い、決して手放さないで、傍にいてあげて欲しい
それだけだ

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