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第一章

~49~

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■トリップ者



車に轢かれた。と思った
痛みは無く、恐る恐る目を開けたら知らない場所だった。

白い壁に柱、所々欠けていたり汚れているが何処か荘厳な感じの印象を受ける。
頭に浮かんだのはギリシャにあるという神殿のイメージだったが私は海外に行った事は1度も無い

誰も居ない、私一人
そうしてようやく恐怖というものを感じ、動こうとした脚が動かなくなってしまった。

誰か見つけてはくれやしないか
そう思ってただただその場に立っているとコツコツと足音がした。
その方向をじっと見つめていると人と目が合う。

水色の髪、銀の瞳、美しいその造形の人を私は知っている。


「あ・・・あの・・」

「まさか・・黒髪の聖女・・・?そんな馬鹿な・・」


ああ、その台詞も私は知っている。
これは間違い無くアレだ。
乙女ゲームに私は転生?してしまったのだ。





これが転生と言うものなのか疑問はある。
しかしゲームの導入からしてそうとしか言いようが無い
『奇跡の雫~アナタだけの恋物語~』の何時だったかのアップデートで追加された主人公ヒロインは現代からのトリップ者で、車に轢かれたと思ったら見知らぬ神殿のような場所に居た。
そこを攻略対象者の一人、神官ならぬ精霊官のミルウェッチ・クロウラーに発見され
かつてこの世界を救ったとされる聖女と同じ見目をしてる事からこの世界に危機が訪れようとしており、それを防ぐ為に神が遣わした聖女様なのでは、と騒ぎになる。
そしてその通り、ヒロインは次から次へと未来視のような物を見ては国を襲う未曾有の大災害を事前に防ぎ
多くの人から讃えられ、そして想い人と結ばれるのだ。

こんな事があるのだろうか
いや、実際に目の前で起きている事は紛れもない事実だ。
私はこの物語の主人公ヒロインになったのだ!

私の胸は興奮で一杯で、半ば夢心地の中プロローグを済ませた。
懇切丁寧に、この国の礼儀を知らないので御迷惑をお掛けすると思いますが、帰る方法も知らないのでお世話になります。と深く90度に腰を曲げ頭を下げれば流石は王様、そう硬くならなくても良いと心良く受け入れられた。
そして、

ああ、やっぱり良い。
古参にして王道中の王道、レオ様はやっぱり期待通りに最高に格好良い。

『奇跡の雫』は最終アップデートで攻略対象者40人を超えた。かなりボリュームのあるゲームだ。
それこそ普通なら途中で萎えて止めてしまう人もいるだろう、私も途中でアンインストールしてしまおうかと迷いもした。
けれど私はやった。やり遂げた。
40人もの攻略対象者を全てクリアしてのけたのだ。
流石にガチ勢のようにやり込み要素までは出来なかったけど、それでも攻略対象者全員と結ばれた実績はかなり強みとなる筈
誰を攻略しようかと悩みに悩んで、結局は王道に落ち着いた。
おじ様キャラも天然キャラも悪くは無いけど、アップデートを重ねるごとに複雑な人間関係だとか、暗い過去だとか、そーゆー色んな意味で″濃い″キャラが増えてきた。
悪くは無い、悪くは無いんだ。
ただ、シンプルイズベスト。原点回帰。というもの
初期の古参組は普通に格好良くて、普通に良いキャラなんだよ。
私の最推しはワイルドで野生味のあるキャラだったりするが、確か彼はそれなりに難易度高めだった気がするし、隠しキャラなので他の攻略対象者を攻略しなければならなくなる。
攻略対象者を複数人侍らせるなんて事が出来るのか?まぁまず無理だろう
ここがゲームの世界とは言え、やり直しなんて効かないのだから本命を一本に絞ったほうが良い
そんな事を考えている時だった




「君は、私の好きな人に良く似ているよ」

「好きな人、ですか?」

「うん、情けない事に、私はその人に好かれてはいなくてね・・・・
ごめん、こんな事、君に話す事では無かったね」

「レオクリス様には、婚約者がいらっしゃるのでは?」

「・・・・・・」




返事は無く、レオ様は俯いていた。
元よりゲームとは所々キャラクターの性格やらなんやらが違っている所がある以上、下手な事をしてストーリーを大幅に改変するのは危険だ。
私に出来る事といえば第二ヒロイン用の大災害を防ぐストーリーをこなすくらいだった。
この国が災害に見舞われれば流石に自分自身の生活もかかっている訳なので無視する事は出来ない
そのせいで攻略が上手くいかなくても最悪ラストキャラがいる。
ゲームの40人を攻略し終えると攻略出来るようになる41人目のラストキャラはゲームを最初からやり直して誰も攻略しないで進めるとようやく攻略出来るようになる仕様だ。
私が上手く立ち回れず誰も攻略出来ずじまいとなったとしてもまぁ大丈夫だろうと楽観視している。
しかしまぁ、どういう事かは知らないがレオ様には婚約者が居ないのだろうか?そこもゲームと違うのか?
これはローズに話を聞くべき事だな、と覚えておくこととする



「大丈夫ですよ。レオクリス様はとても素敵な方ですから・・・でも、少し、羨ましいです。
私、レオクリス様の事、お慕いしておりますから」

「・・え・・・」

「私、諦めるつもりありませんから」


恋愛は押した者勝ちなのだ。
彼女がいるだとか関係ない、別れる可能性だってある
実際私は前の世界でそうだった。

だから、ここで引く訳にはいかないだろう
折角のチャンスを不意にするのは勿体ないと言うものだ。







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