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第一章
~38~
しおりを挟む◆ロズベルト
「あぁああああ!!お兄さんお兄さん!
ミーシャが居ないんだけど!皆ミーシャがやめたとか言ってるし!
ミーシャはどこ居るの!?会いたいんだけど!」
超絶に面倒臭いのに絡まれた
ハッ、いけないいけない
仮にも彼はミーシャが雇っている夫婦の息子さん
ミーシャが我慢出来る事を俺が我慢出来ずにいてどうする
「ああ、ミーシャなら兼ねてから予定していた遠出で暫くは帰ってこないよ。じゃ、失礼」
「へ???え??あ、待って、待ってよ待って!
遠出?帰ってこないって、どういうことなの!?
ボクなにも聞いてないよ!」
聞いてないも何も、ミーシャがお前に伝える必要はないと判断したって事だろう
それくらい察して欲しいが、目の前の正真正銘の馬鹿を相手にするだけの時間が惜しい
「ミーシャから何も聞いてないんだ?
ミーシャにとって君はその程度の存在だったって事なんだね」
「・・・え・・・・・・」
悪意の篭った言葉をぶつけてやる
態々口にする必要は無かったのかもしれないが、そんな事は知った事じゃない
前々からこいつには不満も、言ってやりたい文句も溜まりに溜まっている
一流の馬鹿の頭でも流石に俺の言葉の意味が伝わらない、といった事はないだろう
あからさまに傷付いたような顔に、ざまあみろと見下した俺は自らの性格の悪さに嗤ってしまう
「俺は君と違って暇じゃないんだ。では」
呆然と立ち止まっているエドガーを置き去りにして図書室に向かう
休み明けの週初めは特に何も無くともどことなく忙しない空気を感じる
ふと、視線を感じるような気がして軽く辺りを見渡すと前方に俺より高い身長の男がこちらを見ていた。
「・・・・」
確か、こいつもミーシャに付きまとっていたような?
特に話題に登ってきた事もない人物だっただけに記憶は朧気だ
「・・・・・・」
「・・・・・・」
互いに何も発言する事なく見詰め合う
しかし少しすると先に向こうが目線を逸らし俺を通り過ぎていった
・・・・一体何だったんだ?
不思議に思いながらも俺には関係のない事だろうと忘れる事にし目的の場所へと向かった
◆ライネル
「え、どう、いう、事?
え、だって、先週まで普通に、え、え?」
あまりにも情けない、困惑しきった声に
ああ、この人は本当に何も知らないのだと、
何も教えて貰ってないのだと知った。
可哀想に
といった哀れみと
この人には教え無かった事実をこの僕には教えてくれたのだという
特別に想ってくれていたのかもしれない、なんて
思わず、心の何処かでいけないと自制する僕を押し退けて感じてしまうのは優越感だった。
婚約者であるこの兄に何も言わずに、
しかし僕には事実を伝えて学院を去って行った彼女
その事実に兄に対して
お前は所詮彼女にとってその程度の存在だったんだ
なんて、見下すような気持ちが沸いてしまう
「・・・本当に何も・・」
聞いてないんですね。と言いかけてやめる
追い討ちをかける程僕は腐ってない
しかし僕の言葉の先を察してしまった兄の顔色は白を通り越して真っ青だ。
「なんで、どうして、ミーシャ・・・」
悲壮感を漂わせながら同情を誘う掠れ声は、聞く人によれば痛々しさに涙を禁じ得ないかもしれなかったが
僕には一周回って滑稽にすら見える
こんなに焦燥するくらい好きならば、相手を引き止めるくらいの気概を見せれば良かったのに!
こんな事になる前に、好いた相手を口説き落としておけば良かっただろうに!
嫌われるのを恐れて後手後手に回って、相手と正面切って対話する事もせずにグダグダとしていた結果がコレだ。
こんなものが未来の国王だって!?
笑わずにはいられない
「ライネル殿下、こちらに要らしたんですか」
「ああ、ロズベルトさん
じゃあ兄様、僕はこれで」
「・・どうされたんですか?」
「いや、何も
対した事じゃあないよ」
浮き足立ったような、なんとなく身体が軽く感じる。
僕は今とても良い気分だ。
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