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第一章

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国境の谷
地域によっては町の名前から取りハボルドの谷だの、ルガンダの谷だの、あるいは東の大谷だの、大陸の裂け目だのと、その渓谷には名称が多く存在する。

あまりにも巨大が過ぎるその渓谷は過去に幾人かが全長を調べようとしてきたが、結局今の今までその正確な数字は出ていない
歴史を多少なりとも齧っていればこの大谷に纏わる話は幾分か知ることとなるのだが
この大谷を渡ってみせた人物は過去に一人も居ないとか



「むちゃくちゃだろ」

「無茶ではない、出来る確証があるからやるのだよ」

「いや、待て、ホントに待て、落ちたらどうすんだよ」

「落ちはしないから安心しろ」

「万が一、ホントに万が一にだ、落ちる可能性があるとして、どうすんだよ」

「私が決してそのような事にさせない
私に任せろ」

「お、おう・・・」



これから渡るという渓谷を目の当たりにして、不安に思う気持ちはまぁ、理解出来なくもない
過去に魔力の多い人間がこの渓谷を浮遊魔法で飛んで渡ろうとして失敗に終わった話がある
あまりに距離があり過ぎるのだ。
並の魔力持ちは勿論、大量の魔力を保有する人間でもそうそう渡り切れるものではないのだろうが
忘れてはいけない、私は転生者チートなのだ。

初めて行う事ゆえに必ず成功するとは限らない
しかしやらなければいけない
ならやるしかない

私はギャンブルは好かないし、このような、やってみなければわからない、と言った行き当たりばったりのような事もあまり得意ではないが、
思えばこの世界に転生した事事態が後先考えない行き当たりばったりな行動であったな。と思い至る
なら何度だってやってやろうじゃないか

何かの劇中台詞に、やらずに後悔するよりはやって後悔した方が良い。みたいなものをぼんやりと思い浮かび
確かにその通りだ。と納得する

まずは行動あるのみ


「ほら、しっかり掴まれ」

「うえぇ・・マジかよ、なぁ、こう、パッと移動とか出来ないのか?」

「私一人ならば出来るが、お前もとなると無理だ
行くぞ」

「マジかマジかマジかよマジかぁぁああああ!」


フワリ、と
絵本に描かれた傘を片手に持った女性のように
魔法学科の教材に描かれたデフォルメされた人の絵のように
私の足は地上から離れ、
一気に横移動を開始した。


向こう岸は遠く、近付いていっている自覚が出来ない程
しかし振り向けば出発地点からそれなりの距離を離れた事を知覚出来る事だろう
そして足下、私達の真下、底無しを思わせる暗闇は常人には耐え難い恐怖を思わせる事だろう

「いぃいぃぃぃい、ううぅいいひぃいいいぃぃぃ」

おんぶのような形で背中にしがみつくルークの、悲鳴のような呻きのような声が時折耳元で発生する

「はぁぁああっ?!はぅあぅぁああぅぅうっ!」

震える腕が思い出したかのようにギュウ、と胸を圧迫してくる

顔にぶつかる風の勢いから馬を全力で走らせるよりも速度は出ている
まだ距離はあるが確実に近付いていく向かい岸に向かいながら
ぼんやりと前世の頃に遊んだテーブルトークRPGを思い出し、さながら今のルークは正気度判定のダイスを振っている最中なのだろうかと
情けない声を振り切るように思考を他に飛ばしながら渓谷を渡った。






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