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第一章

~34~

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日が長くなってきた花の節、その早朝
空は白ばんできて明るい
人の気配が全くしない街並みは普段の人が多く行き交う姿を知ってる者からすれば別世界のように見えるかもしれない


「よっし」

馬小屋から出てきた毛艶の良い馬
かの異世界における種族交配の末のサラブレッドとは違い背も低ければ頭も小さめであるが、そんな事知るよしのない青年は馬を宥めるように撫で叩いている

「んじゃ、行くか」



ギィギィと軋みを上げながらも車輪は回転速度をあげていく



長かった。
この時を目的としていたのは確かだが、そこまで重要度は高くはなかった
しかし私にもそれなりの意地というものがあったらしく
今世における目標をこの旅に捧げていたような気がする。
いや、実際そうなのだろう

この国の未来を想像するだけなら簡単だ。
しかし絶対など絶対無いと言う理不尽がまかり通るのが世の中の常
私が王太子殿下と結婚した後、私はただ国の為、世継ぎの為に消費されるだけの母と言う名の部品となる
そこに私の自由も、私の好きに出来る時間も僅かしか許されないだろう


今だけ、今この時だけが私の、私だけの自由に出来る
私だけの時間だ。



豪華、と言う言葉からは程遠い使い古された荷馬車は元は農民が使っていたのだろう、掃き掃除をしても落としきれなかった砂や土埃が隅の方に溜まっている
板張りのそれに薄い布をかけ直接三角座りをしている姿など、両親や兄に見られたら何と言われるか
しかしそんな心配すらする必要はない
馬車は本来よりも速く町の郊外へと出ており、太陽は登りきっているがまだ朝早く畑に人の姿は見られない


ルークは何も言わない

こと、勉強においては不思議に思った事や疑問については必ず聞くようにと、わからないものをわからないままにするなと言い聞かせたが
私自身に関する事、プライベートや趣味思考については何一つ疑問を抱く事あれど質問するような不躾な事をしない
時折こちらに何かしら物言いたげな様子を見せるが、賢くなった頭は口を閉ざし見て見ぬふりを覚えた。
本当に良い拾い物をした。






-----------------------




「紹介しよう、こちらルークだ。
私の従者兼護衛として雇う」


以上だ。
とばかりに簡潔に言葉をまとめ踵を還す


「いや、いやいやいや、待って
ねぇ、待って、どういう事なの、え、誰?それ?」

そう言うのは兄であり

「ミーシャちゃん、そちらの、ルークくん?は、その、獣人?なのかしら?」

そう言うのは母であり

「・・・・・・ハッ!
ミーシャ!幾らミーシャが選んだ男とて、お父さんは認めんぞ!!」

と、何やら方向性の違う発言は父であった


「あー、すんません
なんかオレ、おじょー様に雇われまして、その、よろしくお願いします?」

そんな空気をぶち壊すかのように口を開いた少年は、人の姿をしているが人とは言えない姿をしていた



少年が獣のような耳と尻尾、それに毛むくじゃらの獣のような腕や足に気が遠くなる思いをしながらも
タイル張りの浴室に引き摺り込み全身を汲まなく洗った使用人達こそが一番の功労者だろう

改めて、と言ったのは誰だったか

事を侵した張本人ミーシャ抜きで四人

フロイライト家領主のダティア・フロイライトとその妻ミリア・フロイライト
長子であるロズベルト・フロイライト
この三人は流石侯爵家であると手放しで褒め讃えられるだろう見事な調度品が飾られている部屋の中、そこに居るのが当たり前のように溶け込んでいる

しかし目の前の異物は違う

綺麗に洗われ、長子の服を一時借りて着ている為それなりに見られる姿ではあるものの
特出すべきはやはりその獣のような見た目だろうか


ジロリ、ジロリ、
と、貴族として品格が問われかねないような、好奇心、懐疑心、相手を見定め測ろうとする目線を向け一人の少年を観る
年は息子と同じくらいだろうか?
あの耳や毛皮のようなものは本物なのだろうか?
娘は、妹は何故この存在を連れてきたのだろうか?


そんな目線をものともせず、少年は口火を切った






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