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第一章
~12~
しおりを挟む「こうして、炭素と酸素の式によって二炭化酸素が出来る訳だ」
今日の授業内容は原子の化学式の説明だ。
基本となるものを教えるのが教師の勤め、応用力はそれこそ生徒によって違ってくるだろう
魔法や精霊が当たり前の世界は物事の事象や成り立ちについて理解を深める事を投げ出している事がままある。
実際転生前、様々な異世界を渡っていた頃そういった世界は珍しくもなかった
魔法という存在は便利ではあるがある意味厄介だ。
何故そういった事象が起こるのか、どのような経緯があるのか、結果に対する原因は何か
それらを全て引っ括めて、″そういうものだから″と言う暴論で纏めあげてしまうからだ。
雨がどのようにして降るのか、その理由をこの学院の生徒の殆どは知らないのだ。
『雨とはそういうものなのだ』と、そこで思考を停止してしまっている。
それはあまりにも勿体ない。
私は旅の資金稼ぎの為、教師となるべく学院の教師達に理科、化学と言った分野の学科の立ち上げを申し出たのだった。
「ではセイス・ルルマンド、こちらの化学式が何を表すか答えたまえ」
「ええっ?えーっと、えぇぇと・・(コソッ)ごめんちょっと見せてくれない?」
「えー?」
「わからないならわからないと正直に言うと良い、別に責めはせんよ。以前の授業で教えた内容であれわからない生徒がいればちゃんと教えるとも」
「う・・・わかりません」
「Agは銀だ。そしてこちらは銅、必要最低限これらは暗記しておきたまえ、授業中に寝てしまったのなら他の生徒に力を貸して貰うなり図書室で調べるなり直接私に聞くなりすることだな」
「・・すみません」
授業が終わり、昼の休憩時間となった。
学院の食堂はそれなりの広さがあるが人の量があるだけに狭く感じてしまう
学院の授業は少し複雑な構成をしている。
生徒に合わせるのではなく、教師の授業に生徒が合わせるようなものだ。
それぞれの学科につき一つ二つの教室が宛てられ、決まった時間に授業を行う。授業内容も一回の授業に内容を一気に進める教師もいればゆっくりと進める教師もいる。
生徒は選考している学科の授業を受けることになる。
そうすると二つ以上の学科を受ける生徒等は途中で着いていけなくなるものだ。
そこはそこ、学院は学ぶ場所なのだから知りたければ自力で調べろとばかりに生徒達で教えあったり自分で調べたり、直接教師に教えを越うたりするのだ。
それこそ例外は貴族学科だけとのこと
爵位持ち専用の教室が用意されている上に一回の授業に二人以上の教師が着くこともあるという
あまりの高待遇にいっそ他の生徒と同じようにしてみたらどうかね。と言ってみたが
そうすると恨まれかねないとの事だ。
貴族学科は学ぶ事が多い、領地経営の為の経営学や貴族としての立ち振る舞い、それだけでなく跡継ぎとなれない生徒の為給仕や料理等も教えなければならない
それだけの学科を他の生徒のように学ぶとなれば必ず授業に着いていく事すら出来なくなる。そうなればその八つ当たりが怖いのだとか、
全く度し難いな
「こーんにちわっ、ミーシャせーんせっ」
「こんにちは」
「ミーシャせんせーここ教えてー」
「何故私なのだね。製裁学科の教師に聞くといい」
「いやぁ、ミーシャせんせいの教え方のがわかりやすいからさぁ」
「今日の授業が全て終わってからでも良いのなら縫製室に来るといい」
「やっさしーい」
やたら馴れ馴れしい生徒が私に良く教えを越うことがある。
彼は確かメッシュール・ガルパン
ガルパン商会という大手企業とも言える商会の会長の一人息子で貴族学科を習う爵位持ちだ。
指定制服をだらしなく着崩しており、くせっ毛なのだろうブロンドを整える事すらしないだらしのない生徒だ。
生徒から嫌われるよりかはマシなのだろうと多少距離感が行き過ぎていようと気にしないようにしている
本来なら婚約者のいる存在に異性が近付き、まして身体に触ってくるなどと貴族のマナーとしては失格そのものだろう
しかし私は学院内では教師であり、彼は学院の生徒の一人、その他大勢でしかない
多少の無礼には目を粒ってやるのも必要な事だ。
「いやー、最近の人参は甘いのが増えたねぇ
これもせんせいが品種改良を各地に教えたからなんだよねぇ」
「別に珍しくもなかろう、農家の市場競争が激化しないよう君の父君に頼んでいるしな」
品種改良。というものは私が産まれる前から存在していたものだ。
ただそれは利便性のみに使われていたらしく、小麦の稲が2mを超える大きなものだったものを、人の手で簡単に採取出来るよう背の低い小麦を開発したり、
高い所にしか実を付けない果物を、木そのものが大きく育ち過ぎないようにと改良されたり等あったとの事
その方向性を″味覚″に傾けただけの事だ。
お陰でフロイライト家が領主を勤める土地は『食の名産地』として有名となり、その稼ぎの半分程が私個人の資金となっている。
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