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第一章
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しおりを挟むそこは精霊界
人ならざる神秘の存在達が住む、楽園のような場所
その一角に、そうそうたる顔触れが集まっていた。
「あ~あ、あの子はまだ来ないの?」
「風のが呼びに行ったってよ、良いよなあいつは」
「久しぶりにあの子に会えるー!」
大地の精霊王、森の精霊王、海の精霊王が付かず離れずの距離を保ち楽しそうに、どこか待ち遠しそうに会話をしていた。
〔ふふ、今日こそお誘い出来るかなぁ〕
〔大地の奴は腑抜けていてわかりやすいな、海の奴は興味なさそうなフリをしているようだがあれは相当入れ込んでいるな。ま、俺も同じようなものか〕
〔ホントに久しぶりだなー、ていうかもっと会合の回数増やしても良いんじゃないかなー?〕
それぞれがこれから来る【それ】と会えるのを心待ちにしていると
「やっと連れてきたよー!もぅ大変だったんだからぁ」
この場にいる全ての精霊王が風の精霊王の方に目線を向ける。その後ろに【それ】が、彼らの待っていた愛おしい存在が立っていた。
【それ】には名前が無かった。
全ての属性を統べる精霊の長たる精霊王から名前を与えようかと言われた事もあったがお断りさせて頂いた。
私が名を持たずに産まれてきたのなら、きっとそれには必ず意味があるのだろう、それを私は知る必要がある。だから余計な真似はしないでくれ。と言ったため未だ【それ】は固有名詞を持たないままでいる。
【それ】は自分以外の精霊達や、精霊王達が苦手であった。
自分とは違い、華奢で可憐、筋の通ったバランスの良い整った顔立ちは多くの精霊達から美しいと賞賛される程、
それに対して自分はどうだろう?無駄に大きな体躯、顔の造形に関してはまず見たことがないためわからないが少なくとも彼らより整っているとは到底思えない
何よりも、【それ】は自分の存在そのものが嫌いで仕方なかった。
精霊には多くの種類がいるが、必ず自身の属性魔法を扱えるものが殆どである。
炎の妖精は火を、森の精霊は植物を操るように
そして始祖の精霊王と呼ばれる唯一無二の精霊王は全ての属性を扱えるが、【それ】はそのどれにも当てはまらない存在であった。
自分の属性がわからない、にも関わらず全ての属性が扱える上に訳のわからない事にどの属性ともつかない妙な魔法を扱える。しかも精霊界を拠点としているが他の世界に行ったり来たり出来る力まで持っている。
このような力が、精霊の力であるのだろうか?という疑問は尽きず、【それ】は始祖の精霊王に自らの存在は何者であるのか、それを問い詰めた事もあるが、それも徒労に終えてしまった。
【それ】が何者であるのか、誰にも、何もわからない。という事がわかっただけだった
それ以降、【それ】は自身の存在に疑問を抱いていた。
自分は何者なのか、自分は何の為に生を受けたのか、自分が生きる事に何か意味はあるのか、そもそも自分は本当に精霊なのか、精霊ではない何か別のモノではないのか
そんな、答えが見つかるのかわからない疑問を延々と世界に対し問い続けているのである
「ああ!会いたかったよ!」
「君と会えるのはこの会合の時くらいだからね、本当に嬉しい」
見目麗しい数々の精霊王が近寄り、話しかけてくるが【それ】にとってはただ煩わしいだけであった
「そうかね、私は何とも思ってはいないがね」
「余り連れないことを言わないでおくれ、寂しいじゃないか」
「精霊王様」
「精霊王様だ」
【それ】と身長は同じ程ではあるが、真っ白い肌、光沢を放ち、白銀に輝く長い髪、どんな宝石でも掠れてしまうような七色の瞳の彼は、【それ】と相対する。
「寂しい?精霊王として、数多の世界の監視と管理、加護の調整などに忙しいがため世話係が付きっきりの貴方様程のお方が寂しい思いをするのですかな?」
悪意と嫌味をたっぷりと詰め込んだ言葉を投げつける。
言葉使いこそ丁寧ではあるが、このような物言い、精霊王たる存在に許される訳がない、---のだが
「ああ、寂しいさ、君に会えない間は私はずっと寂しい思いをしているよ」
「ほう、貴方様程の方がそのように思える時間がおありになるとは、執務が落ち着いてられるのですかな?」
言外にお前にはそんな暇ある訳ないだろ、仕事サボってないだろうな?とカマをかけるのだが
「ん、まぁ、ね。君と会う時間の方が大切だから」
言葉を濁し、それでもその整った顔を私の目と鼻の先まで近づけ、左頬に絹よりも滑らかな掌がそっと触れてくる
「なんと・・貴方様程の方が自らの義務を放棄するとは、やはり私の存在は害悪でしかないようだ。これは、、嘆かわしい。ああ、安心してくれたまえ、私は最近新しい魔法を覚えてね。君達に決して迷惑をかけることはないし、これからは二度とないだろう。
どうか、私のいない平和な世界で満たされてあって欲しい。これは私の純朴たる思いだよ」
元々、私は自らの存在について調べる過程で異世界への扉を作り渡ったり等をしてきた事、あとこの精霊界に対して想い入れも後腐れも何も持っていなかった事からいつか本格的に異世界に渡り、自分と同じような存在がどこかに居ないか探す旅に出たいとは思っていたのだ。
精霊王の言葉は私に後押しをしてくれた。
私という異物の監視の為に精霊王のお手を煩わせて、彼の果たすべき執務の時間を奪ってしまうなど、あってはならない事だ。それならば一刻も早くこの世界から脱する必要がある。
私はその魔法を発動させた。
その場の精霊王達は驚いたような顔で私の発動させた魔法が何であるのかを調べようとしているようだが、まぁまず無理だろう
このような魔法、私ですら編み出した時に意味がわからなかったくらいだ。
しかし今ならばわかる。
この魔法を私が作り出す事が出来たのはきっとこの為なのだろう
精霊界にとっての異物であり、あってはならない害悪の塊のような私がこの世界から立ち去る為の授かりモノだったのだ。もっと早くにこの魔法を使っていれば良かったのかもしれないな。
そんな事を思いながら【それ】はゆっくりと消えていった。
精霊王達の前から、精霊界から
【それ】の使った魔法は遠く離れた世界へと転生するものであると気づくものは誰も居なかったのである。
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