オメガも悪くない

みこと

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「今の誰だ?」

「え?工学部の場所を聞かれただけ。」

「何で雅人に聞くんだ。何のつもりだ?アイツはアルファだろ。」

「知らないよ。さっきのヤツに聞いてこいよ。面倒くせーな。」

最近は終始こんな感じだ。忠臣がもの凄く嫉妬深いのが分かった。それ以外は文句の付け所はないが本当に面倒くさい。はっきり面倒だと言っても全然応えないのだ。 
おまえのメンタルはどうなってるんだよ。

「授業始まるから行くよ。」

「待て、まだ話は終わってないぞ。」

「終わるどころか始まってもねーよ。」

「何だその態度は。夜はお仕置きか?」

そう。忠臣は俺にお仕置きをするのが好きみたいだ。夜通しいろんなことをされる。今日は金曜日なので本当に夜通しだ。身体が保たない。

「じゃあ行かない。寮に帰る。」

「え、ちょっと待て。それはダメだ。雅人、今日は金曜だぞ?思う存分イチャイチャする日だろ?雅人、な?冷たい事言うな。俺が悪かったから…。」

全く…。頭がいいくせに学習能力がないのかよ。この間も同じ会話しただろ。
忠臣が後ろから抱きついて頸や首筋にキスをしてくる。

「学校ではダメって言ってるだろ!」

「雅人、好きだ。好き、好き。愛してる。ごめん、怒るなよ…。」

「分かったから…。もう、本当におまえは。」

「怒ってないか?今日イチャイチャできる?」

「うん。…授業遅れる。」 

やっと離れてくれて別々教室に向かった。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


「イチャついてたね。羨ましい。西園寺君って情熱的だね。」

あ、見られてた?恥ずかしい…。だから学校では止めろって言う言ってるのに。

「え、うん。あのさ…」

哲雄に何となく忠臣の事を相談してみた。

「アルファなんてみんなそうだろ。この人だって思ったらもの凄い執着するんだよ。俺の友達なんて恋人のアルファにGPS付けられてるよ。しかも軍事用。」

「えっ!軍事用?」

「そう。数センチ単位で場所が分かるみたい。アルファは金持ちが多いからね。」

「ひぇー!マジかよ。でも、俺なんか他のアルファとちょっと話しただけだぞ?そんなんで嫉妬してたら…。」

「西園寺君は上位アルファだろ?そういう人ほど番のオメガに執着する。他のアルファに触られて匂いでも付いた日にゃあ、夜のマーキングが…ククク。」

「こ、怖い事言うなよっ!」

夜のマーキングってアレの事だろ。今だって凄いのにこれ以上されたら…。死ぬ。

「法学部の原田君知ってる?あのスラっとオメガ。他のアルファの匂いが付いちゃって10日くらい監禁されてたみたいだよ。久しぶりに見たら窶れてた。隣にいた番のアルファはツヤツヤしてたけど。」

監禁⁉︎嘘だろ?いや、忠臣もやりかねない。『外に出したくない』って言ってたし。はぁ、アルファとオメガって本当に難しい。でも不思議なことに嫌なわけじゃない。何だろう。これが本能なのか?
その後お気に入りのアルファの事を嬉しそうに話す哲雄を眺めていた。


授業が早めに終わったので哲雄と話をしていた。哲雄はそのアルファと付き合うか悩んでいるらしい。

「ねぇ、ちょっといい?」

顔を上げると千春が立っていた。相変わらず可愛い顔が怒っている。

「あ、何?」

哲雄が『知り合い?』と聞いてくるので頷いた。じゃあ、とイスから立ち上がり教室を出て行った。教室には僕たち二人だ。急に怖くなってきた。哲雄に居てもらえば良かったかも知れない。それくらい千春からは殺気が漂っている。

「何?じゃないよ。本当にいい加減にしてくれる?」

「だから、何なんだよ。」

「忠臣君の事だよ。君と番って結婚するって。そんなバカなことさせないから。」

バカって…。何だよ。忠臣が決めたんだよ。言い返そうとするとブスリと首筋に何かを刺された。 

「痛っ!えっ?何?」

何?何をしたんだ。驚いて首筋を押さえる。

「発情期を起こす薬だよ。」

ほら、とペン型の注射器を見せられた。

「そんなに番が欲しいなら僕が用意してあげるよ。」

俺は完全に思考が停止した。今、何が起こってる?
千春の貼り付けたような笑顔を見つめた。
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