オメガも悪くない

みこと

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『抑制剤何使ってる?』
『えーっ!それ新しいやつじゃん。やっぱ副作用軽いの?』
『結構高いよね~?』
『でもさぁ、僕ヒートキツくて…。』

 俺の左側の席を2つ空けて座っている3人組の話に耳を傾ける。3人ともオメガのようだ。1人は俺と同じ男のオメガだ。抑制剤の話と発情期の辛さを語り合っている。
 俺は教科書を読むフリをして聞き入っていた。3人ともタイプは違うが可愛らしいオメガだ。俺みたいにベータよりのオメガとはだいぶ違う。
 東京に来て何人かのオメガに会ったが、みんな可愛かったり美人だったりと魅力的だ。俺は背もオメガにしては高く陸上部だったので筋肉もそこそこ付いている。高校3年の春に受験勉強のために引退したからムキムキってほどでもない。目は一重だし、鼻は小さいし、唯一色が白いって所だけがオメガっぽい。陸上を辞めてからはさらに白くなってしまった。哲雄曰く『サッパリした顔』らしい。3人組の中の男オメガの顔をこっそり盗み見る。ぱっちりとした二重にシュッと高い鼻。可愛いと美人が同居している。そして良い匂いだ。



「おい、聞いてる?隣いい?」

 ハッとして右上を見ると男が机を指差している。左の会話に夢中で気が付かなかった。

「あっ、うん。」

 どうも、と言って彼が座った。チラリと見るとかなりの男前で精悍な感じだ。おそらくアルファだろう。何となく分かる。 
 大学に入学して何人かのアルファを見てきた。話しをした事はないが見ただけで分かる。ベータやオメガと全く異なる人種、まさに選ばれし人間だ。隣の男も一目でアルファと分かるオーラが滲み出ている。

「オメガ?」

 急にこちらを向いて訪ねてきた。チラチラ見てたのがバレたのだろうか。しかも急にバースの事を言われてびっくりした。初対面ではベータに見られる事がほとんどだ。もしかしたら匂いが漏れているのかと焦る。彼はじっとこちらを見ている。

「うん、そう。ごめん、匂った?」

「別に。」

「そっか。」

 これが俺とヤツの出会いだった。ヤツの名前は西園寺忠臣さいおんじただおみ、期待を裏切らない洒落た名前だ。
 仲良くなってから知ったんだけど、西園寺家のお坊ちゃんでアルファの忠臣はめちゃくちゃモテる。でも浮いた噂はあまり聞かない。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

「今日、ウチ来るか?」

「いいの?」

「ああ。あの部屋じゃ勉強どころじゃないだろ。」

 優しくニコリと笑いながら俺の頭をぐしゃぐしゃと掻き回した。
 その後、俺と忠臣は何度か授業で一緒になりノートの貸し借りをするうちに仲良くなった。なにせアルファだし見た目が良いもんだから怖いヤツかと思って最初の頃はビクビクしていたが、意外とフレンドリーで良いヤツだった。優しくて面倒見が良くてマメだ。キリッと精悍な顔だが笑うと目が垂れて人懐っこい顔になる。そして良い匂いもする。お高い柔軟剤でも使っているのだろう。ふわりと薫るソレにドキドキするのは内緒だ。こんな可愛くも色っぽくもないオメガに言われても困るだろう。

 俺はオメガ専用の学生寮に住んでいるが、オメガってだけで入居を断る所も多いから仕方なく学生寮だ。築40年のボロい寮でエアコンも古いため、夏はサウナみたいに暑く冬は冷蔵庫みたいに寒いというどうしようもない代物だった。図書館が空いている時間は図書館で勉強し、寮には寝に帰るだけの生活だ。今は夏なので蒸し風呂のようになった部屋で勉強なんて出来たもんじゃない。
 そんな話を忠臣にしたら『ウチのマンションで勉強すれば良い。』とありがたいお誘いをいただいた。
 忠臣の一人暮らしのマンションはとても学生とは思えない立派な物だった。コンシェルジュとかいう何でも屋みたいな人が常駐している。もちろん冷房もバッチリ効いて過ごしやすい。その日も俺はなんの躊躇もなくヤツのマンションに上がり込んでいた。
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