みにくいオメガの子

みこと

文字の大きさ
上 下
23 / 30

17

しおりを挟む
「やっぱり健康が何よりだよ。」

真紘が学校に来られるようになった。お腹に力を入れたりするとまだ傷は痛いと言っている。でも出席日数もあるし、もうすぐ夏休みなので我慢して登校している。
トシくんが送り迎えをして勉強も見てくれているらしい。
真紘の親が心配するのでトシくんのマンションには行かず、真紘の家で勉強している。

「でも良かったよ。元気になって。」

「二人とも警察にお世話になるって。ヤバいよな。」

真紘は刺されて死にそうになった人にはとても見えない。
お弁当のウインナーを頬張っている。

「僕、今人生で一番頭が良いかも。トシくん、教えるの上手なんだ。入院中もずっと勉強してた。」

あの問題集の丁寧な説明を思い出した。真紘のためにトシくんも頑張っているんだな。
僕はずっと気になっていた事を聞いてみた。

「あのオメガどうなったの?」

「殺意はなかったって言って傷害罪になるみたいだ。僕もそれで良いと思う。トシくんも悪いんだし。」

「そっか。真紘は偉いな。トシくんの罪を一緒に償うってことだろ?」

だってあれはどう見ても殺意があっただろう。真紘を刺した時のあの顔が忘れられない。殺人未遂と傷害では雲泥の差だ。でも、トシくんのやった事で相殺するつもりなのだ。

「まぁね。仕方ないよ。『番う』ってこういうことだ。」

真紘がとても大人に見えた。

「祐一さんに言われたよ。」

「何て?」

「祐一さんもトシくんと変わらないって。そのせいで僕に何かあったらって。」

「あはは。まぁ、アルファなんてそんなもんでしょ。」

やっぱり真紘は大人だ。悟りの境地にいる。
確かにアルファは優秀だ。世界を動かしていると言っても良い。お金も権力もある。自分勝手で傲慢にならない訳がない。
真紘はトシくんのそんな所も丸ごと受け入れようとしている。愛されて、大事にされていると分かっているからだ。トシくんも真紘と出会って変わったはずだ。過去の人間関係をきっちり精算している。
まぁ、まだ詰めが甘かったけど。
祐一さんはどうかな?
僕はどうなるのかな?

「今日、祐一さんのマンションに行くんだろ?」

「え?う、うん。」

勉強を見てもらうのだ。付き合っている訳だし、何かあるかもしれないとは思ってるけど…。

「祐一さんなら大丈夫だよ。…たぶん。」

「たぶんって。」

「嫌だったらちゃんと言いなよ。」

「うん。」


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


「いや、こっちの公式を使うんだよ。」

「そっか…。」

祐一のマンションで勉強を教えてもらっている。
一人暮らしとは思えないくらいの広くて綺麗なマンションだ。
僕の予想に反して真面目に勉強してる。祐一さんは教え方が上手だ。あんなに分からなかった問題集もすらすら解ける。

「よし、終わった~。ありがとうございました。」

「どういたしまして。このまま頑張れば受験も大丈夫そうだね。」

「だと良いんですけど…。」

祐一さんが淹れてくれたお茶を飲んだ。もう三時間も経っている。集中していたから時間があっという間だ。

「じゃあ、今日はこれで…。」

「うん。送るよ。」

「大丈夫です。一人で帰れます。」

「ううん。送らせて。もう少し一緖に居たい。」

祐一さんが真剣な顔で僕を見ている。恥ずかしくなって目を逸らすと抱きしめられた。

「由紀の嫌なことはしないよ。」

呼び捨てだ。正式に付き合うようになってから僕のことを『由紀』と呼ぶ。僕は祐一さんと呼んでいるがさんは要らないと言われた。でも何だか急に呼び捨てなんて出来ない。年上だし。
ぎゅっと抱きしめられると何だかとても安心する。祐一さんからはふわりと良い匂いもする。

「由紀、すごく良い匂い。」

「祐一さんの方が良い匂いです。」

「…また敬語。さっきも敬語だった。」

「あ、ごめんなさい、じゃなくて…ごめん。」

『良いよ。可愛い』と言って頭を撫でられた。

「キスしても良い?」

「え?」

「ダメ?」

祐一さんが顔を覗き込んでくる。僕は小さく頷いた。
ちゅっと軽くキスをされてにこりと微笑んでくる。
またぎゅっと抱きしめられた。

「はぁ、本当に可愛い…。何でこんなに可愛いの?」

「…可愛くないですよ。」

真紘みたいなオメガなら分かるけど僕が可愛い訳ない。

「可愛いよ。ものすごく可愛い。可愛い過ぎるよ。」

恥ずかしくて何も言えなかった。



マンションの部屋を出てエレベーターに乗る。
祐一さんの部屋は最上階だ。

「由紀…。」

エレベーターの中で抱きしめられてまたキスをした。

「あ、カメラ、防犯カメラに写ってる…。」

僕は慌てて離れた。祐一さんは気にしてないみたいだ。
その後も祐一さんは車の中で何度もキスしてきた。
家の前で車を停めてまたキスをした。

「ダメだよ…。」

「ごめん。可愛いくて。」

「あの、今日はありがとうございました。あ!ありがとう。」

「ふふ。うん。また後で電話する。」

僕は車から降りて手を振った。祐一の車が角を曲がったのを見届ける。
キス以上はなかったな。ほっとしたようなそうでないような…。
ダメだ、僕は受験生だ。邪念を振り払って家に入った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

番を解除してくれと頼んだらとんでもないことになった話

雷尾
BL
(タイミングと仕様的に)浮気ではないのですが、それっぽい感じになってますね。

初恋の公爵様は僕を愛していない

上総啓
BL
伯爵令息であるセドリックはある日、帝国の英雄と呼ばれるヘルツ公爵が自身の初恋の相手であることに気が付いた。 しかし公爵は皇女との恋仲が噂されており、セドリックは初恋相手が発覚して早々失恋したと思い込んでしまう。 幼い頃に辺境の地で公爵と共に過ごした思い出を胸に、叶わぬ恋をひっそりと終わらせようとするが…そんなセドリックの元にヘルツ公爵から求婚状が届く。 もしや辺境でのことを覚えているのかと高揚するセドリックだったが、公爵は酷く冷たい態度でセドリックを覚えている様子は微塵も無い。 単なる政略結婚であることを自覚したセドリックは、恋心を伝えることなく封じることを決意した。 一方ヘルツ公爵は、初恋のセドリックをようやく手に入れたことに並々ならぬ喜びを抱いていて――? 愛の重い口下手攻め×病弱美人受け ※二人がただただすれ違っているだけの話 前中後編+攻め視点の四話完結です

Ωの不幸は蜜の味

grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。 Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。 そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。 何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。 6千文字程度のショートショート。 思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。

番、募集中。

Q.➽
BL
番、募集します。誠実な方希望。 以前、ある事件をきっかけに、番を前提として交際していた幼馴染みに去られた緋夜。 別れて1年、疎遠になっていたその幼馴染みが他の人間と番を結んだとSNSで知った。 緋夜はその夜からとある掲示板で度々募集をかけるようになった。 番の‪α‬を募集する、と。 しかし、その募集でも緋夜への反応は人それぞれ。 リアルでの出会いには期待できないけれど、SNSで遣り取りして人となりを知ってからなら、という微かな期待は裏切られ続ける。 何処かに、こんな俺(傷物)でも良いと言ってくれる‪α‬はいないだろうか。 選んでくれたなら、俺の全てを懸けて愛するのに。 愛に飢えたΩを救いあげるのは、誰か。 ※ 確認不足でR15になってたのでそのままソフト表現で進めますが、R18癖が顔を出したら申し訳ございませんm(_ _)m

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

処理中です...