みにくいオメガの子

みこと

文字の大きさ
上 下
16 / 30

10

しおりを挟む
「ただいま。」

玄関を開けると母の靴と見たことのない靴が並んでいた。
もう帰って来てるのか。週末に帰るって行ってたのに。
慌ててネックガードを外して鞄にしまった。こんなすごいネックガードを着けてたら何を言われるか分からない。

「おかえり~。」

リビングから母の声が聞こえた。

「ただいま。」

リビングには母以外に二人の女の人がいた。僕の顔を見てみんな口々に『おかえり』と言っている。
一人は母の姉の知子叔母さんだ。もう一人は見たことない人だった。

「週末に帰ってくるんじゃなかったの?」

「おばあちゃんがわがままで嫌になっちゃったのよ。ねぇ?」

そう言って知子叔母さんを見た。

「そうそう。すぐ怒るし、細かいし。子どもの頃とちっとも変わってない。これ以上一緒にいたらケンカになるから帰って来たの。ヘルパーさんを頼んだから大丈夫でしょ。」

知子叔母さんは呆れたような疲れたような顔で言った。

「由紀ちゃん、相変わらず可愛いわね。薬のこと里子に聞いたよ。大変だったね。もう身体は良いの?ほら、突っ立ってないで座りなさいよ。これお土産。お饅頭食べる?」

「うん。もう大丈夫。」

相変わらずおしゃべりだ。母の家系はみんなそうだ。僕にもその血が流れてるはずなのに。

「この子が由紀くん?」

もう一人の女の人が僕をまじまじと見ている。

「そうよ。由紀ちゃん、この人は叔母ちゃんたちのお華の先生。池上流の偉い人なのよ~。」

「はじめまして。由紀です。」

「はじめまして。やだ、すごい可愛いじゃない。オメガでしょ?」

母たちと同じくらいの歳の人だけど上品でキレイだ。お華の先生って感じがする。

「はい。」

「智明ったら、こんなに可愛い子を…。」

『ピンポーン』

玄関のチャイムが鳴った。まだ誰か来るのかな?

「あ、僕出るよ。」

母にそう言って玄関のドアを開けた。
男の人が立っていた。アルファだ…。背が高くてイケメンだ。

「あの、中原さんのお宅ですか?」

「あ、はい。」

するとリビングからお華の先生が出てきた。

「母さん。」

先生を見た男の人が呟いた。
先生の息子なのか。どこかで見た気がする。

「智明、由紀くんこんなに可愛いじゃない。全くあなたって子は…。」

「えっ?由紀くん?」

その人は驚いたような顔で僕を見た。
あ、思い出した。叔母さんの紹介でお見合いした人だ。

「あ、その節はお世話になりました。」

あまり良い印象はないけど一応挨拶をした。
智明と呼ばれたその人はまだ驚いた顔で僕を見ている。

「智明くん、久しぶりね。上がってお茶でも飲んでいきなさいよ。」

知子叔母さんが出てきてまるで自分の家のように上がっていけと言っている。

「あ、じゃあ。お邪魔します。」




何故か僕もリビングでお茶を飲んでいる。母たちはお華の展覧会の話に夢中だ。話のほとんどが人の噂話だけど、三人とも生き生きしている。
僕はとても居心地が悪い。さっきから智明さんがじっと見ているのだ。

「あ、あの…。」

「本当に由紀くん?あの時の子?」

「はい。」

僕は抑制剤の副作用の話をした。あの時はアルファの威嚇フェロモンを放っていたので印象が違うかもしれないと言った。

「うん。全然違う。すごく可愛い。ねぇ、今度デートしない?」

今度は僕がびっくりした。みんながいる前で堂々とデートに誘うなんて…。よっぽど自信があるんだな。

「あら、良いじゃない。」

「由紀、智明くんと前にお見合いしたんでしょ?」

母と知子叔母さんが話に入ってくる。

「えっ…うん。」

「デートしようよ。今週の土日はどう?」

智明さんはぐいぐい近づいてくる。みんなが見てるし断りづらい。

「は、はい。えと、日曜日なら。」

「本当?嬉しいな。じゃあ連絡先交換しよう。」

僕と智明さんはスマホを取り出して連絡先を交換した。




「由紀、嫌なら断っても良いのよ?」

みんなが帰った後母に言われた。

「別に嫌じゃないよ。ただ…。」

「ただ?」

「知子叔母さんやお母さんみたいに社交的じゃないから。緊張しただけ。」

「そう。でも智明くん、すごいのよ。T大の二年生だって。」

母はさっき聞いた智明さんのプロフィールに食い付いている。僕と智明さんがお見合いをしたのは三ヶ月くらい前だ。その時はまだ早いでしょ、と言って全く興味がなかったのに。
お見合いと言っても本格的なものではなく軽く会っただけだ。写真もプロフィールもなかった。
喫茶店で待ち合わせをして僕の顔を見た瞬間にがっかりされたことを思い出した。一時間ほど一緒にお茶を飲んで解散した。
明らかに嫌そうだったな。『こんなオメガ…』って言ってた。
まぁ、僕はドリアンだし。仕方ない。もう、過去は気にしない。

夜、智明さんとメッセージのやり取りをしている。智明さんも積極的だ。『可愛い』とか『すごくタイプ』だとか送ってくる。僕はこういったことに慣れていない。返信に困ってしまう。
もう寝ます、と送ってお終いにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

ずっと、君しか好きじゃない

尾高志咲/しさ
BL
この婚約を破棄したら、大切な彼は王になれない…。 異世界+婚約破棄+オメガバース(拗らせα×健気Ω) シセラ王国きっての大貴族である公爵家の末子、フロルは銀髪に紫の瞳の美しいオメガだ。アルファの王太子レオンの18歳の成人の日には、二人の婚姻の儀が行われる。ところが、式を二か月後に控えたある日、宮廷ではレオンに「運命の相手が現れた」との噂が飛び交う。 フロルが王宮に向かうと、レオンは温室で金髪のオメガ、メイネと過ごしていた。そこでフロルはレオンの本音を聞いてしまう。大貴族の子である自分との婚約を破棄すれば、レオンは廃嫡になるかもしれない。必死で彼を庇うフロルの心は、レオンにも周囲にも届かなくて……。 ◇王太子α×公爵令息Ω ◇拗らせ攻め×健気受け ◆中盤まで主人公が不憫ですがラストはハピエンです。本編の後に番外編を追加。 ◆R18表現のある回には※マークが副題に入ります。 ★本作よりPNを変更&併記しております。詳細は近況ボードをご覧いただければ幸いです。 🌸HOTランキング掲載ならびにたくさんのご感想やいいね、エールをありがとうございます!! 🌟素敵な表紙はpome村さんが描いてくださいました。ありがとうございました!

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

【R18】清掃員加藤望、社長の弱みを握りに来ました!

Bu-cha
恋愛
ずっと好きだった初恋の相手、社長の弱みを握る為に頑張ります!!にゃんっ♥ 財閥の分家の家に代々遣える“秘書”という立場の“家”に生まれた加藤望。 ”秘書“としての適正がない”ダメ秘書“の望が12月25日の朝、愛している人から連れてこられた場所は初恋の男の人の家だった。 財閥の本家の長男からの指示、”星野青(じょう)の弱みを握ってくる“という仕事。 財閥が青さんの会社を吸収する為に私を任命した・・・!! 青さんの弱みを握る為、“ダメ秘書”は今日から頑張ります!! 関連物語 『お嬢様は“いけないコト”がしたい』 『“純”の純愛ではない“愛”の鍵』連載中 『雪の上に犬と猿。たまに男と女。』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位 『好き好き大好きの嘘』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高36位 『約束したでしょ?忘れちゃった?』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高30位 ※表紙イラスト Bu-cha作

【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました

桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて… 小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。 この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。 そして小さな治療院で働く普通の女性だ。 ただ普通ではなかったのは「性欲」 前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは… その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。 こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。 もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。 特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

淫魔はお嫌いですか?

リツカ
BL
生まれてからずっと、自分をただの狼獣人だと思って生きてきたノア。しかし、謎の体調不良をきっかけに、実は父親が淫魔だという衝撃の事実を知らされる。 謎の体調不良もノアに淫魔の特性が現れたことによる飢えが原因らしく、ノアは誰かとセックスをしなければ空腹で死んでしまうのだという……。 そんなノアには、幼い頃から片思いをしている相手がいた。幼馴染のロウという騎士だ。 気持ちを伝えたところで、おそらく振られてしまうことはわかっている。ロウはきっと、ノアのことをただの幼馴染としか思っていない。 でも、もしロウがノアを助けてくれたら──……僅かな期待と大きな不安を胸に、ノアは王都で暮らすロウの元へと向かった。 強面狼獣人×淫魔の血を引く平凡狼獣人。 『ミルクはお好きですか?』のスピンオフ。 ※人間、獣人、魔族が存在する世界の話。獣人と魔族は性別に関係なく結婚や妊娠が可能。 ※見た目はほぼ人間で、興奮したり気が立ったりすると牙や耳や尻尾がでるタイプの獣人です。

【R18】翡翠の鎖

環名
ファンタジー
ここは異階。六皇家の一角――翠一族、その本流であるウィリデコルヌ家のリーファは、【翠の疫病神】という異名を持つようになった。嫁した相手が不幸に見舞われ続け、ついには命を落としたからだ。だが、その葬儀の夜、喧嘩別れしたと思っていた翠一族当主・ヴェルドライトがリーファを迎えに来た。「貴女は【幸運の運び手】だよ」と言って――…。 ※R18描写あり→*

処理中です...