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「ただいま。」
玄関を開けると母の靴と見たことのない靴が並んでいた。
もう帰って来てるのか。週末に帰るって行ってたのに。
慌ててネックガードを外して鞄にしまった。こんなすごいネックガードを着けてたら何を言われるか分からない。
「おかえり~。」
リビングから母の声が聞こえた。
「ただいま。」
リビングには母以外に二人の女の人がいた。僕の顔を見てみんな口々に『おかえり』と言っている。
一人は母の姉の知子叔母さんだ。もう一人は見たことない人だった。
「週末に帰ってくるんじゃなかったの?」
「おばあちゃんがわがままで嫌になっちゃったのよ。ねぇ?」
そう言って知子叔母さんを見た。
「そうそう。すぐ怒るし、細かいし。子どもの頃とちっとも変わってない。これ以上一緒にいたらケンカになるから帰って来たの。ヘルパーさんを頼んだから大丈夫でしょ。」
知子叔母さんは呆れたような疲れたような顔で言った。
「由紀ちゃん、相変わらず可愛いわね。薬のこと里子に聞いたよ。大変だったね。もう身体は良いの?ほら、突っ立ってないで座りなさいよ。これお土産。お饅頭食べる?」
「うん。もう大丈夫。」
相変わらずおしゃべりだ。母の家系はみんなそうだ。僕にもその血が流れてるはずなのに。
「この子が由紀くん?」
もう一人の女の人が僕をまじまじと見ている。
「そうよ。由紀ちゃん、この人は叔母ちゃんたちのお華の先生。池上流の偉い人なのよ~。」
「はじめまして。由紀です。」
「はじめまして。やだ、すごい可愛いじゃない。オメガでしょ?」
母たちと同じくらいの歳の人だけど上品でキレイだ。お華の先生って感じがする。
「はい。」
「智明ったら、こんなに可愛い子を…。」
『ピンポーン』
玄関のチャイムが鳴った。まだ誰か来るのかな?
「あ、僕出るよ。」
母にそう言って玄関のドアを開けた。
男の人が立っていた。アルファだ…。背が高くてイケメンだ。
「あの、中原さんのお宅ですか?」
「あ、はい。」
するとリビングからお華の先生が出てきた。
「母さん。」
先生を見た男の人が呟いた。
先生の息子なのか。どこかで見た気がする。
「智明、由紀くんこんなに可愛いじゃない。全くあなたって子は…。」
「えっ?由紀くん?」
その人は驚いたような顔で僕を見た。
あ、思い出した。叔母さんの紹介でお見合いした人だ。
「あ、その節はお世話になりました。」
あまり良い印象はないけど一応挨拶をした。
智明と呼ばれたその人はまだ驚いた顔で僕を見ている。
「智明くん、久しぶりね。上がってお茶でも飲んでいきなさいよ。」
知子叔母さんが出てきてまるで自分の家のように上がっていけと言っている。
「あ、じゃあ。お邪魔します。」
何故か僕もリビングでお茶を飲んでいる。母たちはお華の展覧会の話に夢中だ。話のほとんどが人の噂話だけど、三人とも生き生きしている。
僕はとても居心地が悪い。さっきから智明さんがじっと見ているのだ。
「あ、あの…。」
「本当に由紀くん?あの時の子?」
「はい。」
僕は抑制剤の副作用の話をした。あの時はアルファの威嚇フェロモンを放っていたので印象が違うかもしれないと言った。
「うん。全然違う。すごく可愛い。ねぇ、今度デートしない?」
今度は僕がびっくりした。みんながいる前で堂々とデートに誘うなんて…。よっぽど自信があるんだな。
「あら、良いじゃない。」
「由紀、智明くんと前にお見合いしたんでしょ?」
母と知子叔母さんが話に入ってくる。
「えっ…うん。」
「デートしようよ。今週の土日はどう?」
智明さんはぐいぐい近づいてくる。みんなが見てるし断りづらい。
「は、はい。えと、日曜日なら。」
「本当?嬉しいな。じゃあ連絡先交換しよう。」
僕と智明さんはスマホを取り出して連絡先を交換した。
「由紀、嫌なら断っても良いのよ?」
みんなが帰った後母に言われた。
「別に嫌じゃないよ。ただ…。」
「ただ?」
「知子叔母さんやお母さんみたいに社交的じゃないから。緊張しただけ。」
「そう。でも智明くん、すごいのよ。T大の二年生だって。」
母はさっき聞いた智明さんのプロフィールに食い付いている。僕と智明さんがお見合いをしたのは三ヶ月くらい前だ。その時はまだ早いでしょ、と言って全く興味がなかったのに。
お見合いと言っても本格的なものではなく軽く会っただけだ。写真もプロフィールもなかった。
喫茶店で待ち合わせをして僕の顔を見た瞬間にがっかりされたことを思い出した。一時間ほど一緒にお茶を飲んで解散した。
明らかに嫌そうだったな。『こんなオメガ…』って言ってた。
まぁ、僕はドリアンだし。仕方ない。もう、過去は気にしない。
夜、智明さんとメッセージのやり取りをしている。智明さんも積極的だ。『可愛い』とか『すごくタイプ』だとか送ってくる。僕はこういったことに慣れていない。返信に困ってしまう。
もう寝ます、と送ってお終いにした。
玄関を開けると母の靴と見たことのない靴が並んでいた。
もう帰って来てるのか。週末に帰るって行ってたのに。
慌ててネックガードを外して鞄にしまった。こんなすごいネックガードを着けてたら何を言われるか分からない。
「おかえり~。」
リビングから母の声が聞こえた。
「ただいま。」
リビングには母以外に二人の女の人がいた。僕の顔を見てみんな口々に『おかえり』と言っている。
一人は母の姉の知子叔母さんだ。もう一人は見たことない人だった。
「週末に帰ってくるんじゃなかったの?」
「おばあちゃんがわがままで嫌になっちゃったのよ。ねぇ?」
そう言って知子叔母さんを見た。
「そうそう。すぐ怒るし、細かいし。子どもの頃とちっとも変わってない。これ以上一緒にいたらケンカになるから帰って来たの。ヘルパーさんを頼んだから大丈夫でしょ。」
知子叔母さんは呆れたような疲れたような顔で言った。
「由紀ちゃん、相変わらず可愛いわね。薬のこと里子に聞いたよ。大変だったね。もう身体は良いの?ほら、突っ立ってないで座りなさいよ。これお土産。お饅頭食べる?」
「うん。もう大丈夫。」
相変わらずおしゃべりだ。母の家系はみんなそうだ。僕にもその血が流れてるはずなのに。
「この子が由紀くん?」
もう一人の女の人が僕をまじまじと見ている。
「そうよ。由紀ちゃん、この人は叔母ちゃんたちのお華の先生。池上流の偉い人なのよ~。」
「はじめまして。由紀です。」
「はじめまして。やだ、すごい可愛いじゃない。オメガでしょ?」
母たちと同じくらいの歳の人だけど上品でキレイだ。お華の先生って感じがする。
「はい。」
「智明ったら、こんなに可愛い子を…。」
『ピンポーン』
玄関のチャイムが鳴った。まだ誰か来るのかな?
「あ、僕出るよ。」
母にそう言って玄関のドアを開けた。
男の人が立っていた。アルファだ…。背が高くてイケメンだ。
「あの、中原さんのお宅ですか?」
「あ、はい。」
するとリビングからお華の先生が出てきた。
「母さん。」
先生を見た男の人が呟いた。
先生の息子なのか。どこかで見た気がする。
「智明、由紀くんこんなに可愛いじゃない。全くあなたって子は…。」
「えっ?由紀くん?」
その人は驚いたような顔で僕を見た。
あ、思い出した。叔母さんの紹介でお見合いした人だ。
「あ、その節はお世話になりました。」
あまり良い印象はないけど一応挨拶をした。
智明と呼ばれたその人はまだ驚いた顔で僕を見ている。
「智明くん、久しぶりね。上がってお茶でも飲んでいきなさいよ。」
知子叔母さんが出てきてまるで自分の家のように上がっていけと言っている。
「あ、じゃあ。お邪魔します。」
何故か僕もリビングでお茶を飲んでいる。母たちはお華の展覧会の話に夢中だ。話のほとんどが人の噂話だけど、三人とも生き生きしている。
僕はとても居心地が悪い。さっきから智明さんがじっと見ているのだ。
「あ、あの…。」
「本当に由紀くん?あの時の子?」
「はい。」
僕は抑制剤の副作用の話をした。あの時はアルファの威嚇フェロモンを放っていたので印象が違うかもしれないと言った。
「うん。全然違う。すごく可愛い。ねぇ、今度デートしない?」
今度は僕がびっくりした。みんながいる前で堂々とデートに誘うなんて…。よっぽど自信があるんだな。
「あら、良いじゃない。」
「由紀、智明くんと前にお見合いしたんでしょ?」
母と知子叔母さんが話に入ってくる。
「えっ…うん。」
「デートしようよ。今週の土日はどう?」
智明さんはぐいぐい近づいてくる。みんなが見てるし断りづらい。
「は、はい。えと、日曜日なら。」
「本当?嬉しいな。じゃあ連絡先交換しよう。」
僕と智明さんはスマホを取り出して連絡先を交換した。
「由紀、嫌なら断っても良いのよ?」
みんなが帰った後母に言われた。
「別に嫌じゃないよ。ただ…。」
「ただ?」
「知子叔母さんやお母さんみたいに社交的じゃないから。緊張しただけ。」
「そう。でも智明くん、すごいのよ。T大の二年生だって。」
母はさっき聞いた智明さんのプロフィールに食い付いている。僕と智明さんがお見合いをしたのは三ヶ月くらい前だ。その時はまだ早いでしょ、と言って全く興味がなかったのに。
お見合いと言っても本格的なものではなく軽く会っただけだ。写真もプロフィールもなかった。
喫茶店で待ち合わせをして僕の顔を見た瞬間にがっかりされたことを思い出した。一時間ほど一緒にお茶を飲んで解散した。
明らかに嫌そうだったな。『こんなオメガ…』って言ってた。
まぁ、僕はドリアンだし。仕方ない。もう、過去は気にしない。
夜、智明さんとメッセージのやり取りをしている。智明さんも積極的だ。『可愛い』とか『すごくタイプ』だとか送ってくる。僕はこういったことに慣れていない。返信に困ってしまう。
もう寝ます、と送ってお終いにした。
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